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「SWEET MEMORIES~甘い記憶~」に酔う。現実の苦難の中で聴くこの曲に涙ぐむ。

松田聖子は、私より歳が二つ下であるから、ほぼ同世代といっていい。そういう意味では、いまでも多くの歌を口ずさめる。実際の私は中森明菜の方が性に合っていて、世界観はいまでもその方向なので、松田聖子が特に好きなわけではない。

とはいえ、「赤いスイートピー」であったり、「ガラスの林檎」や「瞳はダイヤモンド」は好きな歌である。そして、今回、全編、日本語詞で再リリースされた「SWEET MEMORIES〜甘い記憶〜」は、松田聖子、最高の一曲と言って差し支えないだろう。

そして、今回、松本隆が書き残していた、全編日本語詞の同曲がリリースされたわけである。いつ聴いても良い曲であるのと同時に、スタンダードとして、はるか未来に残るべき名曲であることは、今更いうべきことでもないであろう。

現在、世界が物悲しく、辛い中でも、この歌は多くの心に染み渡るであろう気がした。そして、この日本語バージョン。やはり、原曲とは違う味わいがある。もちろん、日本語により、日本人にはストレートにメッセージが飛び込んでくるのもあるが、それよりも、この歌には松田聖子の人生が染み込んでいる気がした。58歳という年齢の「SWEET MEMORIES」なのである。

ラストに「甘い記憶 SWEET MEMORIES」とあるが、元歌は、今聞き返しても、アイドル時代の聖子ちゃんの「甘い記憶」という、いい意味での甘ったるさがある。それに対して、今回の「甘い記憶」は、遠くに見える記憶が甦ってくる時空を感じさせるそれの気がするのだ。

もちろん、それは、松田聖子という実像が歩んできた40年という時空の差なのだが、それを同世代の私が聴いているから、感じるものなのかもしれない。

ところで、このミュージックビデオは松田聖子自身の監督作品だという。なかなか素敵である。まあ、実際の作品を制作しているスタッフの腕によるところが大きいのだろうが、昔のペンギンが演じていたそれを時空を超えて実写化した感じも、なんのてらいもなく、ベタな感じで、男に涙させるところも、とてもいいと思う。

昔、この曲が流れていた頃は、まだまだ若きエンジニアであった私である。そして、バブルの流れがくる前夜みたいな時期に歌われた曲である。そして、松田聖子は、今の若者が思いも寄らない、誰もが知る、ビッグアイドルであったわけだ。多分、この時代のこの感覚は、ど真ん中に生きてみた人しかわからない。亡くなられた志村けんさんのコントだって、今の子供も笑うことは可能だが、時代が作らせた産物である。そして、私が美空ひばりのことが歌がうまい以外はわからないのと同じである。

だから、この曲も、1983年の松本隆が書いた詞を松田聖子が歌うことによって、そしてサントリーのCMのイメージがシンクロして、時代の中に受け入れられ、今に至るまで歌い継がれてきたものである。その40年近くのなかで、ど真ん中にいた人々の人生は様々なベクトルを向いて、時には光り輝き、時には鈍い音を立てて、転がり落ちていったはずだ。

そして、今、このいまだかつて誰もみなかった不穏の空気感の中の2020年に到達しているわけで、そこで、同じ記憶の中の「SWEET MWMORIES」が違う形で歌われ、多くの人が、記憶を辿ってこのビデオをみていると思うと、本当に涙が出てくる。そして、今歌われることが、奇跡という偶然であるのだろう。それこそ、それはエンターテインメントの素晴らしさと言ってもいいと思う。

今、そのエンターテインメント全体が瀕死状態の中で、この松田聖子の姿は、本当に神々しい感じもする。もはや、美空ひばりよりも6歳も多く生きてしまった彼女に、「ここからも、しっかり生きて行こうね」と言われているような感じがしたのだ。

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