二つのタイムラインー続・友達の友達ー

SNS上で友達になっている
大学時代の友人の
友達リストから見つけた
過ぎ去りしあなた

言葉を発することもなく
端末から ただただ投稿を眺めるうちに
二つの季節が駆けて行った

そんな中
赤ワインの炎に巻き込まれるようにタップした
友達リクエストのボタン

翌朝
目に飛び込む通知

リクエストを承認しました

そして
二人はSNS上で友達となった

そして受け取る
大黒柱でもあるあなたからの
お久しぶりのメッセージ

キャンパスの頃と私の苗字が違っても
あなたは気づいてくれたみたい

拍子抜けするほど懐かしんでくれて
流れるように始まる
近況報告のやり取り
文字の向こうに感じるあなたの気配

ワンタップで動き出した時間
幾度となく足踏みしていた自分が
何だかおかしく思えてくる

これで充分
これからはネット上の友達として……

そのつもりが
翌日も 端末を賑わすメッセージ達

  おはよう
  これから仕事
  今 昼休み
  これから帰るよ
  おやすみなさい
  また明日

そして
おはよう

その一方
タイムライン上で交換する
互いの投稿への いいね!

時の流れが
つれなかったあなたを
大人にしたのか

家にいても
外にいても
端末越しに感じるあなたの気配

あの頃は
まだ電話が頼りだった連絡の術
震える手で握る受話器
カタコトの異文化交流

若いあなたは
話し言葉が流暢な
ミス・キャンパスの手を取った

でも 今は
訥弁の片腕のような存在
端末経由のメッセンジャー

共に奏でる
書き言葉のリズム

正義を語る掲示板の声を遠ざけ
もう一つ上昇させる願いの階段

(誰か 私を 止めて)

あの頃
開くことなく
朽ち果てた青く小さな蕾

だけど 今なら咲き誇れそう
ひた隠しの黒い華としてならば

こちらから誘う文面を先取るように
届くメッセージ

近いうちに会わない?

二つ返事でタップする送信ボタン

(誰か 私を 止めて)

今までで一番近くに届きそう
夜の風船がふわふわして
たどり着けない夢の世界

(誰か 私を 止めて)

朝食を作っていても
夕食を作っていてもふわふわ
何着て行こう
どこ行こう

(誰か 私を 止めて)

不意に入り込む
ただいまの声
ママ一辺倒だった一人息子が
ドアから姿を現したパパに
よたよたと駆け寄る

ああ
この子には
この父親が必要なんだ

キッチンで支度中
幼な子がひっくり返した引き出しの中身から
ひょいと顔出す白い紙

あの頃
講義室で 一度だけ机を並べ
相談しながら記入した
エイト・フレーム・アウトカム*1

引き出しで待機し続けた
ただ一つの共通の品

あなたというアウトカム
設定してみようか

夜の沈黙の中
グラス片手にチェックしてみる
八項目

貴女のゴールは何ですか

ゴールが手に入ったら
何が見え、何が聞こえ、
どのような感じがしますか

そのために貴女は何をしますか

ここまで順調
次に進もう

(誰か 私を 止めて)

その結果が
自分と周りに影を落とすことは
ありませんか

……

墓場まで秘密を連れていけるなら
落とすことはないだろう

ああ だけど
それは荊棘の道を歩むようなもの

遠ざけたはずの掲示板の声が
耳元にフェードイン

笑顔を奪った代償と共に
変わるかもしれない
家族構成

深まる夜
握りしめる白い紙

ああ
引っ掛かっている
エコロジー・チェック*2

そもそもこれは
設定できないゴールだったんだ

そして
赤ワインの炎に巻き込まれるようにタップした
送信ボタン

ごめん やっぱり行けなくなった
次の予定を問われても
分からないのと
はぐらかすふり

そして途切れた
二人のリズム

しっぱなしだったログインがぱたと止む

願わくば
次の世で
名前も姿も別の者として
巡り逢わんことを……

数週間後の朝
ログインしてみると
私の(あなたの)友達リストには
残ったままのあなたの(私の)顔写真

SNS上の友達
きっとこれが
今世での
恐らく 二人の最終形

あなたはあなた
私は私

互いの領域を守りながら
それぞれのタイムラインに重ねる
アップロード

胸の内では
いいね!とタップ
したつもり

今でも
私の(あなたの)
タイムラインには

友達である
あなたの(私の)
投稿が顔を出す

端末の向こう側に感じる
気配をまといながら
また一日が始まる


*1.エイト・フレーム・アウトカム
NLP(神経言語プログラミング)と呼ばれる心理学の一分野で提唱された概念。目標達成に欠かせないアウトカム(目標、ゴール)を明確化させるために八つの項目(あなたのゴールは何ですか?/ゴールを手に入れることは、あなたにとってどのような意味がありますか?など)に答えるワークを行う。

*2.エコロジー・チェック
望ましい将来のイメージや、これからの取り組みが、周りの環境に調和しているか(エコロジー)をチェックすること。

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