見出し画像

名作映画を見直す【13】ウエスト・サイド物語

ここでは、いつもビデオで見た名作をチェックし直しているのだが、今日は劇場の大画面で良い音響で、この映画を観てきた。劇場で観るのは2回目だと記憶する。やはり、劇場で観てナンボの映画である。シンプルなブロードウェイ・ミュージカルのストーリーを見事に映画として完成させている。何度見ても、その踊りと歌に引き込まれる。作られてから、ほぼ60年の今に至っても、ミュージカル映画のお手本である。

1961年、 ロバート・ワイズ、ジェローム・ロビンズ監督。ナタリー・ウッド、リチャード・ベイマー主演。アカデミー賞10部門受賞、日本では1961年12月23日に丸の内ピカデリーなどの松竹洋画系で封切られて、翌1963年5月17日まで511日にわたるロングラン上映。それ以後も、リバイバルロードショーが何回も行われた一本である。

とにかく、今日観ていて思ったのは、覚えているシーンの多いこと。そのくらい、カメラワークと構図の決め方はうまい。そして、対立する若者たち以外の登場人物は、極めて少ないので、意外に全体にすっきりしている。そして、主人公はトニーとマリアなのだが、登場シーンが意外に少ない。そういう意味もあるのだろうが、アカデミー賞では、主演賞は獲っていないのだ。あくまでも、「ウエスト・サイド物語」という作品が優れているのである。しかし、この作品、ブロードウェイ初演が1957年で、この映画の公開の4年前。多分、舞台でかなりの好評を得て70mmでの作品かということになったのだろう。作品、全体にその勢いはある。

そして、この話のベースは確かに「ロミオとジュリエット」なのだが、それを使って、戦争の無意味さ、民族間対立に対して、エンタメとしてのメッセージが出ているわけだ。その辺りも、すごいわかりやすいのが良い。

だが、日本公開が1961年の年末。安保闘争も一段落すぎ、多くの若者たちがこの影響を受けたというイメージはすごいわかる。この流れが、日本の若者文化を変えて行ったと言ってもいいのではないか?当時の日活アクションの不良少年ものは明らかにこの影響があるし、後の井筒和幸監督の「ガキ帝国」のなかの、朝鮮人との対立構図みたいのも、ここに繋がる気がする。そのスタイルが、世界中に伝搬した一本だ。

とにかく、全ての曲が耳に残り、今日観ていて、最も凝っているのは、様々な角度から捉えるカメラ。そして移動の仕方。70mmということだと、カメラも大きいだろうから、その割には、かなりフットワークのいい画面の流れになっている。そして、それを計算して編集して格好良くなっている感じ。もちろん、重ねた音のうまさもある。役者たちは、どちらかというと、この時無名に近い者がほとんどなわけで、そういうフレッシュさは今見てもわかる。それもいい!

そう、映画というものがすごいのは、いくらデジタルリマスターかけたとしても当時の空気感がそのまま残っているということである。そして、その時代の空気の中で作られたエンターテインメントが、21世紀の今日見ても、全くOKなのである。最近は、デジタルでなんでも作れるみたいな風潮ではあるが、60年経っても、観るひとを震わせる映画というものは、そういう小細工ではなく、人間の総合力で作られたものだと思う。小細工できる今だからこそ、作り手はそういうパワーを入れるべきなのだとも思う。特に、今が新時代への変わり目と捉えれば、私的にはすごい刺激になった。

そして、先にも書いた通り、ここに描かれるのは、戦争の無意味さと、民族間対立だ。まだ、図式が、アメリカの中のポーランド系対プエリトリコ系ということもあり、少し柔らかい。どちらかがアフリカ系という話になってくると、こんな綺麗な話にはならないだろう。そんなことを、今も考えてしまうのは、本当に辛い。日本の状況も同じである。当時、日活アクションなどでは、朝鮮人問題が度々取り上げられていた。その状況も何も変わらないのだ。本当のグローバル化は、新時代において民族意識のなかのヘイト感みたいなDNAを薄めるところから始めなくてはならないと思う。

そんな、2020年、S.スピルバーグ監督がこの作品のリメイクをしている。今年の年末公開予定になっていたが、実際はどうなるかわからない状態だ。だが、この時代の変わり目に、同じような問題が燻り続ける社会に、新しい「ウエスト・サイド物語」が公開されるということは、偶然ではないような気もする。いろんな意味で早く観たいと思っている。

全編152分。久々に堪能してきました。今でも、映画館を出れば、踊りたくなる映画ですよね。

追記、定員235人のスクリーンで10人くらいで観る贅沢。こういう機会はこれからも増やして欲しいものである。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?