kono星noHIKARI 第14話
GEMINI & ORIGINAL Ⅵ 2020.03.30
ニコとジェフがその後も検索を続けたが、やはり、相馬ほど可能性のある人物を見つけることはできなかった。
ルカがビルに到着する直前に夏海からLINEが入った。
〔ただちにそちらに向かうそうです〕
——やっぱりA105(エーファイブ)だった。きてくれる!
〔心臓と肺の動きと血栓に気を付けて、と〕
このLINEの情報をルカはすぐニコに伝えた。
ニコ「凄い!A105が来てくれる!先代が会って以来だ。こんなことってある?」
テンションがあがる。
ジェ 「怪我のコーミョー?」
ニコ 「何かニュアンスが違うと思うよ」
ニコとジェフはオフィスに走り戻った。
ニコ「リオ、大丈夫?代わるね。うん、安定してるね。A105は今、相馬(そうま)と名乗って、青森で開業していた。こっちに来てくれる。ルカが確認してくれた」
リオ「ほんと?よかった!」
ニコがFILMを発生させ、リオがその場を離れる。ニコがノアの頭を膝に乗せた。
FILMを収め立ち上がったリオの顔をジェフが覗く。鼻の先と頬を赤くして、目を充血させているリオに、 頑張ったネと、ティッシュの箱を渡す。
リオ「うるせえなぁ──でも、ありがと。ジェフ」
リオは箱を受け取り、思い切り鼻をかむ。
ジェフと目が合ったダニーは照れくさそうに頷いた。
ルカがオフィスに着いた。
ルカ「ニコ。ノアは?」
息を切らしながら尋ねる。
ニコ「ありがとう。ノアは変化はない。大丈夫。相馬先生が青森から来るのであれば、時間はかかるよね。でも、絶対、助かる。絶対」
ルカ「待つしかないのか」
ニコ「そう。僕は僕がやれることをして待つ。相馬先生がくるまで何としても」
ダニ「なんで、ノアはこんなにこの星に来ることを望んだ?」
ノアを見つめながらニコに尋ねる。 今日、初めて会ったばかりなのに、ノアに対する親近感を不思議に思う。もう何年も前から知っているような感覚は多分、リオもジェフも抱いている。
ニコ「あーそうね。小さいころからこの星の生物に興味は持ってたよ。実際に見てみたいってのが一番だと思うんだけど両親からある日、相談されたんだ。「ひとりが怖い」って夜中に泣くんだって。両親が一生懸命抱きしめて、パパもママもここにいるから怖くないんだよって言っても、なかなか泣き止まなくてどうしたらいいんでしょうって......一時的な現象、成長の過程だろうから、大変だけど、泣き止むまで抱きしめてあげてって伝えてたの。小さい子はよくあるからね。少ししたら、泣かなくなったって。でも、ノアに聞いたら、まだ、知らない場所にひとりでいる夢を見るって言ってた。我慢できるようになったんだよって笑ってたけど、それがこの星と関わっているとずっと思ってる節があって、両親にも伝えたのよ」
ダニ「TRANSは反対したでしょ?」
ニコ「いや、ノアに確認させてやってくれって。こんなチャンスはないし、ノアの気が済むようにって」
ダニ「ノアの親、すごいな」
ニコ「僕もそう思う。え?待って。リオにTRANSのOK出したのってダニーじゃないの?」
ダニ「あ、そうか」
ニコ「何言ってんの。ダニーもすごいじゃん。うははははっ」
窓の外で赤く染まっていたビルが紫に変わり、そして藍色に吸い込まれていく。5人はお互いとノアを気遣いながら、相馬が着くのを待った。
カウンターの椅子に座るルカの横にリオが腰掛けながら聞いた。
リオ「ルカはどうして相馬さんのこと気付いたの?」
キッチンでは、ジェフがリンゴの皮をむいている。
ルカ「前にTRANSしてこの星に来た時に、俺が怪我をして、それを助けてくれた女の子がFILMのことも知っているみたいだったし、実家が北国で、相馬って苗字だったんだ」
リオ「偶然?」
ルカ「偶然っていうのかな。なんだろう、偶然って、実は必然のような気がするんだ。俺が彼女と会ったのも、ニコがノアを生まれる前から診ていたことも、ダニーのもとに君が誕生して、6人がここに集まったことも」
リオ「そうぉ?うふふふ。だったら、すごいことだよね」
ルカ「すごいことだよ」
ジェ「ボクも思うよ。ルカ、Why?あのroomでボク、PASSコード分かった?」
ルカ「俺が知るわけないよ」
ジェ「ええ〜?」
リオ「ジェフは代々のお役人の記憶があるからじゃないの?」
とリンゴを頬ばる。
ジェ「コア、知ってる先代いないよ」
リオ「そっか。りんご、うま」
ジェ「ボクは Miracle boyなの!?Yeah!」
ジェフが両手を天井に向けて、おどけてみせようとした時、ニコの突然の声に和らいでいた空気が凍った。
ニコ「ダニー、ノアを床に置いて!心臓が止まった!」
慌ててルカもジェフも床にノアを下ろす為に駆け寄った。
ルカ「ニコ、AEDは?」
ニコ「FILMを外す方がもっと危険だ!」
ひざまずいたニコが両手を組んでノアの胸を押し下げる。その度にノアの身体ががくんがくんと揺れる。
ニコ「だめだ!ノア、ノア!がんばれ!」
見ていられずリオが思わず両手で顔を覆った。
それとは別にリオの耳に響いてきた音があった。
パラララ...
