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名作映画を見直す 【4】グレン・ミラー物語

昨日、古関裕而モデルのドラマについての事を書いたが、この映画の主人公のグレン・ミラーは古関より5歳年上である。二人とも、多くの曲を世に送り出し今に名を残す。そして、太平洋戦争の時代にそれの力が生かされたのも同じである。ただ、グレン・ミラーは事故死?しているので戦後はない。もし、彼に戦後があれば、古関以上に様々な音楽シーンを作っていただろう。

1953年 アメリカ ユニバーサル制作 監督アンソニー・マン。

全体的には古めかしい映画ではある。監督のアンソニー・マンは西部劇の作品が多いので、この作品が異質なのだろう。主演のジェームズ・ステュアートとジューン・アリソンも、古いハリウッド・スターのテイストである。この映画公開の後、グレン・ミラーのレコードが日本でもかなり売れたらしい。時代的には、ジャズ喫茶のようなものが次々にできていた頃だろう。そして、この映画を見て、戦っていたアメリカという国の大きさを見ていたのかもしれない。

特に、グレン・ミラーが軍に入り、音楽隊を率いてからは、軍の中で、彼の好きな音楽を演奏して兵士の士気をあげるなんてことは、日本軍には考えられなかったことだろうから、よく理解できる。

そして、ここで流れる「イン・ザ・ムード」は、映画「瀬戸内少年野球団」の主題歌になったように、日本では戦後の民主主義の始まりとともに流れてきた曲である。同じ曲を聴きながら戦争していたアメリカとは、ちょっと世界が違いすぎる。

昨日、「エール」の話で、音楽家の話は音楽で語って欲しいと書いたが、この映画も、決してそれがうまくできているわけではない。でも、さすがハリウッドというか、グレン・ミラーの曲を聴くには十分な作りになっていると思う。「ムーンライト・セレナーデ」を中心に置きながら、彼の音楽とはどういうものだったのかは、それなりに理解できる。

冒頭の質屋でトロンボーンを戻すシーンから、彼女にプレゼントしようと考える真珠のネックレスの話になる。そう、この映画は伝記映画だが、芯になっているのは、ラブロマンスだ。強引なグレン・ミラーに、考えるまもなく結婚させられてしまう様は、当時の日本人が見たら、「アメリカ人はすごいな」と思わせたのかもしれない。その後は、彼女が夫をうまく操作している様がうまく描かれている。男の夢が女のバックアップで成立していくのは、日本人が好きそうなドラマだ。

その妻を演じるジューン・アリソンは、声は少し伊藤沙莉みたいだが、目と笑顔が印象的な女優さんだ。派手さはないが、この役にはピッタリな気はする。ラスト、彼の死が彼女に伝えられるシーンはあえて省略してある。場面がうつると彼女は黒いドレス。そして、彼を失くしたバンドがパリから、彼女の好きな「茶色の小瓶」を演奏する。それがレクイエムのように流れ、彼女の目元に涙が浮かぶ。とても、綺麗なTHE END である。全体の完成度がどうであれ、このラストで映画の魔術を観客に与える映画だ。

客演で、ルイ・アームストロングが出てくる。彼はグレン・ミラーより三歳上である。同世代の音楽家の友情出演なのだろう。出てきて、演奏シーンだけで存在感があるのは、見る価値がある。

この題材も、もう一度、ハリウッドで撮り直してもいいものだと思う。今の音響を目一杯に使ってグレン・ミラーの生涯、作っていただけないだろうか?


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