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「あの頃、文芸坐で」【59】日常音のリアルさ。そして、愛の形の儚さ「風たちの午後」

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今年初めて書く、文芸坐の思い出である。1981年9月26日「風たちの午後」と「純」の二本立ての「風たちの午後」だけを、見にいく。それくらい「風たちの午後」という映画をもう一度見たかったということである。

この頃になると、文芸坐だけでなく、成人映画館初め、いろんなところに足を伸ばすようになっている。もはや、大学生である間は映画館漬けのような状態だった。ビデオデッキがまだそんなに普及していない時代。ソフトなど、ほとんど発売しておらず、金回りのいい人だけがテレビを録画してコレクションしていた時代だ。映画館はさまざまな形態で映画を見せてくれた。

ちょっと話を少し前に戻す。9月7日には、久保講堂で森田芳光のメジャーデビュー作「の・ようなもの」を試写で観る。まあ、面白かった。新しいものを観たという記憶がある。

そして、9月9日には、今は亡き、飯田橋佳作座で「二百三高地」「漂流」の二本立て、この長丁場の二本立てを観る暇と体力があったことに若さを感じる。「二百三高地」は、大ヒットをしたときに見に行っておらず、このとき初見。確かによくできていると思った。舛田利雄監督は今年94歳でまだご存命。つまり、これを撮った時は54歳。まあ、ベテランの力でまとめられた映画なんですよね。インターバルの「防人の歌」で歌詞が出てくるのには、参ったけどね。「漂流」は吉村昭原作のものを、森谷司郎が映画化したものだが、退屈な長い映画だった。森谷監督って、最終的には大作ご用達監督みたいになっちゃったけど、そういう映画は向いてなかったと思うのですよね。彼の作品で私が一番好きなのは「放課後」です。

そして、翌日の9月10日には、シネマプラセットに「陽炎座」を見にいく。移動式ドームで観る清順映画は、まさにロードショー。まあ、「ツィゴイネルワイゼン」に比べると、もっとわかりにくい感じだったけど、清純美学は見事に華開いていた感じ。楠田枝里子さんは、今考えれば、これに出たことはすごい経験でしたね。

そして12日、松竹大宮ロキシーに、タダ券で「男はつらいよ なにわの恋の寅次郎」と「俺とあいつの物語」を観る。山田洋次監督に対して、私は全く興味がないといってもいい。だから、寅さんを有料で観たことはない。ファンの人には悪いが、私は寅さんみたいな人が好きではないのだ。ちなみにこのときのマドンナは松坂慶子でした。そんな寅さんの併映作に武田鉄矢の映画がきていたのは、「幸せの黄色いハンカチ」に彼が出演していたおかげではあろう。特に彼にも興味はないのだが、この映画は伊藤蘭が武田の相手役ということで観る価値があった。この当時の蘭ちゃんはとにかくかわいい。

余談が長くなったが、本題の文芸坐の話です。

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まずは、コラム。「スーパーマンⅡ」「魔界転生」が面白かったという話。「陽炎座」の自由奔放さも新鮮という評。そして、「の・ようなもの」が楽しみという流れ。私が先に書いた文章もそうだが、映画ファンは、観た作品で同時代性を感じる。そういう意味で、映画館で映画を観るということは素敵なことなのだと思うのだ。今日も、日本中のさまざまな映画館でさまざまな視座に立って、同じ映画を観ている人がいる。そう考えるだけで、ちょっと嬉しくなりますよね!

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プログラムを観ると、文芸坐はウッディ・アレンの二本立ての後は「スターウォーズ・帝国の逆襲」と「未知との遭遇 特別編」の二本立て、その後の「第8回陽のあたらない名画祭」はシネマオリンピックと題して、14カ国の映画を上映。別にこの年はオリンピックイヤーでもないのにオリンピックだそうです。すごい企画ですよね。そう、昨年だって、オリンピック延期になって、夏にこのくらいの企画をシネコンでやるとかすればよかったんですよね。大体、オリンピック=スポーツっていう考え方がいけない気もします。

文芸地下は、次が「炎のごとく」「ええじゃないか」そして「魔界転生」に「新・八犬伝」をつけるという不思議な二本立て。そして、東陽一二本立てと、それなりに集客できそうなラインナップ。

オールナイト、日本映画監督大事典は、まず田坂具隆監督特集。この監督、もっといい映画がいっぱいあるのに!と思うし、一回じゃ足りないだろうと思うのだが、結構、地味な三本立て。錦之助の二本はあまり観る機会がない2本ですね。次が、土本典昭監督と小川紳介監督のドキュメント4本立て。この辺りが上映される機会も本当に減りましたが、こういうのをストリーミングに入れておいて欲しいものです。若い人に見せるのにはそれが一番。そして、円谷英二特技監督としての5本立て。なかなか、良いセレクトだと思います。「空の大怪獣ラドン」は私の好きな一本です。

そして、ル・ピリエでは、焦熱のロックンロール編として、コンサート!あの狭い中で、ルースターズ、ヒカシュー、子供ばんど、BOW WOWというラインナップ。盛り上がったんでしょうね。

そう、この頃の文芸坐みたいに、映画、音楽、舞台、なんでもやるような「シネコン」というより「エンタメコンプレックス」が欲しいんですよね。映画館は換気がいいということで売っているんだから、アフターコロナでそういうシネコンが出てきて欲しいものです。もちろん、名画座機能も作って欲しいしね。

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そして、矢崎仁司監督の「風たちの午後」をまた観た話。一回目は、イメージフォーラムでのロードショー。ここで再度の鑑賞。最近のジェンダーを意識した映画では、この映画のようなレズビアンを描くことは、それほど珍しく無くなったが、この時代はポルノ以外でこの題材を描くことは珍しかった。それも、結構、正攻法に。主演の綾せつこと伊藤奈穂美の姿は今も印象的に記憶に残る。そして、この映画、音がいわゆる映画的にできていないのだ。話す人が遠くにいれば小さい音で聞こえるような仕掛け。いわゆる、観ているものが、その映画の日常の中にいるような触感で作ってある。そして、バックに流れる、ピンクレディーの曲が時代を表す。最近リマスターされて、ソフトも出ている。久しぶりに観てみようかなと思ったりしている。監督は、昨年「さくら」で健在ぶりを示していらっしゃるし、今後も楽しみであったりします。


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