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【上山晃語録1】国際情勢におけるゲームのルールとは

A. 19世紀のゲームのルール

ゲームメーカー イギリスによる金本位制

まずは基本的なとこから。1815年、ナポレオン戦争を終結させたワーテルローの戦いは、現代の世界を理解するための重要なキーポイントになるんだよ。この戦いでフランスは敗北し、賠償金をイギリスに対して金で支払った。ここから始まったのが、スターリング・ポンド金本位制。これがトリガーとなり、イギリスがゲームメーカーとして約100年間、世界に影響を与える「パックス・ブリタニカ」時代が開幕したわけよ。

「ワーテルローの戦い」ウィリアム・サドラー (画家) - Napoleon.org.pl

この賠償金がきっかけで、そしてそれと並行してイギリスが世界最強の海軍を持ち、各大陸に植民地を持つ貿易立国だったから、ロンドンが貿易と金融の中心地になった。その結果、ロンドンは世界の取引や金融ネットワークの中心となり、すなわち世界のゲームメーカーの役割を完全にイギリスが担うようになったわけ。

この金本位制を維持するには、常に新たな金の発見・採掘が必要だったんだよね。この役割を果たしたのが1840年代のアメリカのカリフォルニアやオーストラリアでの金の発見。特にオーストラリアは当時イギリスの植民地だったから、イギリスはそこから金を自由に取り出せた。これが金本位制を確立する足がかりとなったわけ。

次に、1870年が特に重要なポイントとなる。この年は、ドイツが統一国家となった年で、これが金本位制への大きな流れを引き起こした。ドイツがイギリス主導の金本位制のネットワークに参加した途端、世界全体が金本位制にシフトしたわけ。そして、この1870年から第一次世界大戦までの期間、これが「第一次グローバリゼーション」と呼ばれるようになったんだよね。

我々は1990年から2020年の約30年間の「第二次グローバリゼーション」をよく知っているけど、実はその前にも「第一次グローバリゼーション」、つまり金本位制のスターリング・ポイント体制が存在した。その時代、電信技術や蒸気船といった交通手段が急速に発展し、人と物と金の自由な移動が劇的に進化したんだよ。この時代、ゲームメーカーとしてのイギリスが中心的な役割を果たしていた。

この体制を支えていたのは、ロンドンを中心とした金融市場と金本位制、スターリング・ボンド金本位制という通貨システムだった。日本も日清戦争で勝利したときにスターリング・ポンドを賠償金通貨として得て、金本位制を導入したんだよね。当時は、金本位制を導入できる国は先進国と見なされていた。そして、この金本位制を作ったのはイギリスだった。

国民国家体制

もう一つの大きなポイントは、ナポレオン戦争が終わった時に戦争のあり方が変わったこと。それまでの戦争は、主に傭兵部隊が活躍していた。スイスの傭兵部隊とか、超強力な傭兵たちがいて、彼らを雇って戦争をやっていたわけ。これは、契約に基づく戦争だから、一般的には大量の無関係な人々を巻き込むような混乱は起こらなかった。

"Erinnerung an den Befreiungskampf in der verhängnisvollen Nacht 18.-19. März 1848"

一方、ナポレオンがその全てを変えたんだよ。ナポレオンが新たに打ち出したのは、フランス人のアイデンティティや愛国心に訴えるという方法。つまり、ナポレオンは、初めて「国民国家」を作り上げた。それまでは帝国主義が主流で、国民が自分たちの国を守るために自ら戦争をするという考え方はなかったんだよね。それに対して、ナポレオンの軍隊は、兵士たちのモチベーションが非常に高く、ヨーロッパ全土を制圧したんだ。その結果、世界中が「国民を作らなければならない」ということを学んだわけ。

そして1807年から1808年にかけて、ドイツのフィヒテという人が有名な演説「ドイツ国民につぐ」を行った。その時、今日のドイツは30以上の小さな領邦に分かれていたんだけど、フィヒテはそれらの地域に「ドイツ人」というアイデンティティを訴えた。この動きが後の1870年にドイツが統一されるきっかけとなっていくんだよ。

