「あの頃、文芸坐で」【55】大森一樹監督の医学映画を観に行った。そしてキャンディーズ。「土佐一本釣り」「ヒポクラテスたち」「前立腺の病気と予防」
1981年8月2日。真夏であります。文芸地下で「土佐一本釣り」と「ヒポクラテスたち」そして、大森一樹最新作と書いてあるのは、彼が作った医学映画「前立腺の病気と予防」だった。この日は、これが楽しみだったと記憶している。
* * *
コラムは、「暑中お見舞い申し上げます」ということで、この夏のプログラムについて語っています。考えれば、一つの名画座で、これだけの特集を行えたというのは凄いことですよね。今は、上映するだけでそれなりのお金がかかるのでしょう。興行を成功させて、利益を得ること自体が難しいわけで、シネコンも含め、映画の興行体制を考えなおす時期だと思います。とにかく、作り手も、それを配給する人もそれなりに夢がある映画舘という場になったらいいなと思ったりします。
* * *
プログラムは、文芸坐はSF特集の後、「エクスタミネーター」「戦争の犬たち」と懐かしいタイトル。文芸坐は、「名匠と文学」のあと、夏の恒例だった「社会を告発する!!PART4」が続く。作品のラインナップを見ると、反戦という枠から、社会的な問題全体に広がっている。今、これをやると興行的には難しいと言われるかもしれないが、本当にこういう映画を見せることは未来の国作りに向けて重要なことだと思う。こんな映画をかける硬派な映画館が増えて欲しいとも思う。難しいでしょうけどね…。オールナイトは、田中登監督が追加されている。5本、全て傑作ですね。
* * *
この日の3本立てには「青春診断」なるサブタイトルがついている。「ヒポクラテスたち」があってのタイトルだ。しかし、「土佐の一本釣り」とのカップリングというのは、普通の女の子に戻っていたキャンディーズの二人、田中好子と伊藤蘭の復帰出演映画のカップリングだったのだろう。スーちゃんは残念ながら今はいないが、キャンディーズは永遠に語り継がれるだろう。この2本だと、圧倒的にランちゃんの方が女優らしい仕事みたいに感じるが、スーちゃんもその後「黒い雨」などにも出て、日本映画史に名を残しているわけで、キャンディーズをリアルタイムで見ていた世代としては、映画というもので彼女たちが残っていることは本当によかったなとか思う時もあるわけです。
そんなことはともかく
「土佐の一本釣り」(前田陽一監督)
あまり、内容はよく覚えていない。加藤純平演じる、漁師の若者が年上の女である田中好子と結ばれて、男になって漁師として大きくなっていく話であるらしい。当時の私の評価は結構良い。まあ、当時の松竹の監督の中では最も安心して観ることが出来たのが前田陽一監督作品だった気はする。根本的に山田洋次監督が肌に合わないので、この頃の松竹映画自体に拒否感があったことは確かだ。
「ヒポクラテスたち」(大森一樹監督)
この日、この映画を観るのは2回目。当時は何回観ても共感するものがあった気がする。それは、私も大学生だったからだろう。主演の古尾谷雅人さんも今はもういないのは残念な限りなのと、時の儚さを感じる。上の写真、柄本明さんは、子持ちの役だったと思うが、若いですね。そして、写真にはいないが、この間亡くなられた斉藤洋一さんも印象的な映画だった。ある意味、医学部の学生を描いたドラマとして新しかった気がする。その後、テレビドラマでは似たようなものが出たが、最近はないですね。このコロナ禍を真っ向から描く医学部ものというのも観てみたい気がします。そして、ヒロインの蘭ちゃんのシーンで印象に残っているのは「自分で血を抜くシーン」ですね。この映画、蘭ちゃんは死んじゃうんですよね。主人公の古尾谷雅人も狂ってしまう。そう考えると、日本映画らしいとても悲しい青春映画だったのですよね。まあ、映画文脈的にはかなり新しさを感じましたけどね。
「前立腺の病気と予防』(大森一樹監督)
大森一樹は、医学に関する文化映画を二本撮っている。そのうちの一本をこの日観た。真面目な、前立腺の病気の予防を促すわかりやすい映画だったと記憶する。普通のこういう映画に比べれば柔らかさはあったかな?今は、YouTubeでこういう映画を多く流したりできるわけで、そういうものを撮る仕事を映画監督にやってもらっても面白いですよね。まあ、ギャラの問題と、監督の意思の問題はありますけどもね。そういえば、大森監督は今どうしていらっしゃるのでしょうか?
考えれば、キャンディーズ解散後、伊藤蘭と田中好子の女優共演はなかったですよね。今考えると実にもったいなかった気がします。蘭ちゃんは、最近、音楽活動も復活させていますが、スーちゃんが生きていたら、音楽での共演という話もあったかもしれませんね。色々、残念に思う2020年です。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?