新米勇者とオネエさん①Prologue

 
「お父さん、あそこには何があるの?」
「あそこにはね、夢と希望が詰まってるんだよ」
「ゆめときぼう?」
「そう、ここからじゃ見えないけど真っ青な青空や綺麗な茜色の空、満天の星が見える夜空。澄んだ空気や心地いい日差し、冷たい風を浴びることができる夢と希望」
「へえ、すごい!ぼくも行ってみたい!」
「アルフレッド、お前なら行けるよ。でも行くのなら大人になってから、だね」
 
 
 父親に手を引かれて道を歩きながら遠くに見える天高くそびえ立つ塔を見て、とてもわくわくしたのを今でも憶えている。
 
 あの塔には夢も希望も詰まっている。
 真っ青な青空も綺麗な茜色の空も満点の星が見える夜空も全てあそこにある。
 ぼくの生まれたここは季節もなにもないけれど、あそこに行けば見れるってお父さんは言っていた。
 何もないここに比べたらきっと、そこは楽園だともお父さんは言っていた。
 
 だからぼくは勇者になろうと思った。
 勇者になればぼくは遠くにでもいけると思った。
 勇者は世界を旅する人の総称だとも聞いた。だからぼくが勇者になったら見たこともない景色を見れるんだと思っていた。
 
 ────だけど。
 
 
 叶わなかった。
 ぼくは非力で弱虫だった。
 そのせいで試験を越えて勇者になったところで仲間を作る事も遠くに行く事も叶わなかった。
 丈夫な脚があっても行けない。非力だからどこからともなく現れる化け物すら倒せない。
 みんなが挑んで苦しい声を上げててもぼくは耳を塞いで隠れるしかなかった。
 
 なんて非力なんだ。ぼくは勇者なんかじゃない。
 ごめんなさい、ごめんなさい。
 お父さん、ぼくは無責任な想いだけで勇者になってしまいました───。
 
 
 
「アンタ、いつまで隠れてるつもりなの?」
 
 その声を聞いてハッとした。
 声の主は見慣れない、端正な顔立ちの男性だった。
 男性というわりにはとても中性的で一言で魔性という言葉がよく似合う、見る者全てを魅了するほどの美しさを兼ね備えていた。
 ぼくは彼を見て第一に思い出したのはお母さんの姿だ。
 お母さんはとても綺麗な人だった。お父さんのいう夕焼け色の髪はとても綺麗でいつも優しくて、抱擁力があった。
 ああ、大好きだったな。そんなことを思い出しながら涙浮かぶ目元を拭って立ち上がると彼を見上げる。
 
「あ、あの……どちら様で?」
「……アンタ、さっき契約交わしたでしょ!?」
「はいッ?!え、こんな美人さんとぼく、交わしたかな……?」
「褒めなくてよろし!さっき酒場で契約交わしたオリヴィエよッ!!非力なアンタに力貸してあげるって言ったでしょ、ほら!シャンとしなさい、目の前のゴミすら掃除できないんじゃ勇者様失格よ!」
 
 彼は身なりこそ軽装だというのにその場でステップをするだけで見る人を圧倒し、そして強い勇気を与える。
 そうだ、彼はオリヴィエ・メルレと言っていたかな。
 ぼくは酒場で偶然、途方に暮れるぼくの仲間になってくれた彼の事を思い出しながらその言葉に背を押されるように震える手で剣の柄を握って引き抜いた。
 
 
 お父さん、ぼくはもう一度、あの夢と希望を求めてみます。
 それは、ひとりじゃないかもしれない。
 でもいつかお父さんとお母さんに夢と希望を届けれるように、ぼくは大切な仲間と一緒に追いかけます。
 
 だから、どうか────。
 
 
「アンタ、独り言大きいわねぇ……」
「ひぃッ!!ごめんなさいごめんなさい!……つい癖で…えへへ」
「その頬緩みまくりなところも癖なのかしら?緊張感に欠けるわねぇ」
「あはは、それ取り柄です!」
「なんの取り柄にも長所にもなってないわよ」
 
 
 そんな辛口なオネエさんとぼくは追い求める物も望みも、願いも違うけれど一緒に旅する仲間──否、相棒としてあの塔を目指す事になった。




Twitterにあげていた呟きから派生した書き出しです。
これが件の呟き。創作BLです。


書いてから思ったのは
「あ、これ…ショートショートだなぁ」

特にふたりの絡みを書きたいだけの欲求が高くなってしまったので、このプロローグは単なる説明用の書き出しなので
ここからエンディングまで書くのではなく、適当にその場その場の場面を書いていく感じになりそう(なのて時系列などはごっちゃになる)
そうなるとこのプロローグの意味とは?
ってなりそうだけど、
ある意味このプロローグはこの二人の関係性や物語の大まかなストーリーを掘り下げるためのものになりそうな気がするので
より掘り下げて読者に分かりやすく伝える必要がありそう。

なので、これは没案ですが
ここから派生してしっかりとした土台を作りたいですね。
それからしっかりしたのが完成したら形にして短編をたくさんぶら下げていきたい。

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