国民国家という考え方は、戦争をする上でとても有利なシステムだったんだよね。なぜなら、それまでは傭兵を雇うためにはお金が必要だったけど、愛国心の高い国民なら、無償で戦争に行ってくれるようになったから。その見返りとして、国家は国民にインセンティブとなる政治参加権を与える必要が出てきた。これが、民主主義が広がっていくきっかけとなったわけ。

この19世紀、世界は帝国主義から国民国家へとじわじわと変わっていった。「帝国主義から国民国家へ」というロジックで国際政治の流れを読み解くことはとても重要なポイントだよ。

つまり、19世紀は、イギリスが「ゲームメーカー」だった時代で、その一方でフランスやドイツが国民国家を作り始めてイギリスに挑戦していくという重要な転換期でもあったんだ。

B. 2つの世界大戦の意義

https://www.history.com/shows/the-world-wars

第一次世界大戦の意義

第一次世界大戦、その意義って何かと問われると、色々な角度から見れるけど、一番大きいのは帝国主義国家がほとんど消え去ったってことだよね。具体的に言うと、オーストリア・ハンガリー帝国、ロシア帝国、ドイツ帝国、オスマン・トルコ帝国といった大国が全部破綻した。そして、戦争が終わると、アメリカ大統領のウィルソンが初めて国民国家を語りだした。それまでは多民族・多宗教・多言語という帝国主義が主流だったけど、そこから人種・宗教・言語の一致した国民国家へと移行したんだ。

もう一つ、世界の覇権の移行期に世界が不安定化したってことも大事なポイントだよ。これを「ツキディデスの罠」と言うんだけど、トップの地位をキープする国に対して次点の国が挑戦すると、大きな戦争になるパターンのことね。第一次世界大戦では、覇権国家イギリスに対するチャレンジャーがドイツだった。

つまり、第一次と第二次世界大戦は、覇権が移る時の大混乱期に当たる。覇権が移行するときには戦争や大恐慌が起こりやすいんだよね。これは重要なパターン認識。

例えば、第二次世界大戦が終わった後、イギリスからアメリカへ覇権が移ったんだけど、その時にも大混乱が起きた。覇権国家が変わる時は、社会の秩序が一気に変わるから、大戦争や大恐慌といった混乱が起きやすい。これは覚えておいてほしい。

歴史の流れを見ると、イギリスの覇権が約30年かけて移行したんだ。その間に2回の大戦争と大不況が起きた。この不況や戦争が旧体制の解体と新体制の構築を加速させるんだよね。これも覚えておいて。イギリスの覇権や欧州の植民地支配、これらが解体されて、新たに共産主義やアメリカといった新しい覇権が台頭してきたわけ。

第二次世界大戦の意義

さて、第二次世界大戦というものには、すごく大きな意味が隠れているんだよ。その中で一番大きいポイントと言えば、共産主義の台頭だね。グローバリゼーションが進むと、貧富の格差がどんどん広がるよね。格差が広がった結果、労働者にもっと権利を与えて貧富の格差を縮小しようというマルクス・レーニン主義が生まれた。再分配によって貧富の格差をなくそうという理念が共産主義だけど、この思想が第二次世界大戦を経て急速に台頭してきたんだよね。

ちなみにこの第二次世界大戦前の状況と現代とは、とても似ているよね。二度目のグローバリゼーションによって世界中、特に欧米で貧富の格差が拡大したことで、社会の連帯意識を弱める結果となって、特にアメリカでは、中産階級の疲弊によってアメリカ人としてのアイデンティティが失われてきているんだ。これが民主主義にとって大きなリスクをもたらしている。

つまり、グローバリゼーションには、経済発展というプラスの面と、社会の分裂というマイナスの面があるわけ。この二つの側面を考慮すると、第一次・第二次世界大戦やその前後の恐慌のように、現在の第二次グローバリゼーションも同じように大きな混乱を引き起こす可能性があるんだ。だからこそ、この視点から世界を見る必要がある。

それから、重要なポイントとして、イギリスの衰退が挙げられるね。イギリスは第一次・第二次世界大戦で勝利したけど、経済的にはかなり打撃を受けたんだよね。結果的に1940年代にはインド、パキスタン、バングラデシュなどの植民地をすべて手放すことになった。そして1968年に、イギリスはスエズ運河よりも東の地域から軍を撤退すると宣言したんだよね。

