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横山隆義という男がいる

 今回は〇〇という男(女)がいるシリーズです。前回のブログ記事「長距離走・マラソンが速くなるためのたった3つのポイント」という記事はもうご覧になられましたでしょうか?人気記事となっていますので、まだご覧になっていない方は下記のURLより必ずご覧ください。
https://www.ikegamihideyuki.com/post/3pointstogetyoufaster

 さて、「長距離走・マラソンが速くなるためのたった3つのポイント」という記事の中で高校一年生の頃の私は横山隆義先生の話を聞いて全身に力が漲り一人で鳥取中央育英高校の300mトラックを107周したという話を前回の記事で書きました。当時はまだ高校一年生です。もうグランドの電気も消されてしまって、先生方も帰ってしまい、教室から漏れてくるわずかな光を頼りに一人で黙々と走りました。先に練習を終えた三年生の内田和希さんだけが教室から見守ってくださっていて終わってから声をかけてくださったのを覚えています。

 少しこの合宿の説明をしておくと、この合宿は通常由良合宿と呼ばれ、洛南高校、出雲工業高校、鳥取中央育英高校、八頭高校、報徳学園高校らの生徒が鳥取中央育英高校の教室に寝泊まりし、シャワーは学校のプールのものをみんなで交代で使い、洗濯は学校の水道でやるというなかなかサバイバル感溢れる合宿です。今から思えば、こんな環境でも自炊しなくて良い分、ケニアでの合宿よりは良かったかもしれませんが、当時としてはなかなか新鮮な体験でした。

 洛南高校は同時に兵庫県での鉢伏で合宿をしており、希望者のみがこの由良合宿に参加します。由良合宿参加組は鉢伏合宿からこの由良合宿に合流するスケジュールで合計8泊9日の日程で毎年合宿をしていました。この由良合宿で午後練習の前にミーティングがあり、このミーティングで各校の先生方やユニバーシアードのハーフマラソンで銀メダルを獲得した津崎紀久代さん、「大阪マラソン日本人トップが福岡国際マラソンを振り返る」の記事の中で触れた岡本直己さんらOBさん、OGさんが色々な話をしてくださいました。ちなみにですが、岡本直己さんは「なに言ったら良いんですか?自分こういうの苦手っす」と全く言葉が出て来ずに緊張で膝がガクガクと震えておられました。大試合での落ち着いた走りとは印象的に、そんな可愛い一面もある方です。

 この合宿は二年ほど前の別府大分マラソンで日本人トップになった二岡康平君も鳥取中央育英高校の選手として参加していましたが、私は鳥取中央育英高校キャプテンの水野雄二君と仲良くなったため、二岡君とはほとんど話していません。

 この合宿の午後練習のミーティングで話していただいたのが、横山隆義先生です。洛南高校では一年生は誰よりも早くミーティングの場所に行って場所を取り、一番前で話を聞かないといけないという決まりがありました。そんなわけで、私が横山先生のちょうど真ん前で話を聞いていたのですが、横山先生は出てきていきなり私の方を指差してこうおっしゃいました。


「お前日本一になれるぞって言ったらどうだ?いやー私なんかと思うだろ?なれる、絶対なれる。やってやれないことはない。やらずにできるはずがない。俺がやらなー誰がやる、今やらんといつできるっちゃあなぁ。あのー1500m3分45秒でいいだけな。800mを2分ちょうど、ここまではだっでも(誰でも)いけるけえなぁ。1200mを3分ちょうど、これはえらい(筆者注 えらいは大変の意)。行くだ!いけれんっちゃなんだら思ったらいけれん。いく!っちゃなんだら思ったらいける。どがんしてもいったる。1200mを3分ちょうど!そこまでいきゃあ、あとはなんとかなるけえなぁ。1500m4分もかかったら芋だで。4分もかかるなあ、1500m。長距離が強くなるには前半飛ばして、中盤飛ばして、ラスト飛ばせば良い。これが長距離走。せこい奴もおるけえな。人の後ろについて行って最後だけピッと飛ばす奴。きったねえなぁ。そんなせこいことをするな!前半飛ばして、中盤飛ばして、ラスト飛ばす。
昔田子ってのがおってな。由良育英高校の田子選手、400mの通過52秒だで。400mの通過で400mが自己ベスト。自己新だ!おいっ!っちゃんだ言いながら600mを1分20秒、そこまでいきゃああとはもうどうでも良いって言ってあったけぇ、俺が。ええかぁ、600mを1分20秒だぞ!絶対来いよ1分20秒。あとはもう負けてもええから。負けても俺のせいだ。けど1分20秒で来んかったらこれだぞ(げんこつを見せながら)。
言った通りで、言われたことをやれば必ず上手くいく。インターハイ、インターハイなんか試合見とらんけえな。サブトラックにずっとおって、よしこれでよし、こういう風なレースせえよって言ったらあとは終わり。試合?試合なんか見んでも分かっとる。そのかわり言われた通りのレースをせえよ。言った通りで、言われたことをやれば、必ず上手くいく。あの、インターハイ34人だけな。一つの学校からインターハイ34人。試合なんか見とる暇あらへん。サブトラックにいて、ウォーミングアップをみて、それで終わり。」