パラララララ パラララララ
覆っていた手をそろそろと下ろし、窓の外に目をやった。
リオ「ヘリコプター?──ヘリだ。ニコ!ダニー!ルカ!ジェフ!ヘリの音だ!ヘリが来る!」
ルカがディスクへ走り、PCで屋上のカメラを操作する。
まだ、カメラでは確認できない。
リオ「絶対ヘリだよ!もうすぐ着く」
ルカ「あ、見えた。ニコ、見える?この人?」
ヘリの中の人物をズームした画面を見せる。
ヘリの音が大きくなりながら近づく。
ニコ「くっっ。そうだA105(エーファイブ)だ。早く!死なせない!」
ジェフがオフィスを飛び出して、屋上へ向かう。
ルカはPCで相馬が屋上から入れるように一瞬セキュリティを解除した。
数分と経たぬ間に、ジェフと、その後を懸命に走る相馬が部屋に飛び込んできた。
相馬「K143(ケイスリー)お疲れ。もう少し頑張って」
ニコ「相馬先生!」
相馬「挨拶は後だ。彼の名前は?」
リオ「ノア、ノアだよ!」
相馬「よし、ノアを助けよう。K143、心マ続けてて。私はMINDを探して手繰り寄せる。身体がここにあってよかった」
相馬がFILMを発生させた。
ダニ「俺はどうしていればいいですか?」
相馬に尋ねる。
相馬「FILMはそのままで。呼びかけて」
今、ふたりを覆うように発生したFILMは、やはりニコたちとは違い、FILM自体が生き物のようにうごめいていた。その中で相馬から放たれた細かな粒子がノアの身体に浸透していく。相馬は目を閉じ、集中する。
相馬「どこだ?もっとノアを呼んで」
リオ「ノアが戻りたがってる。僕たちのところに!助けて。お願い!早く!」
ノアのMINDを感じて叫ぶ。
ニコ「ノア!戻ってこい!ノア、ここだ!」
4人もノアの名前を呼び続けた。
相馬が閉じていた目を見開いた。その瞳はブルーに変化している。
相馬「あ、よし、見えた──捕まえた」
心臓マッサージするニコの手を制した。そして静かにノアを見つめた。
スッと、息を吸ったノアが瞼をピクピクとけいれんさせてから徐々に目を開け始めた。
リオ「ノア!......お帰り」
と、半泣きで覗き込む。ノアは口角を上げ笑おうとしたが、唇が震え始め、戻って来た安堵感と戻れなかったらと思う恐怖から涙が溢れ、それを隠すように両腕で顔を覆った。真珠の涙の粒が散った。
ニコ「ノア、大丈夫。もう、大丈夫だから。安心して」
ニコも長いまつげをしばたかせた。
相馬がダニーとニコのFILMを納めさせ、ノアの体に異常が無いか自分のFILMの中で確認している。ニコは尊敬する相馬が目の前で鮮やかにノアを連れ戻した事実に驚くしかなかった。
相馬「ノアをベッドに移そう。担架はある?」
ジェ「待ってってって」
とオフィスを出てすぐ移動式の簡易ベッドを押しながら戻ってきた。
ノアの部屋のベットに寝かせ、ニコと相馬はそこに残ってしばらく様子を見ることにした。
相馬「ルカ君?」
部屋から帰ろうとした4人の背後で相馬がつぶやいた。
ルカ「あ、私です」
硬直したまま後ろを向いたが、まともに相馬と視線を合わせることができないでいる。
相馬「後で話そう」
ルカは小さな声で、はい。と言うのが精一杯だった。
4人はオフィスに戻り歓声をあげた。ジェフがみんなにハイタッチを教えて、何度も入り乱れて手を合わせた。
ダニ「よかったー!本当によかった!」
ジェ「気が気だたよ!」
ルカ「あ、それ、気が気でない、ね」
ジェ「AHAHAHAHAHAHAっ。まちがっちゃったった。HIーHAHAHA!」
リオ「うん。よかった。すごいや相馬さん!僕泣けてきて。ノア死んじゃったらどうしようって...ノアが目を覚まして...う、また、泣きそう」
ジェ「何回泣いてんの?AHAHAHAHAHA。」
リオ「ジェフもダニーもルカもニコも泣いてたじゃん!」
ルカ「泣くよぉ。あれは」
ダニ「相馬さんのFILMすごかった!見た時、びっくりした。一緒に包まれたら、なんかすごく温かくて、気持ちよくて、優しくて、いい人なんだなぁって」
ルカ「温かい人だよね?いい人だよね。でも、俺、ちょっとまずいかも」
他 「?」
リオ「『後で話そう』ってやつ?」
ルカ「それ」
ジェ「相馬サンのムスメ?ルカどした」
ルカ「あ、あの付き合ってるっていうか、好きなんだ」
他 「Wow!!」
ルカ「どうしよう」
ダニ「相馬さんのあの口調は......」
ルカ「それよ...FILMに包まれて殺されたりしないよね」
ジェ「それ、いいね」
ルカ「おいっ!」
真顔のルカ以外の3人は明るい顔で笑い合った。
ニコから、ノアのFILMが発生し眠ったからもう大丈夫だとオフィスに連絡が入った。念のため、相馬もニコもしばらくはノアのそばにいるようだ。
間もなく日付が変わる。
いろいろな思いを胸に4人は自室に引き上げた。
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