【上山晃 Q&A】米中対立と第一次世界大戦の類似性

【質問】

過去のパターンとの類似性という観点でいうと、現代の米中対立は、第一次世界大戦前にイギリスとドイツの対立に似ているってことですか?

【回答】

そのように捉えることは可能です。現在のウクライナ戦争は、第一次世界大戦のような歴史的な転換点となる可能性があります。その一つの影響が、ドル基軸通貨としての役割に現れています。ドルはこれまで各国にとって信頼性のある通貨でしたが、アメリカがドルを武器化し過ぎたことにより、世界中の国々がドル依存にリスクを感じるようになりました。さらに、連邦準備制度(FRB)がドルの管理を適切に行えていないとの認識が広がり、FRBへの信用が失われつつあります。

FRBは過去30年間、市場から「FRBの金融政策に対抗するポジションは作るべからず」という政策への信用を享受してきましたが、これが揺らいでいます。特に2021年にFRBが「インフレは一時的だ」と言い続けたことは大きな誤りでした。さらに、Powel米FRB議長自身が「現在のマクロ経済モデルが機能しておらず、日々のマクロ経済データに基づいて金融政策を決める」と発言しました。これが市場のFRBへの信頼を一層損なう結果となりました。このため、FRBがインフレをコントロールするのはますます困難になりそうです。

一方、中国などの「グローバルサウス」の国々は、この状況を見つつ、ドル以外の代替通貨に目を向け始めています。グローバル金融システムがドルを基軸通貨として中心に置いているため、ドルシステムの混乱は全世界にリスクを及ぼします。こうした状況の中で、各国はドルへのエクスポージャーを減らすことを試みています。

特にウクライナ戦争時の対ロシア中銀の制裁は、ドル以外の代替決済システムを持つ必要性を強く感じさせ、ドル依存のリスクを改めて浮き彫りにしました。中国はこの動きをリードし、自国通貨ベースでの貿易取引を推進しています。つまり、今はまだドルを全否定する段階ではありませんが、その依存度を緩和する動きが見られます。これらの動きは、米中対立の中での新たな動きと捉えられ、覇権の移り変わりの一環とも言えるでしょう。

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