「あの、オリンピックで金メダルって大したことないけえな。ずーっとキロ3でいきゃあオリンピックで金メダル取れる。どうせキロ3でよういかんけえな。森下広一っておったな。森下広一、オリンピックで銀メダルだで。オリンピックで銀メダルって大したことないで。森下広一はインターハイ三種目出て三種目共予選落ち。こっちは優勝。あのせこいだけな。(頭を指差して)ここを使ったら勝てる。三千障害のラストの300mで「おい、どうだい?」って聞いたらOKサインを出して「任せてください」って言うだけな。もう余裕の優勝。あのー、余裕のない奴もおるけえな。こっちが応援しとるのに、知らん顔して走るやつ。お父ちゃん、お母ちゃん、きとるけえ、手の一つも上げてやれ。「お父ちゃん、お母ちゃん、頑張っとーで」って言ったって!知らん顔して、愛想のない奴もおるけえな。そう言う選手は強くならんで」


 ざっと書いてみましたが、こんな調子で話が延々と続きます。ところどころ鳥取弁が強すぎて何を言っているのかわからないのですが、とにかく感動しました。ちなみにこんな強烈な横山先生の教員採用試験の話がまた面白かったです。

横山先生「私は日本一になりたいと思っております」
面接官「君は全国のレベルを知ってるのかね?」
横山先生「私は日本体育大学を出ておりますので、全国のレベルよう知っとります。だけどこれだけのレベルでも絶対に勝てる。同じことだから、同じ高校生だから、絶対に勝てる。俺を採用してくれ。日本一になりたいから俺を採用してくれ」
「こう言う具合に言ったら、面接官の奴ら笑っとったで。これをみてああ、鳥取県も大したことないな。この人らが教育委員会をやっとる間は鳥取県も大したことないなとそう言う具合に思っとった」


 横山先生はこの時の言葉通り、インターハイで総合優勝三連覇すると言う偉業を成し遂げます。ちなみに私たち洛南高校がわざわざ鳥取県まで合宿に行くことになったのは、洛南高校の恩師中島道雄先生が全国高校駅伝の時にみかん一箱持って横山先生のところに挨拶に行ったからです。中島先生は部員3人、それも一番速い子で5000m18分台の生徒しかいなかったところから、同様にインターハイの総合優勝や全国高校駅伝の準優勝などを達成し、京都府インターハイも中島先生が退官されるまでだけでも33連覇、全国高校駅伝には20回の出場を果たされました。大阪高校に行ってからもわずか二年で全国高校駅伝出場に導くなど名手腕を発揮されました。

 そんな中島先生が横山先生のところにみかんを持って「強くなる方法教えてください」と教えを請いに行ったそうです。その時横山先生は「あーわかっとらんなぁ」と思ったそうです。


 「何を難しく考えとっだ。簡単だけな。強いもんを強くする。それだけだで」
 「いやでも、先生、弱い生徒も強くしてあげないと」
「分かっとらんなぁ。強い子を強くする。そうすりゃあ、弱い子も勝手に強くなっていくだけな。弱い子に合わせてやっとったらみんな弱くなるで」


 なぜ、中島先生は全国に強豪校が多数ある中で横山先生のところに行ったか?それは鳥取県のような人口も少なく、交通のアクセスも良くなく、また中学生のレベルも低い都道府県でどうして毎年のように全国で戦えるのか、不思議に思ったからだそうです。鳥取県の方には申し訳ないですが、これはどうしようもない事実です。大阪、東京、愛知なんかは人口も多く、交通面でも生徒を集めやすいです。また兵庫県や京都府は中学生のレベルもそこそこ高いので、良い生徒が集められます。洛南高校も最近でこそ、遠方から勧誘したりもしますが、当時はそういうことはしていませんでした。ただ、京都駅から徒歩20分なので、大阪も滋賀も京都も、通学時間は変わらず、むしろ京都府は南北に長いので京都府の北部の選手はあまりおらず、いたとしても寮に入っていました。何れにしても、基本的には近隣の生徒だけでやっても強い選手が毎年入ってきました。でも、由良育英高校はそう言うわけにはいきません。
 それを強くするのだから「強い子を強くする」と口ではおっしゃっていますが、実際には弱い子を強くしている訳です。ただ、その方法論としては「強い子を強くする」やり方だったのでしょう。変な話、強い選手がまだ一人もいなかった時から、仮想的に強い選手を想定して、その選手を強くするような指導をしたのではないでしょうか?これはあくまでも私の想像です。