その5年後にオイルショックが起きたんだけど、僕はここに重要な意味を見ているんだ。それまで中東で警察官的な役割を果たしていたイギリスが撤退したことで、中東にパワーの空白が生まれたと思うんだよね。例えば、オマーンやUAEなどの国々が1970年から71年にかけて独立したわけだけど、その数年後の1973年にオイルショックが起こり、大きな混乱が生じた。

それと似たような状況が2013年9月にも起こった。アメリカのオバマ大統領が「アメリカは世界の警察官をやめる」と宣言したんだよ。これを聞いた時、中東が再びパワーの空白になって混乱するだろうなと思った。

それからね、地政学的な視点も重要になってくるんだよ。力の空白が生まれるとパワーの空白を埋める国や勢力が必ず台頭してくるんだよね。例えば、第一次世界大戦前まではイギリスが圧倒的なパワーを持っていたけど、1870年のドイツ統一帝国の成立以降、ドイツがどんどんと台頭した。これと同じことが現代でも起きていて、中国が急速に台頭している。

これらは構造的に見ると、過去のイギリスに挑戦したドイツ、現代のアメリカに挑戦する中国というように、とても似ているんだよね。だから、こういう歴史の中のパターンを探し出して、現在の事象を解釈する手がかりにするべきなんだよね。歴史の文脈、つまり歴史の各イベントの意味や歴史の流れの意味をきちんと理解しておくことが、今という時代においてはとても重要だと思うね。

さらに付け加えると、イギリスが世界からどんどん撤退して、1873年にはECB(現在のEU)に加入したことも注目すべき点だよ。つまり、世界の覇権国家であったイギリスが、ヨーロッパ諸国の一員になったわけだよ。これらの事象から学びを得て、現在と未来の動きを予測することが大切だと僕は思っているんだよね。

C. ランドパワーの台頭

https://youtu.be/51r8iXgKsdI

鉄道の発達

さて、現代の世界、特にアメリカと中国の間の力関係を見ていると、もはやアメリカだけが主導権を握る時代は終わり、多極化の時代が訪れているんだよね。そう考えると、その一角として経済、特に市場の役割が無視できないんだよ。

歴史を振り返ってみよう。ナポレオン戦争が終わってから、市場がどんな役割を果たしてきたか考えてみて。1870年から1890年代、第一次グローバリゼーションの時代、金を中心に経済が自由に動いてたよね。ロンドンのファイナンシャルセンターが経済発展を牽引して、債券マーケットがその中心にいた。つまり、ロンドンが世界経済のハートとなって、当時の市場メカニズムを動かしていた。

それと同じく、1800年代において最も重要だった産業、それが蒸気機関と鉄道だった。特に鉄道ね。例えば、1900年当時のニューヨーク・ダウ・ジョーンズの銘柄30種類中、なんと約20種類が鉄道関連の株だったんだよ。19世紀の株といえば鉄道株ってこと。それが示すように、鉄道が内陸の物流をドラスティックに変えてった。

大航海時代から始まった海上貿易、つまりSea PowerやSea Laneが活発だった時代から、山や谷に遮られていた地域を鉄道が繋げていくようになったんだよね。蒸気機関や鉄の発明によって、難しいと思われていたヨーロッパ全体の結束が、鉄道網の拡充で可能になったわけ。

シベリア鉄道の開通は特にインパクトが大きかったよ。1890年に広大な土地を横断するシベリア鉄道の建設に、当時友好関係にあったロシアとフランスが取り組んだ。フランスはロシアに大量の投資を行って、その結果として生まれたのがシベリア鉄道だったんだよ。この鉄道が日露戦争の前に開通していたら、日本は負けてたかもしれないよね。ただ運良く、シベリア鉄道の完成は日露戦争終結の数年後、1905年のことだった。

そして鉄道の時代が本格的に訪れる。アメリカでは1867年に大陸横断鉄道が開通し、物流が大いに発展。その結果、アメリカ経済が一気に飛躍したんだよね。現代風に言うと、インターネットが情報を一気に流通させ、情報の非対称性を解消したのと同じように、鉄道は経済のゲームチェンジャーとなって、全体の流れを変えていったんだよ。

