片想い生活

公という言葉とは縁遠く
しかも一方通行

スマホの待受画面を飾る家族写真
偶然目にしても
時既に遅し

在宅勤務となり
ますます遠のく
その姿

フロアの隅から見つめることも
元よりまばらだった会話さえも
叶わなくなった
片想い生活

代わりに生まれた
朝のルーティン
寝床の中
小さく名前を呼び 
一人つぶやく

 おはようございます

ノートパソコンへのログインが
タイムカード代わりとなり
始まる業務

画面越しのミーティング
ずらずらと
四角い区切りが並ぶ中に
その姿はない

メンバーの顔が画面から消えた後は
黙々と書類作り

時折席を立ち
窓を開け 吐息を逃がす
空を仰ぐと そよぐ風に乗って
その気配が流れてくるような
包み込まれるような感覚を覚える
そこに証拠はないけれど

夕暮れ時には
ログアウトして
移動することなく退勤

 まだ 仕事中ですか
 お先に失礼します

そして 夜
夢が真(まこと)となり
肌を重ね合う

そんな夢から覚めた時
邂逅の喜びと共に広がる
空を掴むような現実

目尻から耳へと伝う二本の線
天井が滲んで見える

 告げるのも自分
 沈黙を守るのも自分
 それが片想いゆえの自由選択

 続けるのも自分
 幕を引くのも自分
 それが片想いゆえの美学

振り子の真ん中に立ちすくみ
幻のような気配を身に纏い
日々をただただ生きている

画面の向こうに
その姿を探しながら


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