 私は横山先生の指導を直接受けた訳ではないので、練習に関しては詳しくは分かりませんが、私が横山先生から学んで取り入れたことが二つあります。


「1000m2分半じゃないと日本一になれんで。何が何でも1000mを2分30秒でいく。距離を短くしても良いから日本一のスピードを確保する。日本一のスピードはこれです!何としても体に日本一のスピードを覚えさす、と言うことが大切かなぁと思います」
「あの、練習頑張るだけじゃいけんで。たまには休め。あの弱い奴を頑張らせすぎると、やめるけえなぁ。やめるる前に休め。足痛いですっていやあええだ。その代わり、腹筋だって、背筋だって人一倍やらんといけんで。たまには練習サボれ。その代わり、腹筋も背筋も鉄棒も人一倍やらんといけんで。元気になったらまたやりゃあええだ」

 さすがに最近はマラソンをやるようになって、また現在の指導者のディーター・ホーゲンの下でやるようになって、取り組み方は変えていますが、高校三年生の時は、練習の後の200m5本を30秒でやるような練習をよくいれていました。足が痛くないのに痛いと言うのは私の性分に合いませんが、三年生になってからはチームの練習が休みの時はしっかりと休むと言うことも覚えました。その結果が、日本海駅伝での4区区間5位(日本人2位)や都道府県対抗男子駅伝5区で9人抜きの区間13位などに繋がりました。残念ながら、全国で戦える選手にはなれませんでしたが、横山先生の話は今も私の心に生きています。また、最近は横山先生の教えが高校生の時よりも実感を伴って理解できるようになってきました。

 トレーニングについて勉強したり、自分で経験を積めば積むほど、横山先生の話がわかるようになってきます。横山先生は本当に考え方がシンプルです。生徒が勝つために何をさせれば良いのか?それだけを突き詰めて考えていた方だと思います。先ほどは田子さんが前半から飛ばして行ったと言う話を紹介しましたが、別の中原大輔さんと言う方には最後の最後までためてスパートさせることを指示したようです。なんでも1500mの最後の300mを39秒、最後の100mを11秒台であがった中原さんが800mの決勝を見て「レベルが低いな」と言ったそうです。その時は5000mの決勝をテレビでやっていて、先頭から大きく遅れて画面から中原さんが切れていたのを見て他校の先生は「さすがの中原も無理だな」と思ったそうです。ところが中原さんはラスト400mを56秒でカバーし、優勝したそうです。

 勝つための方法はいろいろあるけれど、シンプルに考えて勝つために最低限やらないといけないことというのは見えてくるはずです。マラソンもずーっとキロ3でいくためには練習の段階で何が必要なのか、きっと横山先生ならそれを考えて、それもいきなりは無理だから、とりあえず何からやらせるのか、そんな視点でマラソンも指導していくのでしょう。運動生理学がどうとか、科学がどうとか、私はそういったことを勉強すればするほど、本質から外れていくように感じます。ペースを漸増させていくとあるポイントを境に血中乳酸値が指数関数的に増える?そんな知識が一体なんの役に立つのでしょうか?

 そして、横山先生ならきっと今の私にこう言うでしょう。


「マラソン2時間10分もかかるなあ!2時間10分ってお前、それジョックか?2時間10分もかかったら、芋だけな。ええか、30kmを1時間32分、ここまではだっでもいけるけえな。残り12.195kmを37分ちょうど。これはえらいで。行くだ!いけれんっちゃなんだら思ったらいけれん。どがんしても行くっちゃあな!最後の12.195kmをキロ3でいったら、ごぼう抜きだけな」


追伸
 教員採用試験で面接官に鼻で笑われたところから始まって、インターハイで3回の総合優勝を達成した横山先生、そして部員3人から始めてインターハイ総合優勝2回を達成した中島先生、今の私から見れば、偉大な先生方です。でも間違っても思ってはいけないのは、横山先生と中島先生が初めから周囲に認められた存在であったわけではないと言うことです。むしろ、鼻で笑われたり、バカにされることの方が多かったはずです。でも自分のパフォーマンスを上げたければ、実は人からバカにされるくらいでちょうど良いのです。自分が達成したい理想の未来を思い描き、それに近づくために必要なことを今の自分が実行すれば、周りからは気でも違ったんじゃないかと思われます。でも実はそのくらいで良いし、寧ろそうでなければいけないと言うことです。

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