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「あの頃、文芸坐で」【76】戦後日活初期を支えた監督、久松静児と古川卓巳を観た夜

1982年4月24日、文芸坐オールナイト、古川卓巳監督と久松静児監督の特集を観に行く。とはいえ、2本ずつの上映で特集というには寂しかったが、結構記憶にある4本だ。

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まずはコラム。52歳のオードリー・ヘップバーンがソフトフォーカスなどで誤魔化さないでCM撮影したという話。年齢なりに彼女は存在したという話だろう。修正がデジタルで一瞬の現在では、こういう心構えも存在しなくなったのかもしれない。それが、いいのか悪いのかは知らないが、今の52歳と40年前の52歳もはっきり違うものがある。そういう点では女性の美的感覚自体もかなりの変化を示しているのだろう。

そして、プログラム、文芸坐は「愛と哀しみのボレロ」と「フェーム」の二本立てが追加されている。この頃の映画はタイトル見るだけでワクワクしますよね。そういう意味で青春期って大事だなと、この歳になって思います。若い人たちは、とにかくいろんなコンテンツを若いうちに浴びることだと思います。その量の差が、歳をとっていろんな化学反応を起こします。文芸地下は「冒険者カミカゼ」と「セーラー服と機関銃」の二本立てが追加。「セーラー服〜」はまだ完璧版が出ていない時ですね。「冒険者カミカゼ」は今年亡くなった千葉真一氏に秋吉久美子嬢が共演という珍品?だが、結構面白かったと記憶しています。オールナイトは深作欣二監督の登場。深作氏の作品は、黒澤明を観るよりも先に若者たちに見てほしいと私は思っています。まあ、不良のとんがった映画ですよね。

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そしてこの日観た映画

「警察日記」(久松静児監督)
これは、テレビで見たことがあった。子役の二木てるみと、これがデビュー作の初々しい宍戸錠に会える映画。まあ、田舎の警察のハプニングの連続の話だが、実によく纏まっている映画だ。久松監督の日活時代の映画は、みんな似たような体裁をしていて、映画の基本的な勉強になったりする。久松監督は東宝に移っても、駅前シリーズやクレイジーの作品も手がけ、器用さが光る印象で、私は結構好きである。

「神坂四郎の犯罪」(久松静児監督)
石川達三原作、森繁久彌主演の裁判劇である。私はこの時、この映画については何も知識を得ずに見たのだが、結構、面白かった。結局、真実は藪の中みたいな終わり方だったが、事業の横領の話なので、いつ見ても十分面白いということだったと思う。ここにも、新聞記者役で宍戸錠が出ていたのは印象的だった。まだ、日活アクションが始まる前、宍戸錠は、普通の俳優だったのだということです。同じ久松監督の「おふくろ」の彼も私には印象的ですね。森繁と久松監督は、この後、駅前シリーズなどでもコンビを組む感じなのですが、その中の一作「地の涯手に生きるもの」は、このロケ地で「知床旅情」が生まれたことでも有名だが、好きな一本。久松監督作品では、「警察日記」だけがよく取り上げられるが、もっと他の映画も皆さんに見ていただきたいと思います。

「太陽の季節」(古川卓巳監督)
石原慎太郎の芥川賞受賞作品の映画化権をとって、これを映画化したことが日活を大きく動かしたと言っていいだろう。これも、私は先にテレビで見ていた。石原裕次郎の初出演作品であり、そのことにより、彼が主役として担ぎ出され、日活アクションという世界が始まる。そういう意味では、この原作が他の映画会社に権利がいっていたら、裕次郎はまた違う映画人生を歩んだかもしれないということなのだと思う。とはいえ、この映画自体は、最後に主演の太陽族の長門裕之の恋人の南田洋子が妊娠中絶の末に死んでしまうという結末で、悲惨な話である。こういう話が当時はセンセーショナルだったのだろうが、何度見てもあまり好きにはなれない話である。

「拳銃残酷物語」(古川卓巳監督)
大藪春彦原作で宍戸錠主演のハードボイルド。日本ダービーの現金輸送車を襲う話だが、最後の札束が降るところしか印象にない。「拳銃は俺のパスポート」や「みな殺しの拳銃」に比べたら、凡庸な作品である。その辺は監督の差というところだと思う」

久松監督と古川監督は、日活のアクションになる以前の映画群を語る上で重要な監督なのである。古川監督はアクションも多くとっているが、どうも今ひとつ印象的な作品はない。やはり、日活アクションは若い監督と若いスターたちで作られたものだということだ。とはいえ、久松監督は宍戸錠という逸材の演技の基礎を作った人であり、古川監督は「太陽の季節」を世に出した人と考えれば、この二人なくして日活アクションは語れないとも言えるのでしょうね。そう考えれば、この4本立て、結構、濃いのですよ!



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