Happy birthday~7月14日~(ナツキ×祐希)


 まだ真夏日ではないが、外を歩けば汗がじんわりと滲む季節となった。
「ナツキさん……今日はなんだか暑いな」
「……うん」
 そう静かに頷くナツキさんだが顔は涼しげで全く暑そうには見えない。だが、初めて出会った春の時より少し伸びた後ろ髪をヘアゴムでくくりあらわとなったうなじには汗が浮かんでいた。やはり暑いのだろう。
 なぜこんな暑い日にわざわざエアコンの効いた寮を出ているのかというと、本日お誕生日様であるナツキさんの誕生日会のために準備を進めているのだが時雨さんが「あちーから皆の分のアイス買ってきてくれ。寮監から貰った金があるから。はいこれ。じゃ、頼んだぞ」と私に頼んだのだ。そしたらナツキさんも着いてきた。まあ食べ物が絡んでるなら当然だよな。
 コンビニに行くまでの距離はそう離れていない、が、朝から夏らしいむしむしした気候のせいで肌が汗でベタついている。風も吹いていないため太陽の光が燦々と振り注ぐ外は軽く地獄だ。本当の地獄はこれから……なのはわかっているつもりだが。
 ふと、ナツキさんの横顔を一瞥する。相変わらず中性的な整った顔立ちだ。神様が良いパーツばかり集めて作ったらきっとこんな感じなんだろうな。
 伏し目がちなためか、長いまつ毛で甘ったるい茶色の目に影ができている。そんな姿もよく似合っている。
 首元の汗をTシャツの襟元で雑に拭うナツキさんは私の視線に気づいたのか首を傾げてこちらを見つめてくる。
「……どうかした?」
 甘いマスクをしているが声は意外と低め。そこがまたいい。
「ナツキさんってやっぱかっこいいなと」
「?」
 喉仏に目を奪われかけたが、ナツキさんの整った顔立ちを真っ直ぐ見て照れくさくなりながらも言った。
 コンビニに到着すると、ナツキさんはアイスが入ったショーケースへと吸い込まれた。驚きの吸引力。
「……」
 そしてものすごく真剣に考えている。アイスは一人一つと決まっているためナツキさんは必死だ。
 私はあずきバーかなぁ。芳野が狂ったようにあずきバーばかり食べてるから私も食べたくなってる。
 琳はりんごシャーベットだろ、空は……まあチョコ味のなんかにしとけばいいか。慎はぶどう味……芽吹さんは「俺の好きそうなもの買ってきて♡」って言ってたから王道のバニラでいいや。バニラが嫌いな人なんていない。多分。時雨さんはかき氷アイスだっけ。コンビニにあるのか?あ、あった。能登さんの分も買わないとな、そういえばピノ好きって言ってたしピノにしよう。
 ぽいぽいとカゴにアイスを入れていく。そこそこ重くなってきたな。
「ナツキさーん、私はもう皆の分いれた……」
 まだ悩んでいるものだと思いナツキさんに声をかけようとした。だが、忽然と姿を消していた。
 まあ、お菓子のところにいるよな。と思いながら移動すると案の定いた。
「ナツキさん」
 右手にパピコを持ち、お菓子の陳列棚を穴が開きそうなほど見つめてるナツキさんに声をかけた。私の方を向きこてんと可愛らしく首を傾げてる。可愛い。
「……なに?」
「アイスだけですよ」
「……………………わかってるよ」
「ほんとかなぁ」
 訝しりつつ、会計済ませましょと促せばナツキさんは素直に応じてくれた。
 ぱぱっと会計を終わらし、店員さんがアイスの入った袋を私たちの方に寄せるとナツキさんがサッと持った。突然だったのもあって口から「えっ」と言葉が漏れてしまう。コンビニを出るなり私はナツキさんの横に並ぶ。
「ナツキさん、私が持つぞ」
「……こういうのは男が持つの。俺に任せておいて」
 表情は相変わらず無に近く、それでも少し誇らしげに言っている……ように見える。
 なんだか、女扱いされていることがむず痒くてしょうがない。
「……祐希」
「あ、はい」
 ぼけっとしてしまった。ナツキさんの横にいたはずなのに、気づいたら私より5歩先にいた。
「……手繋いで帰りたいって言ったら怒る?」
「…………………………」
「……本気だよ?」
「で、すよねー冗談で……あれ?本気?」
「ん」
 そう言って袋を持っていない方の手を差し出すナツキさん。ほっそりと長い指だなぁと呑気に考えそうになったがそんなことを考えている場合じゃない。
 私と手を繋いだところでなんのメリットもないんだが……と言おうかと思ったが「……今日の主役は?」と遠回しに反論を拒まれた。私はおずおずと手を伸ばし、ナツキさんの手を、と言ってもナツキさんの大きい手の指あたりを軽く握ることが精一杯だった。
「……祐希手小さいね」
 ぼそり呟いた言葉と共に少し手を握る力が込められた。手が小さいなんて、そんな可愛らしい手をしているようには私に見えない。照れ隠しでそう言いそうになったが、口を噤んで言葉を選び直す。
「ナツキさんの手が大きいんだ」
「……そうかな?」
「そうだぞ」
「……そうかぁ」
 指辺りを握っていた私の手を掬い上げるように、大きい手で覆いぎゅうと握られる。恥ずかしい。人がいないことが救いだ。
 ナツキさんが私の顔を覗き込んできていて少しびっくりしていると薄い唇から「……祐希」私の名前が出てきてまたびっくりした。どくどくと速く脈打ってうるさい。
「は、はい?」
「かわいい」
「…………それは、ないです」
「……ふふ」
 ​────結局寮に入る直前まで手を繋いだままだった。頭が、手が、身体中が暑かったのは、外の暑さだけではない。いや間違いなく外の暑さ以上に……ナツキさんのせいだ。優しく目元を和らげて微笑んだ顔がこびりついて離れない。
 あぁ、早くアイスを食べてクールダウンしたい。
 偶然玄関口にいた時雨さんに火照った顔を見られてしまい、熱中症か?大丈夫か?と心配させてしまった、わけだし。

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