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「あの頃、文芸坐で」【13】「時計じかけのオレンジ」でトリップした日

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大学に合格して、2週連続文芸坐に来ている。見たのは「時計じかけのオレンジ」と「チャイナ・シンドローム」である。キューブリックの映画を見たのは初めてだった。そして、この映画のトリップ感だけが脳に届いた感じだった。

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コラムには、長崎俊一監督「ハッピーストリート裏」の話。長崎監督もこの時代の自主映画界の騎手であった。内藤剛志や伊藤幸子などの役者を得ていたことも大きいと思うが、長崎監督独特のセンスがフィルムから滲み出ていた感じだった。本人にも何回かお会いしたが、なかなか年の割には白髪まじりの粋な男という印象だった。メジャーに転じても、「9月の冗談クラブバンド」「ロックよ静かに流れよ」など、印象に残る作品を残したが、ここに書いてある松田優作とのコラボはなかったのは残念な気もする。最近、どうしているのでしょうか?

文芸坐は「特集!政治と暗殺」というテーマ。ハリウッドのすごいところは、近代に起こった事件をすぐ映画にして作品として残しているところ。日本は、それもできない映画界になりさがっている。いまだ、田中角栄の映画も作れていないのは何故なのか?本当に、世の中変えないとダメだと思う。山崎豊子氏が逝ってしまい、そういう原作も少なくなっている事実も問題だ。

文芸地下は、寅さんを2週に渡って上映しているが、この当時から松竹のプログラムはあまり文芸坐にはあっていない感じに思えた。今も熱狂的に寅さんを称賛する人はいるが、私はいまだにそんなに面白いと思わないし、山田洋次のどこが巨匠なのか?という謎が常に頭にこびりついている。ここで併営されている、前田陽一「神様のくれた赤ん坊」の方が数段面白い映画だ。最近、見る機会がなくて残念な一本だと思う。そして、前田陽一の名前があまり知られていないのも、腑に落ちない。山田洋次などよりはうまい映画を撮った監督だと思うのだ。

オールナイトは監督全集に神代辰巳監督の名前が出てくる。オールナイトにロマンポルノはぴったりである。そのまま眠ったところで、それもロマンの世界の気がするからだ。しかし、ここにあるような神代初期作品は、今では絶対作られることにない、オンリーワンのフィルムだと思う。観ていない方には是非触れて欲しい作品群だ。そこで流れるワナナキは、今のどんなAVよりも有機的で妖艶であったと思う。

そして、文芸坐ル・ピリエでは、「自主映画傑作選」がかかっている。こういうのを見ると、自主映画が盛り上がっているようにも見えるが、実際、こんなものに興味のある学生はほんの一握りであったというのが現実だった。その少ない客を集めていたのが文芸坐であった気はする。そして、このル・ピリエで私も16mmで撮られたものを結構な数観た記憶がある。あれから40年、素人が簡易に4K動画を撮れる時代である。その技術の進歩に反比例するように、若き荒々しい映像は観られなくなったのは、言うまでもない。

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そして、この日観た映画。まずは「チャイナ・シンドローム」からマイケル・ダグラス制作、ジェームズ・ブリッジス監督、ジェーン・フォンダ主演の原発事故を扱った映画である。ちょうど、スリーマイル島の事故の前に封切られたというので話題になった。その当時、原発反対運動があるのは知っていたが、それが現実に日本に起こるとは夢にも思わなかった時期。この映画の映像は思い浮かぶが、あまり詳細な内容は覚えていない。ただ、「原発って安全なの?」という問いかけには興味を持った気がする。当時、ジェーン・フォンダはこういう社会問題に対し常に前に出てくる俳優だったので、印象深くもあった。久しぶりにもう一度見たい映画だ。

そして、「時計じかけのオレンジ」今でも、多くのファンを持つ映画である。原作は1962年に書かれたアンソニー・バージェスの小説。これは読んでいないが、この映画が公開された当時、書店にこの映画ポスターと同じデザインの本が積んであったのを覚えている。とにかく、このポスターとこの題名は、当時小学生の私にもインパクトを与えていた。そして、少し大人になって、初めて見た印象は、「何か凄いものを見てしまった」という感じ。内容はよく理解できなかったが、凄いクールな感じを受けたことは確かだ。主演の マルコム・マクダウェルの狂気な感じに、こういう映画もあるんだということを知ってしまった感が大きかった。でも、この映画、実際、この後のこういう非日常の狂気を描く際には常にモデルとされてきて、今に至るわけである。作られたのは1971年。今から、約半世紀前と考えると、やはり秀逸な一作である。何年かするとじっくり観てみたい映画なのだが、ビデオで観るものではない世界である。前から書いていますが、こういう映画を常に流してくれる映画館っていうものが欲しいと思うのですよね。

ともかくも、そんな狂気を観てから、私の大学生活は始まって行ったわけです。


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