待ちぼうけの情報気流
一人の人間が
他者から受け取り可能な
情報の容量には
限りがあり
それを越すと
新たな情報は入って来ない
日曜の午後
今日はLINEが賑わっている
スマホの画面左上に
小さく示される白い吹き出し
やっと返信が…！
(気流は上昇)
そう思い
すかさずチェック
ロック画面通知
表示された送り主の名前は
ママ友のグループメンバーのそれ
即座に既読にしてやる
(気流は下降)
再び画面左上に小さく示される
白い吹き出し
やっと返信が…！
(気流は上昇)
表示された送り主の名前は
ママ友グループの別メンバーのそれ
(気流は下降)
再び画面左上に小さく示される
白い吹き出し
今度こそ…！
(気流は上昇)
表示された送り主は
ママ友グループの別な別メンバーのそれ
(気流は下降)
あなたが入り込む余地を奪うかのように
大盛況のグループLINE
話題は明日の学校行事の事で持ち切りだ
乗り遅れる訳にはいかない
気流が乱高下する中
辛うじて流れには付いて行き
送信ボタンをタップ
やがてトークの嵐は止み
静寂
黙り込む待受画面
白い吹き出しは
一向に顔を出さない
乱高下により
容赦なく消費されたエナジー
い じ わ る
一日を終え
空元気の母親という仮面を外して横たわる
締め付けられるような夜
横ではすやすや寝息を立てる幼な児
配偶者を背にしながら
秘密のメッセージは
送り送られる時を
今か今かと待ち詫びる
一人芝居のような
隙間を埋める追いLINE
おやすみなさい
幾度となく寝返りを繰り返し
微睡みかけた所で
カーテンの隙間から差し込む光
鉛のような腕で
サイレントマナーの端末に
手を伸ばしてみる
再び画面左上に小さく示される
白い吹き出し
どうせまた
グループLINEの追伸か
懐疑が頂点に達した目でチェックした
ロック画面通知
表示された送り主の名前は…
ああ
待っていたのはこの名前
遅れてごめん
おはよう
いいの
寝不足の体に
一気に漲るエナジー
一人の人間が
他者から受け取り可能な
情報の容量には
限りがあり
それを越すと
新たな情報は入って来ない
昨日はそんな日だった
そして
夜は明けた
さあ
お弁当作ろう
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