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追悼 渡哲也 日活アクション最後のヒーロー。本当に格好良いと言える役者

 8月10日に渡哲也さんが亡くなったと突然の訃報。今年は、宍戸錠さんの死があって、ここで渡哲也さんの訃報。日活アクションを愛するものとしては、本当に星が散っていく感じ。辛い。これで、日活で主役を張ったスターは、小林旭さんと高橋英樹さんの2人になった。とりあえず、どちらもまだ元気そうである。でも、旭さんはこの間奥様を亡くしていましたね…。とにかく、長生きしていただきたい。

渡哲也といえば、大都会、西部警察という人も多いとは思うが、やはり、日活アクションの最後を支えたスターである。当時の映画を何度観ても、格好いい。こんなスターは今いない。初期の作品を観ると、セリフはうまくないし、芝居が上手いわけでもない。ただ、その存在感だけでスクリーンを駆けていた感じ。

デビュー作「あばれ騎士道」は宍戸錠の弟役、ここでも存在感は大きい。大学を出てすぐこういう雰囲気の若者は今なかなかいない。初期作品は、石原裕次郎との競演も多く、吉永小百合とのコンビの青春映画も多い。どれも、渡哲也というスターを今に伝える。

そして「東京流れ者」。鈴木清順監督の変則映画ではあるが、不死鳥の哲という役所は、渡哲也の印象を観客に大きく訴えかける。やくざの足を洗い、東京からの逃亡を繰り返す姿は、渡哲也の役柄のスタンスを形作った感じもする「流れ者には女はいらない」というイメージ。

そして、女に現を抜かし、最後は女に裏切られる「紅の流れ星」。舛田利雄監督のキレの良い演出もあり、ここでの軽い感じのチンピラはまた渡哲也の一面として残る。こういう役がその後、あまりなかったのは少し寂しい気もする。何度見ても、哲也の格好良さに惚れる。ここでの殺し屋は宍戸錠。今頃、あの世でまたバトルしているのだろうか?

そして、渡哲也は1971年の日活アクション崩壊まで、主役を張り続ける。石原裕次郎と親交はありながらも、彼はこの時、日活に俳優として火花を散らせている。そして残る、人斬り五郎の「無頼シリーズ」。ここでも、やくざから足を洗えない男の虚しさみたいな感情を鮮烈にスクリーンに刻み込んでいる。傍にいる松原智恵子もまた印象的。

そして、日活最終作「関東破門状」。ラストシーン、旧新宿日活の前の歩道に血だらけで倒れ込み、日活アクションの終わりをその身体で告げたような渡哲也であった。

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日活が路線変更し、東映で深作欣二監督に出会う。「仁義の墓場」は東映でしかできない醜いやくざ像を見事に演じる。そこで、新しい渡哲也が作られた感じがしたが、その路線も次の「やくざの墓場 くちなしの花」で終わり。裕次郎と違い、何本かの映画に出演できたものの、やはり、もっとスクリーンで彼の姿を観たかったし、石原プロとして映画を作りたかったことだろう。

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裕次郎がプロダクション維持のために、「太陽にほえろ!」を受け、ヒット。そして、プロダクションとして「大都会」「西部警察」と渡哲也はお茶の間のヒーローに変貌する。1時間ドラマを長きにわたって放送し続ける生活は渡哲也の俳優人生で輝いていたのか?結果的には体力を奪った気もする。昨晩、追悼の言葉を出している多くの人は、テレビでファンになった方だろう。そういう意味では彼のドラマシリーズは大事な歴史だが、今のテレビの状況を考えると、いろいろ考えてしまう。

ちなみに、私はテレビでは「浮浪雲」が好きである。ああいう、飄々とした芝居をもっとして欲しかった気もする。あれは「紅の流れ星」の哲也に通じるものがありますよね。

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この春、石原プロ解散のニュースが広がった。裕次郎の法要も一区切りしということだったが、その役目を終えて、糸が切れたのかもしれませんね。でも、まき子さんより先に逝くのは違ったかな。

高度成長期の最後、映画産業の黄金時代が終わる時に生まれたスター、渡哲也。時代の環境を加味しても、2度と同じようなスターは生まれない気はする。それは、石原裕次郎とはまた違った意味でである。

とはいえ、私にとって残された日活アクション映画は宝物である。死ぬまで、観続けて行こうと思うわけであります。

さらば、渡哲也、また逢う日まで!

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