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「あの頃、文芸坐で」【88】増村保造監督作品の存在感の強さに圧倒される!

1982年7月31日、オールナイト、日本映画監督大事典、増村保造監督の5本立てを観る。ここで観る前から、テレビでは何本か増村作品を見ていたり、「大地の子守唄」なども観ていたが、それほど得意なタイプの映画ではないなと思っていた。あと、テレビの赤いシリーズの雰囲気の印象もあった。だが、この日、映画館で初期作品を観て圧倒される。その得意でないとしていた、ギラギラしていたところが、増村作品の真骨頂であり、フィルムから発せられるパワーの凄さに魅了されたと言っていいだろう。この日の5本は「くちづけ」「巨人と玩具」「遊び」「でんきくらげ」「やくざ絶唱」。この中に、若尾文子主演作が一本もないのも、今考えれば妙なプログラムである。(なお、プログラムは、前回の者と同じなので割愛させていただく)

「くちづけ」(1957年)
デビュー作だ。74分の小品。川口浩、野添ひとみ、後の夫婦共演。川口の父親、川口松太郎原作。そして、川口の母親役で、本当の母でもある三益愛子が出演している。考えれば、家族映画みたいなものである。しかし、中身はなかなか激しく、時代の中に翻弄される男と女をシンプルにかつわかりやすく描く名編である。私が増村作品で何が一番好きか?と問われれば、この映画を上げるだろう。ヌードモデルで家庭を支える野添と、金持ちのボンボンの川口との、釣り合わない恋、そして素直でない恋。タイトルの通りに二人がくちづけするまでを描くストーリー。そのくちづけシーンはあまりにも刹那く美しい。途中、川口のピアノで野添が歌うシーンもすごく良い。こういう話は、いつの時代も成立する話であり、そのスターの輝きさえあれば、すごい良いものが今でも作れると思う。思春期の恋愛映画のお手本的な部分もある作品。

「巨人と玩具」(1958年)
開髙健原作のサラリーマン小説の映画化。これも、川口浩、野添ひとみ主演。だが、こちらの野添は、貧乏子沢山の娘だが、現代っ子を絵に描いたような女の子。そして、話はお菓子メーカーの激しい宣伝合戦であり、おまけ商法の巨大化の話。この頃、電通をはじめとする広告代理店ももこういうのに加担しながら膨れ上がっていったのだろうと考えられる話。そして、合戦の末に若手サラリーマンの川口浩はメンタル的に堕ちてしまう。60年以上前の小説だが、ビジネスに人間が負けていく感じは今でも十分風刺的なものを感じる。それでいいのか?とは思うが・・・。時代を超えて働き方を考えさせられる。もう、この時代にデキるビジネスガールも出てくるしね。そして、個人的に印象に残ったのは、若者が集まるのが「歌声喫茶」というところである。そして、時代の勢いというか、それは今では考えられない空気感がありますよね。そして、最後の宇宙服を着て街を歩く川口浩の姿が刹那い男の映画である。この時みたフィルムの退色の酷かったのもよく覚えている。

「遊び」(1971年)
もはや大映が倒産する間際の傑作と言っていいだろう。原作は野坂昭如「心中弁天島」。主演は、関根恵子、大門正明。ここでは、「くちづけ」と違い、男女ともに貧乏で家族に恵まれていない。その原作の題名通りに、最後は二人で心中する話である。それは、この時代に大映という会社自体、映画界が沈んでいく感じにシンクロするから、なかなか辛い。そして、この当時の関根恵子の裸体に心躍らせたものは多かっただろう。だが、実際は映画館が完全にテレビに負けた時代の映画であり、増村監督の腕はまだまだ優れているのはわかるのだが、今ひとつ寂しげな映画である。この時、大映が潰れていなかったら、増村監督の晩年はまた違ったものになったであろうとは思う。

「でんきくらげ」(1970年)
これも、「遊び」の一年前に作られた、大映お色気路線の映画の一本。つまり、テレビに対抗する最後の手段は裸とSEXであったのだ。つまり、テレビでは流せないものを映画は作っていった。そのうち、テレビでも深夜を中心にやたら、画面におっぱいが映る時代がやってくるのだが、今みたいに、何かあるとセクハラと言われる時代からみると、なんか色々と下品で醜い時代であったことは確かだ。それがいいとか悪いとかではないけどね。そんな時代の中で、日本のSEXシンボルの一人になったのが、この映画の主演の渥美マリ。大映の軟体動物シリーズという一連の作品は、いわゆる女が身体を武器に男に縋っていく話でり、あまり作品的には面白くもなく、渥美マリの裸体もそんなにグラマラスではないのですよね。まあ、その中でも増村作品は、それなりに鑑賞に耐える作品と言っていいのでしょう。

「やくざ絶唱」(1970年)

大映倒産前の勝新太郎主演の現代ヤクザ劇。勝と大谷直子が異父兄妹という設定で、大体何が起こるかはわかる話。そして、勝が刑務所に行き、大谷の前に田村正和が現れ恋に堕ちる話。この、役者陣の名前を書くだけで、それなりにみなさん観たくなるでしょうね。大谷は、朝ドラヒロインを終えた後の出演ですね。そんなに作品の出来がいいわけではないのですが、この役者たちの絡みがなかなかうれしい一作です。

増村保造といえば、若尾文子とのコンビの作品がメインに語られるのは仕方がないことですが、初期の野添ひとみの作品や、倒産前の上に挙げた作品なども、一貫してフィルムの向こうから役者が飛び出してくるような台詞回しの中に、ダイナミズムを感じさせる作品群です。こういう演出をする監督は今は皆無と言うか、こういう演出法があるということを若い演出家たちは観て学ぶべきだと思う。人間を描くためにこういうデフォルメもあるということを・・・。ということで、この日のオールナイトの映画館の情景はよく覚えている。そのくらい、映画に迫力を感じたのだった。



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