「あの頃、文芸坐で」【30】篠田正浩監督の初期作品を初めて観た日「恋の片道切符」「乾いた湖」、他
1981年はオールナイトに通い出した年でもある。映画の量的なものに出会うためには有効だった。そして、若くしてできた話である。元々、夜は寝ないとダメな人なので、オールナイトで観た作品は、結構内容が混じっていたりしたのだが、それでも、多くの映画ファンと夜を過ごした日々は懐かしい。この日観たのは「日本映画監督大事典」篠田正浩①である。篠田監督のデビュー作「恋の片道切符」から松竹ヌーヴェルバーグと言われた作品群である。
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コラムは長嶺高文監督の「歌姫魔界をゆく」のお話。当時の私のこの映画に関する評価もここに書かれているとうりのものだったと思う。デジタル時代の今は、様々なことが試せるが、当時としては、映画でどちらかというとTV的な展開の映画を作ることは新しかった。そして、長嶺監督は自分の色を映画を撮れる監督だったので、私はすごく好感を持っていたのだ。この映画、この年の三月に「ル・ピリエ」で観ているので、詳しい話はその時に。
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プログラムは、文芸坐は「サウンド・オブ・ミュージック」「奇跡の人」の後に「フェリーニのローマ」「オーケストラ・リハーサル」のフェリー二監督の二本立て。奇しくも今年はフェリーニ監督の生誕100年に当たるということ。今、ちょうど、YEBISUGARDENCINEMAで特集が組まれています。ご興味のある方は、是非!
フェリーニ監督もこの当時は、まだ61歳。現役で新作が次々に公開されていた頃だから、本当に時の経つのを感じますね。そしてその後のプログラムが「オードリー・ヘップバーン ワンウーマンショー」今に至るまで、愛されるヘップバーン。それだけですごいですな。この特集で「ローマの休日」の前に脇役で出ている「初恋」が上映されているのは稀有なことですね。
文芸地下は、「宮本武蔵」のあとは、「狂い咲きサンダーロード」と「野獣死すべし」、そしてロマンポルノ二本立て。この並び、毛色の違うものを平気で並べる感じも当時の日本映画のカオス感なのかもしれません。そして、その後が、王道の黒澤明特集ですものね、文芸坐恐るべしです。
そして、オールナイトは、篠田正浩特集のあとは、原田芳雄スペシャル。当時の2000円は、まあコンサートで最安値の方でしょうね。でも、原田芳雄のライブを映画館で観られたというのは、すごいですよね。タイムマシンがあったら、戻って目に焼き付けたい感じですな。
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そして、文芸坐オールナイトです。日本映画の五本立て、同じ監督の作品ですが、結構、ヴァリエーションにとんでいて、後で観直した作品もあることもありますが、内容は覚えています。
「恋の片道切符」平尾昌晃がカヴァーしていた題名曲をモチーフにした歌謡映画。とはいえ、新人「篠田正浩」のデビュー作である。二本立ての添え物だと思うが、映画は結構しっかりしている。主演は小坂和也と牧紀子。売れないバンドマンとストリッパーの話だ。話としては新しい感じはしなかったが、結構まとまっている処女作である。
「乾いた湖」寺山修司脚本の松竹ヌーヴェルバーグらしい、性的な話題と政治的な話が交錯し、当時の若者たちの、前に進めないイライラがよく出ている作品だ。大島渚の「青春残酷物語」と見比べてもいいのかも。中に学生服の寺山修司が出てくるところで映画館に笑いが出たのが記憶にある。主演は三上真一郎、岩下志麻。上の写真にあるように、志麻さんはシュッとした美人であった。
「夕陽に赤い俺の顔」これも、寺山修司のオリジナル脚本だが、「乾いた湖」とは全く毛色の違う、アクション映画である。当時の日活アクションに対抗したとさえ思える、殺し屋たちの話。ここでも志麻さんはお綺麗だが、ヤギを連れて歩く炎加世子が印象に残る。ヌーヴェルバーグの映画に欠かせない無頼な女優である。いつの世も映画のスクリーンにこういう鋭い眼を見ると、男たちは吸い込まれてしまう。そして、この映画、結構面白いです。
「三味線とオートバイ」川口松太郎原作なので、大映で川口浩、野添ひとみで撮ってもいいような作品だ。ここでの主演は桑野みゆきと川津祐介の「青春残酷物語」のコンビ。監督もそっちのテイストに舵を取りたいが、親子問題などが絡んで絡んでいて、中途半端な出来の印象だった。ただ、桑野みゆきは可愛い。彼女もこの手の作品に出続けたらまた違う女優のイメージが残っていたかもしれないですね。
「山の讃歌 燃ゆる若者たち」この作品は、この時観ただけである。だが、山本直純の音楽をはじめとして結構記憶に残っている。有馬頼義の原作。主演は田村高廣、倍賞千恵子、岩下志麻。前記4作品に比べれば、ヌーヴェルバーグ的な新しさはない。会社がもう、そういうものを作らせなかったということだろう。そして、山登りへの挑戦の映画でわかりやすかったのもあるのだろう。オールナイトの最後の作品にしては、記憶に残っているのである。
とにかく、当時、一晩で同じ監督の作品を五本観るという行為は面白かった。だが、この5本のうち「恋の片道切符」以外はカラー映画(二本立てのメイン作品ということ)だったのだが、フィルムは退色し、赤茶けたものしかなかったのは残念なのと同時に、それが思い出深かったりもする。40年後、デジタル時代でこの辺りの補正が簡単にできる時代になるとは夢にも思わなかったが、今も、古いフィルムが全て生き返っているわけではない。映画会社はこの辺りのところをどう考えているのだろうか。今回のコロナショックで、またこういう文化の復元事業が立ち止まってしまうと思うと、少し悲しい気がする。