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名作映画を見直す【7】オーケストラの少女

昔、NHK教育TVでやっていたのを観た気がする。1937年。ヘンリー・コスター監督、ディアナ・ダービン主演。

シンプルで、家族で観られる感動編である。ある意味、できすぎた話であり、この話を成立させるために、少女が、大人が入れない世界に侵入する事が重要だというところは、御伽噺的であるが、それで良いのであろう。

親を愛し、その親が教えた歌がしっかりしているという事、そして、失業者たちの楽団が、有名指揮者を唸らせるという顛末も、少しもひねりがないので、あまり映画的な勉強にはならないが、こういう映画があってもいいし、「たかが映画じゃないか」というのにふさわしい作品なのだろう。

でも、うがった見方をすれば、失業者たちと芸術家、資本家という関係がそれぞれ乖離している事がよくわかるし、それは、現代の状況となんら変化がないようにも思える。芸術など、全ての人が芸術として見ているわけではない。そういう点で人間は80年経ってもあまり進歩がない。特に芸術家の活躍の場は、今の状況で今後さらに少なくなるだろうから、ここに描かれる優秀な芸術家が埋もれる社会はほぼ間違いなくくる。だが、そこでも、本物は残るという思いをしっかり持てば、奇跡は起こると思わせる作品である。そういう意味では、今見るべき作品なのかもしれない。

そういう、貧富の差を見せながらも、この映画、すごく悪い人は一人も出てこない。ヒール的な人でも、人格的にはそうでもないという作り。そういう点では、最初から子供も安心して見る事ができる映画として制作されたのだろう。とにかく、主人公の少女の喜怒哀楽の明確さと、父親や楽団の人々の笑顔に救われる映画である。そして、彼女がお金を踏み倒すタクシーの運転手も実にいい。そういう映画全体の空気がこの映画を輝かせ、今に残ったのは確かだ。

私はクラシックは好きなのだが、ここで登場する指揮者レオポルド・ストコフスキーに関してはよく知らない。でも、彼が出ている事でも貴重な映画らしい。ラスト、失業楽団に対し、身体が自然に動いていく姿は、なかなかベタだがうまく表現されている。これを見ると、今、それなりに認められた人物が、これから芸術の世界を再構築していくのだろうと思う。そういう意味では、この間、炎上しておられた、平田オリザさんなどは、もう少し、リーダー的な自分を認識されるべきだろう。社会の全体像の中で芸術家が特別に浮いてしまったら身も蓋もない。

少女が親の窮地を救おうと思い続けることから、ひょんな運で、金持ちの冗談半分のプロモート話を信じてしまう。そして、彼女の必死の少しイカれた行動が、マスコミを動かし、資本家を動かし、芸術家を動かすというドミノ倒しのような成功をもたらすというこの映画。もちろん、フィクションなのだが、実際の成功談もこんなことは多い。ただ、熱い思いと、本物である事が大事であり。その点は、この映画、ちゃんと描いてはあるのですよね。だからこそ、80年後の今見ても、いろいろと自分にシンクロできる部分もある。ある意味、余計なシーンがない分、まだまだ100年くらい先にも、これを見て感じる人がいるのだろう。そう考えると、素敵な映画なのですよ、これは!

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