甘味と甘美(芳野×祐希)
新寮三階の一室。ここは松江の部屋。だが部屋の主である松江はコンビニに出かけている。
芳野はテーブルに広がる私が買ってきた饅頭やみたらし団子を頬張っていた。
あんこや和菓子、抹茶が大好物である芳野は和菓子関係には味にうるさい。だが口にあったようだ。私は胸を撫で下ろす。
「近くに和菓子専門の店ができたらくてな、興味があったから買ってきた。芳野の映画出演のお祝いも兼ねて」
「おいおい、そんないちいち祝ってたからどうすんだよ。俺様はこれからどんどん有名になるぞ?実はCMに出ること決まってんだぜ?毎回お祝いしてくれんのかー?まっ、俺様はそれでもいいけどな」
芳野はみたらし団子を片手に持ちつつドヤ顔で言った。相変わらずで何よりだ。
私は一応松江がくるまで待とう、って言ったんだが芳野は「何で俺様が待たなきゃいけねーんだよ」と、傲慢な態度を見せ勝手に食べ始めた。
芳野は七つの大罪だったら間違いなく傲慢だろうな。うん。
「おい祐希。お前俺様に何か言うことねーのか?」
「……意味がわからんぞ」
「お前バカなのか?それくらい理解しろよ。……おめでとう、って言ってくんねえの?」
少し拗ねたように芳野は言った。その姿が少し可愛いもんだから、私はつい微笑んだ。
「あぁ、そうだったな。映画出演おめでとう、芳野」
微笑みながらそう言うと、芳野はなぜか顔を伏せた。
「芳野?」
「…………もうヤダ、お前」
「……は?」
なんでだ。ちゃんと私はおめでとうと言ったのに。
まさか、“あれ”をやって欲しかったのか?私には少しばかりハードル高い、照れずにできるか私。……いや、出来る出来ないじゃなくやるぞ、私。私はみたらし団子を1つ手に取った。
よし、やるぞ、よーし……。ぐっとみたらし団子の刺さってる串に力を込め、芳野の方へ差し出した。
「芳野、ご褒美だ。あ、あーん」
「!?」
芳野のはガタガタガタッと椅子から見事に落ちた。目を見開いて私を見ている。
な、なんなんだよこの!私が恥ずかしい思いをしてやっているというのに!キモいことぐらいわかってる!
「お、おま、な、何してんだ、頭大丈夫か!?」
「だ、だってお祝いの言葉だけじゃ嫌なのかと.......」
「バカかお前は!!んなわけねえだろ!!お前の言い方が予想以上にイケメン風だったからなんか、なんかイヤになったんだよアホ!チビ!」
「私は女子の中じゃ大きい方ではあるぞ!?161センチあるぞ!?」
「俺からしたらチビだよバカ!」
「10センチってそんなに離れてるものなのか!?」
「当たり前だっつーの!」
ぎゃーぎゃー言い合っている内に、疲れてきて自然と黙り込んだ。
「……第一、なんであーんなんだよ。もっと美人で胸がでかい女になってからやれ。その方が嬉しい」
「失礼な奴だな。私は美人でもないし胸もない人だ、どうせ貧乳だ」
あれ、なんか自分で言ってて悲しくなってきた。もうやめよう。
「……そんなお前にちょっとドキってしたのが腹立つ」
「…………え」
芳野は聞き取れるか微妙な大きさの声で呟いた。だが私は聞き取った。静かな部屋だったのもあったが。
「よ、芳野」
顔を見ようとするが芳野は下を向き、片手で顔を覆っていた。
「見るんじゃねーよ貧乳」
「そこは結構本気で落ち込むからあんまり言わないで欲しい……ていうか、芳野まさか……て、照れてるのか?」
私がそう言うと芳野はガバっと顔を上げた。赤い顔で、眉間にはシワがよっている。
「んなわけねーだろ!俺様がお前ごときに照れるわけねえ!」
「いや、現在進行形で照れてるだろ……」
「ちげえよ!これは、あれだ!最近暑くなってきただろ!?それだよ!」
「芳野。素直に“祐希のあーんにときめきました”と認めたらどうだ」
「認めるわけねえだろ!!…………って松江!?お前いつの間に……!?」
あれ、ほんとだ。いつの間にか松江が会話に参戦してる。
松江はガサガサと袋を揺らしながら私たちの近くに座った。
「本当は少し前に帰ってきてたが中々面白そうな現場だったから……つい、見てた」
「おいテメェその片手に持ってるスマホどうした。なんで隠すように持ってんだおい」
「何言ってるんだ芳野。隠し撮りするわけないだろ。そんな常識のないことはしない」
「俺まだ何も言ってねえよ!!やっぱ隠し撮りしてたんか!!消せ!!今すぐにそのデータを消せ!!」
「既にSDカードに移し済みだ」
「じゃあそのSDカードぶっ壊してやる!!」
「暴力はよくないな芳野。それよりこの和菓子おいしそうだな、祐希。これいただいてもいいか?」
「いいぞ。いろいろ買ってきたしな」
「お前ら俺に対しての扱い酷くねえか!?」
芳野が嘆いているのを見て、私と松江は顔を見合わせて笑った。
照れ臭い行動ではあったが、まあこれも1つの青春の1ページということでいいだろう。
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