赤ずきんちゃん
一昨年だかの年末、派遣のバイトで流通センターで働いていた。
現場に向かうシャトルバスに乗り込むとまずそのメンツに圧倒された。東南アジア人、東南アジア人、東南アジア人、居心地悪そうに端の席に縮こまっている日本人。バスの中はエスニックな香りに包まれていた。間違いなくあれは錯覚ではなかったと思う。
現場は彼ら東南アジア人の独壇場だ。現場でのやり方は彼らが一番よく知っている。僕が作業の進め方がわからずに右往左往していると、ザ・インド人といった風貌の男が片言の日本語で親切に作業の進め方を教えてくれた。彼らは全員日本語学校に通っていて、アルバイトとしてここで働いているのだろうか?
流通センターの職員が、僕と同じ派遣社員に、重機の上から怒鳴りつける。
「ボーっとつっ立ってないでさぁ!分からないことがあるならちゃんと聞こうよ!お金払ってんだから!」
怒鳴られた彼は困惑した顔で重機を見上げ、俯き、やがて荷物が流れてくるコンベアーのラインの方にとぼとぼと歩いて行った。
僕のそこでの仕事は、コンベアー("レーン"と呼ばれる)から流れてくる荷物を適切なキャリアーに積み込むことだった。荷物には配送先を示すシールが貼られていて、それを頼りにキャリアーに一つづつ積み込んでいく。
キャリアーがいっぱいになると例の東南アジア人たちが積み込み間違いのないことを確認する。そしてキャリアーを交換し、仕事は振出しに戻る。
僕が積み間違いをしても彼らは何一つ嫌な顔をせずに、むしろ笑顔をこちらに向けながら
「これは、こっち、OK?」
と教えてくれる。
何故彼らはこんなに優しいのだろう。何故彼らの代わりに、あの怒声職員が重機の上にいるのだろう。
作業開始から三時間経つと、僕ら派遣社員は一時間程休憩を取れる。
休憩室には長椅子が九台ある。三掛け三の配置だ。僕は中央の最後列のど真ん中に座った。
僕は総菜パンをかじっている。僕の前の長椅子には赤いフード付きのパーカーを着た日本人が座っている。彼曰く、「よくここに来ているので業務内容は一通り分かっているつもりだ。分からないことがあったら聞いてくれ。」
歳の頃三十程。疲労には甘いものが効く。だから僕はジャムパンをかじっている。かじりながら、彼の頭皮についたフケが剥がれ落ち、後頭部を伝って転がっていくのを目撃した。彼のフケはそのまま彼の赤いフードにすっぽりと吸い込まれていった。
僕はそういった光景に「死」を感じる。
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