歴史の視点から見る覇権の交替

Sea PowerとLand Powerの話になると、ハルフォード・マッキンダーというイギリスの歴史家の考え方が一般的だったんだよね。彼の考えでは、「海洋を制する者が強い」っていうわけ。大航海時代における西洋の優位性は、まさに海の航路を掌握し、世界の貿易差益を享受したからね。海洋勢力がヨーロッパ経済の優位性を支えていたともいえる。

けれど、鉄道が開発されることで、次はLand Powerが重要視されるようになったんだよ。シベリア鉄道のあるロシアだけじゃなくて、ドイツの3B政策なんてのも有名だよね。ベルリンからビザンティウム(現在のイスタンブル)を経由し、バグダッドへと繋がる鉄道網で、中東とヨーロッパを結んだんだ。

この新陳代謝を象徴するLand Powerの台頭に、当時の覇権国家であるイギリスは危機感を感じていたんだ。イギリスのエリートたちは、ドイツの台頭について警戒の声を上げていた。第一次世界大戦で、イギリスとドイツが対峙したのも、まさにSea Powerのイギリスに対し、Land Power]のドイツが挑んだからだね。

こういった歴史的背景を考えると、中国の習近平がトップになった後、2013年に提唱した「一帯一路」政策は目を引くよね。これは海洋と陸上の両方をカバーする政策で、中国から3つの陸上ルートでヨーロッパや中東と繋がり、さらに2つの海洋ルートも設けたんだ。

習近平が目指しているのは、海洋と陸上の両方を制する覇権国家の確立。彼が提案した政策を見ると、過去100〜200年の歴史を理解していれば、習近平が世界の覇者を目指していると感じるのも無理はないよね。

習近平の過去の発言をじっくりと分析すると、彼は2000年間の歴史的背景、特に中国のそれをしっかりと理解して、「一帯一路」の言葉を巧みに使っている。中国のトップである彼は、歴史の意味をしっかりと把握し、その上で自分の言葉の真意を伝えようとしているんだよね。

D. 力の空白地帯を狙うゲームメーカー

かつてイギリスが中東の戦略的地位を占めていたが、それが次第にアメリカの手に移った。それが象徴されるのが、1879年のアメリカ仲介によるイスラエルとエジプトのCamp David合意。この合意は、中東のパワーバランスを大きく変えたわけ。

Anwar Sadat, Jimmy Carter and Menahem Begin meet on the Aspen Cabin patio at Camp David, 09/06/1978, Fitz-Patrick, Bill, photographer

Camp David合意の歴史を理解すると、今年3月10日に起こった中国が仲介したサウジアラビアとイランの外相会談の意義がより深く理解できると思う。Camp David合意とは異なる次元ではあるが、やはり同じようなパターンが見て取れる。

アメリカが中東の警察官としての地位を占めるようになったのは、Camp David合意以降のこと。このパターンを理解すると、中国がイランとサウジアラビアの関係仲介を成功させたことで、これから中国がアメリカの代わりに中東で指導的な役割を果たす可能性があると見えてくるよね。

中国は、今、安全保障上の考慮から中東に目を向けている。なぜなら、中国は現在、世界最大の原油輸入国で、日々1200~1250万バレルの原油を輸入している。その中でも中東からの輸入が大半を占めるため、中国としては中東産油国との関係を確実に維持する必要がある。

過去のアメリカも同じだったんだよね。1998年のペンタゴンレポートでは、アメリカの原油輸入量が全体の60~65%を占め、中東からの輸入に大きく依存していることから、中東の安定した支配が必要とされていた。それが社会的なニーズとして認識されていた流れに、9.11という出来事が重なり、アメリカは中東に深く関与する道を選んでいくわけ。

当時、アメリカは中東への関与を強化することで、自国への安定した中東産原油供給を担保していた。しかし、2010-2011年頃に国内でシェール革命が起き、その結果、日量500万バレルだった国内原油生産量が日量1200万バレルを超えるに至ったんだよね。その結果、中東産原油に依存する必要がなくなり、中東の戦略的な重要性がアメリカにとっては低下した。オバマ大統領が「アメリカが世界の警察官をやめる」と発言したのはちょうどこの時期、2013年のことだ。

