アポロ的恋慕(琳×祐希)

 祐希は、驚くほど俺のことを異性として見ていない。
「可愛い」「癒される」という言葉ばかり並べてて、でも祐希が笑っているから俺も同じくにっこり笑顔を浮かべて「ありがとう」と言うのだ。
「大好きだよ」と言っても「私も琳のこと好きだよ」と恐らく俺とは履き違えた意味で返される。
「愛してる」と言っても「愛してるよゲームっていうやつか?」なんて言うんだから、もう。
 そういうところも好きだから俺は甘い。間違った捉え方をしててもそれを俺が肯定してしまうのだから祐希に本心が通じることはないのだ。
 今度は言葉からではなく行動で示してみることにして、ぐいっと、顔を寄せてみた。
 俺は祐希と身長が近い。当然顔も近い。慎みたく一七〇センチもないのが悔しいけど、そんなこと空に言ったら怒られてしまうから空の前では言わない。結構ナイーブなところあるから、空。
 まあ、それはいいとして。とにかく顔を寄せて、プラス微笑んでみたのだ。俺はどうやら一般的な十六歳より顔立ちが整ってるようだし、惜しみなく利用する。祐希は少し照れた様子を見せたが「相変わらず可愛いな」とはにかむだけで、なんだか悔しくなってしまった。
 だから、というか。
「俺のこと、ちゃんと男として見てる?」
 思わずいつもより更に顔を寄せて聞いてしまった。
共有スペースにあるソファーに隣り合わせで座っている俺と祐希、二人だけの空間なのもあって大胆な行動を取ってしまった。他の人はほぼ出かけていないから、余計に。
 祐希がびくりとし、顔が赤くなっていくのを見逃さない。少なくとも意識はしてくれてる、のかな。
「り、琳」
 薄紅色の唇から俺の名前が零れる。可愛いな。俺なんかより、今の顔を赤くしてる君の方がずっと可愛い。意識してなかったが、口元に笑みが浮かんでいたのだろう、祐希は更に慌てた様子を見せてくれている。
「もっと俺を意識して、祐希」
 彼女の顔が茹でダコのように真っ赤に染め上がり、こくこくと何回も頷く姿が愛しくてたまらなかった。
 祐希の唇をそっと指先でなぞればびくりと反応して、何かを言おうとしてるのか口を小さく開くもまた閉じる。ただ、目が「琳、どうしたんだ」と訴えているのだ。
 どうしたんだろうな、ほんとに。ただ、祐希にはちゃんと意識してもらいたいだけ。俺だって男なんだよ、ってことを。
 祐希の腕を引っ張ると勢いでそのままこちらに倒れこんでくる祐希をすかさず膝の上に乗せて、腰に手を回せば祐希は少し仰け反った。びっくりした顔がまた愛らしい。
 俺の膝の上から逃げようとする彼女に向けて、にへらと目を細めて笑う。祐希は、俺のこの顔に弱いのを知ってるから利用させてもらおう。案の定一瞬抵抗が弱まり、その隙に体をさらに密着させた。もう俺と祐希の体は向き合ったままピッタリとくっついている。
「ち、ちかい、りん、ちかい」
「だめ?」
「だ、だめっていうか……いやだめだから! 危な! 流されるところだった!」
「……どうしても?」
「うぐ……だめ、だって。近いよ。恥ずかしいから……」
 やっぱりダメらしい。ゴリ押しにも限度がある。
 照れてる祐希をもっと近くで見ていたかったが、さすがに可哀想に思えてきたために名残惜しくも離れる。祐希はあからさまにホッとしていて少しムッとしてしまった。もう一回ベッタリくっついてあげようか、と思うもこらえる。祐希に嫌われる方が辛い。
「そ、それじゃ、琳。私自分の部屋に戻るから」
 いそいそと立ち去る祐希の後ろ姿を眺めながら、俺も自分の部屋戻ろうかな、と思ったところでポコンッと軽快な通知音が鳴る。
 誰かからメッセージがきた。芽吹、と表示されてる。なんだか嫌な予感がしつつロックを解除し、メッセージを見てみる。
『空と慎には黙っててやんよ』とだけ、あった。……さては見てたな。今日は空と慎とナツキと時雨は出払っているが、芽吹は部屋にこもっていたのだ。
 既読だけつけてスルーしようとしたが、また通知音が鳴りすかさず見てみると『あんまり祐希をいじめてやるなよ』と、何やらキャラクターがじっとこちらを見つめてるスタンプが送られてくる。
 いじめてるつもりなんて、ないよ。そういう思いを込めながら「分かってるよ」とだけ返した。

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