午後の紅茶
シャコンヌは亡き妻のために書かれた。
そう言ってあなたは切なそうに
あの曲を奏でる。
きっとあなたには
バッハの気持ちなどわからない。
300年前でも人の気持ちは人の気持ち。
イマを唄わないあなたにはわからない。
美しさって副産物だと思うの。
格好の良さもだわ。
耐えきれず飛び出た血の吐瀉物を
伸ばしてそれを魂の羽毛で鳴らして
はじめて音楽は成るの。
いえ、それだけじゃない。
芸術ってきっとそういうものなんだわ。
吐瀉物を固めたヴィーナス。
その顔と身体を楽しみたいあなたには
きっとわからないでしょうね。
だからわたしはニコニコと微笑んで
部屋の隅で紅茶をすするの。
香りだけの、紅茶を。
/ルリニコクみみみ
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