もし、エネルギー調達が安全保障上非常に重要とするなら、中国は確かに中東という重要なエネルギー源を押さえようとするだろう。それが、イランとサウジアラビアの国交回復を仲介した背景にもなっている。

サウジアラビアとイスラエル、またはイランとイスラエルとの関係を、中国がうまく仲介できた場合、中国はゲームメーカーとしての地位を固めるかもしれないね。今後、中国が、イスラエル、サウジアラビア、イランなどの中東諸国とどのように関わるのか注目する必要があるんだよね。

NHK:動きだした中国 習近平氏の“仲介外交” 中東に続きロシアでも?

他にも、ウクライナ情勢も注目する必要ある。ロシアとウクライナの間で誰が仲介役を果たすのか。戦争の勝者や敗者よりも、誰が仲介役を果たすのかが重要なんだよ。なぜなら、仲介役を果たす国こそが最も影響力を持つから。仲介する国が新たなゲームメーカーとなる可能性があるわけ。

第一次・第二次世界大戦と同様に、世界のヘゲモニーが大きく変わるとき、力の空白地帯が生じやすい。新たに生じた力の空白地帯を埋める役割を果たす国が次のゲームメーカーとなる可能性がある。

ウクライナ情勢や、中東地域の対立関係など、敵対関係を仲介するのが誰なのか、という視点から見ると、今後、中国が新たなゲームメーカーの候補となっている可能性がある。

19世紀はイギリスが、20世紀(2020年頃まで)はアメリカがゲームメーカーだった。そして今、ゲームメーカーの交代期が来ている。その交代期だからこそ、地政学的な視点や安全保障問題がより重要になってくる。

今後20-30年は安全保障を中心に世界がまわり、経済は二の次になる時代かもしれない。ナポレオン戦争以降の200年の歴史をパターンで認識すると、そういう可能性がみえてくる。

E.パターン認識の重要性

重要な3冊

パターン認識をマスターする上で、次の3冊の書籍が僕のお気に入りです。

まず一冊目はヘンリー・キッシンジャーの『世界の秩序』。『外交』もいいよ。彼の視点から歴史を理解することは、僕の考え方に大きな影響を与えている。彼の見解には完全には賛同できない点もあるけど、歴史の流れや文脈を理解する上では、キッシンジャーの視点は非常に有用。

次にオススメしたいのは、1989年にフランシス・フクヤマが発表した『歴史の終わり』と、1994年にサミュエル・ハンチントンが出版した『文明の衝突』。これらの書籍は政治や歴史を理解する上での重要な視点を提供してくれる。

フクヤマの『歴史の終わり』はリベラリズムの考え方を強調しているね。西洋的な普遍主義、デモクラシー、自由、人権といった価値観が究極の価値だと。この価値観さえあれば、経済発展もうまくいく、という理想的な論調だね。まさにアメリカが国家運営の前提としてきたリベラリズムそのものだよ。

一方で、ハンチントンの『文明の衝突』はよりリアリズムに基づいている。フクヤマが冷戦終結後、アメリカが西洋的価値感で勝利を宣言していた時、ハンチントンはその数年後に、世界が宗教や価値観の多様性からくる葛藤に直面するだろうと主張したんだ。実際、『文明の衝突』が出版されて7年後、9.11が起こり、アメリカはイスラムテロとの戦いを始めた。この経緯を見ると、ハンチントンの警告は重要だったといえるよね。西洋以外、特に中東ではリベラリズムの価値観が浸透するのは難しいことが改めて明らかになった。

キッシンジャー、フクヤマ、ハンチントン、この3人の考え方を押さえておけば、大まかな歴史の文脈を掴むことができる。細かな事実を覚える必要はなく、歴史の流れを理解し、それぞれの事象が何を意味するのか、それによってどういう価値観の変化が起こったのかをパターンとして認識する訓練が大切なんだよ。

そういうパターンをしっかり把握しておけば、新しい時事問題が出てきたとき、「あ、これって以前に見たパターンに似ているかも」ってすぐに思い当たるよね。それがあれば、今起きている事象を客観的に見つつ、予測もしやすくなるんだよ。

