見出し画像

「あの頃、文芸坐で」【72】長谷部安春監督5本立て、70年初頭の破滅的ハードボイルドに煌めく何か…。

画像1

画像2

文芸坐.002

20210402文芸坐2.001

1982年4月3日。そろそろ大学三年の授業が始まるというとき、オールナイトで長谷部安春5本立て。考えれば、この当時にパンデミックなどということがあったら、こんな映画三昧はできなかったのだろうなと思ったりする。色々と支障のない時代だったし、その経験、いや記憶が今に生きる。

*     *     *

まずはコラム。ここでかかる映画の話だが、「カッコーの巣の上で」が配給ストップになるという話がある。この頃は、配給の期限が来たら、ポジフィルムは基本、捨てるという時代だった。今みたいに、ビデオはそのものがある限り見られるという時代ではなかったし、映画館で映画を配給ストップまでなんとなくかけ続けるような時代だった。映画の存在形態自体が今とは全く違ったということだ。そして、「旅芸人の記録」をやっと上映できるという話。昨今は、こういう長丁場で、こういう雰囲気の映画が公開されにくくなっていますよね。まあ、こんなに尺いらないだろうという映画が多いですけどもね。映画の名前を見るだけで懐かしさを感じます。そして、またまた配給会社の圧力で入場料を低く保てないという話。本当に、40年前、映画料金がどんどん上がり始めた頃なのですよ。

*     *     *

プログラムは、文芸坐は先に書きましたように、「旅芸人の記録」と「糧なき土地」そう、こういう映画を岩波ホールのようなところよりも、文芸坐の大画面で見られることにも意味があった気がします。文芸地下は、「時代劇ぐらふぃてぃPART1」ということで、黒沢もあれば、雷蔵もあるという感じですが、結構新し目のラインアップ。当時は東映のフィルムがあまりちゃんとしてなかったのもあるのでしょうね。オールナイトは東陽一監督特集が追加。ルピリエでは「赤すいか黄すいか」「フルーツバスケット」の二本立て、こういう映画を自主映画的に撮って認められた時代というのも懐かしい感じですよね。

*     *     *

そして、「長谷部安春監督オールナイト」そう、日活アクションを追っていながら、あまり劇場では見る機会がなかった監督。多分、劇場で見るのはこの日が初めて。いわゆる、ニューアクションと呼ばれるものを堪能した。

「俺にさわると危ないぜ」

長谷部監督デビュー作。女殺し屋と小林旭のコメディアクション。テンポはいいし、色使いなどは鈴木清順譲りという感じ。まあ、新人の作品として、当時はどう受け入れられたのだろうか?私的に驚いたのは、ヒロインの松原智恵子が、ブラジャーとパンツだけの姿で縛られるシーン。そう、美人女優さんがこういう姿になるとかなり興奮する。当時の日活の女優さんは結構こういうシーンあったりするので驚かされました。

「みな殺しの拳銃」

宍戸錠ハードボイルド三部作と言われる中の2本目。ラストのまだ作りかけの高速道路を使った狙撃シーンが印象的。藤竜也、岡崎二朗との共演が、ニューアクションへのブリッジ的なものも感じさせる。ヒロイン、山本陽子。山本は、日活出身なのだが、個人的には日活臭が薄い女優さんだと思う。でも、そういう雰囲気がこの映画には似合っていた

「野獣を消せ」

渡哲也が、妹を死に至らせた若者たちの暴走集団に復讐をする話。全体的に「野良猫ロック」の前哨戦的な雰囲気が多く感じられる。そして、そのエグい感じはまさにニューアクションへの転換期ということがよくわかる作品。ヒロインがいないのも新しい。とはいえ、暴走集団の中の集三枝子は印象的だった。

「女番長 野良猫ロック」

そして、この作品。ニューアクションで必ず語られる「野良猫ロックシリーズ」一作目。とはいえ、ホリプロ制作の和田アキ子をフューチャーした歌謡映画だったと言っていいい。ただ、会社の型にはまらない状況で作られて、梶芽衣子がヒロインとして格好良く演じていたという印象。当時のサイケやポップな若者文化がどういうものであったか、ということがよくわかる映画だ。私は、この一作目が一番好きだったりする。和田アキ子がバイクに乗れないのに、ちゃんと暴走族になっているのはなかなかの演出だ

「流血の抗争」

そして、この日、一番最後に見たこの映画が私はとても好きである。宍戸錠が日活で主演を張った、最後の傑作だろう。とにかく、最後に死にそうなのだけど、なかなか朽ちない、疲労感が半端ない作品。見ていない人には、とにかく見てほしい一作だ。

ということで、この日の5本、あまり眠気を感じずに見た記憶がある。多分、長谷部作品は私の周波数に合っていたということだろう。そして、60年代後半から70年代初頭の文化的なものを研究したいなら彼の映画をお勧めしたい。まあ、こんな5本立て、映画館で今後見られることはないでしょうが…。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?