ゲームのルールを把握することの重要性

ゲームのルールっていう視点で見てみると、覇権国家や大国ってのがゲームの流れを作っていくんだよね。どういうプロセスで流れができるかを理解するのはとても重要。どんな大国も上り詰めては衰退する、そんなパターンがずっと繰り返されてきたからね。

人類の歴史を見てみると、過去2000〜2500年間で一つの国が圧倒的な力で世界をコントロールした時代なんて滅多に無いんだよね。でも、1990年から2020年の30年間っていうのは、アメリカが世界の軍事費の50%以上を担っていた。すごいパワーだよね。それによって世界の秩序が維持されていて、その結果、安全保障問題はあんまり心配することなく、経済的なグローバリゼーションに全力で取り組むことができた。

同じく100年前には、1870年から1910年ごろまでのイギリスが覇権国家として君臨していた「パックス・ブリタニカ」時代があったね。そのときイギリスは海上交通の要所を確保していた。マラッカ海峡やホルムズ海峡なんかは、物流上、絶対に通らなきゃならない重要なルートだったんだ。イギリス海軍がこれらのルートを確保していたことで、グローバリゼーションや航海の自由が保証されていた。これが「第一次グローバリゼーション」。

でも、覇権国家の力が衰えると、必ず地政学的な不安感や安全保障上の不安感が急激に高まるわけ。そうなると、経済よりも安全保障が優先される時代がくるんだよね。第一次・第二次世界大戦の間の時代と同じように、2020年代から2030年代、つまり今から20年ぐらいは安全保障が優先される時代が続くかもしれない。その結果、経済という視点は二の次になるかもしれないんだ。それに伴い、どんな経済活動も、安全保障を前提に考えないといけないかもしれない。

だから、今の時代を理解するためには、歴史の流れを把握するのは本当に重要なんだよね。それがベースの視点になる。

要約

・1815年のナポレオン戦争終結後、フランスがイギリスに金で賠償し、これがスターリング・ポンド金本位制の始まりとなり、「パックス・ブリタニカ」時代が開幕。イギリスは世界の金融と貿易の中心地となり、ゲームメーカーの役割を果たした。もう一つ新しいゲームのルールが誕生した。それがナポレオン戦争後の国民国家体制。戦争のあり方が変わり、フランスとドイツは国民国家を形成し、当時のゲームメーカー イギリスに挑戦し始めた。

・第一次世界大戦によって、帝国主義国家の消滅と国民国家の台頭が起こり、覇権の移行期に世界が不安定化した。その一方で、第二次世界大戦は、格差社会の中で共産主義と新覇権アメリカの台頭が起こった。世界の覇権が移行する際の混乱は、歴史的なパターンであり、これらを理解することは、現代のグローバリゼーションとその影響を把握し、新たなパワーバランスの動きを予測する上で重要。

・19世紀から20世紀初頭の鉄道開発が経済の多極化と物流の進化を牽引し、覇権の移行を引き起こした。蒸気機関と鉄道は海上貿易中心の「Sea Power」から陸上交通の「Land Power」への転換をもたらし、特に大陸横断鉄道やシベリア鉄道の開通は世界の物流に大きな影響を与えた。今日、中国の習近平はこの歴史を理解し、「一帯一路」政策を提唱。彼は陸上と海洋の両方を制覇する覇権国家の確立を目指しており、その政策と発言からは彼が世界の覇者を目指していると感じられる。

・19世紀のイギリスから20世紀のアメリカへと中東地域のゲームメーカーが交代したように、現在中国が新たなゲームメーカーとして台頭している。その象徴として中国が仲介したサウジアラビアとイランの外相会談が挙げられる。これはアメリカが中東のパワーバランスを変えたCamp David合意と似たパターンを示す。中国の中東への関心は、自国のエネルギー需要を満たすためで、過去のアメリカと同じである。中国がこれから中東諸国とどう関わるかは、今後の地政学的視点で注視すべきだ。

・覇権国家が世界の秩序を形成すると、経済的なグローバリゼーションが加速する。しかし覇権国家の衰退とともにパワーバランスに変化が起きると、経済よりも安全保障が優先される時代が来る。こういった歴史のパターンを理解することが重要。

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