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kono星noHIKARI 第15話

GALAXY BODY CLOCK I     2020.04.19


ニコ「あ、だめ。もっと瞬時に出して」

ノア「ええー?ふんむッ!」
 ソファーに座り足を床につけ、腕はハンドルでも握るかのような格好で全身に力を込める。力を込め過ぎて顔が赤くなる。ゆらゆらとFILMが発生する。
 相馬がこのビルに2週間程滞在してくれたお陰でノアのMINDと身体は緩やかに回復していった。
 笑顔のニコが何度もノアにFILMを発生させては収めさせている。

ノア「ニコ、まだ?」

ニコ「そうねー。力任せじゃなく、気持ちなのよ。もう5回やってみてよ。発生させるまでの時間はだいぶ短くなったよね」

ノア「え〜?5回?鬼だわ」
 とほっぺをを膨らませる。

 いずれニコは相馬の住む地へ行き、彼の知識に触れ、手技を学びたいと思っている。しかし、このままの状態でノアを残していく事はできない。
 相馬がノアのMINDを見つけ出し身体に戻した後、ノアは2日間眠った。その間、ニコは尊敬する相馬と積もる話をした。尽きることなく聞きたいことが溢れてくる。相馬からしばらくはこのような事態にならないだろうと言われたが、ニコには相馬のように離れたMINDを連れ戻せる技術はない。相馬に助けてもらうにしても、到着するまでにまた同じような状態になる可能性はある。ただFILM発生中にMINDは身体から離れないため危険を感じた瞬間にノアが自覚してFILMを出せるようになることが、身を守るための大事な最初の方法となる。せめて自分を守る術をノアに知っておいてもらいたい。

 相馬がこのビルに入ったことはビルのセンサーとジェフの定期連絡で知られているはずだが、Topや多国籍企業からのアクションは一切なかった。
 相馬は義理の娘である夏海に久しぶりに会えるとソワソワしていた。しかし夏海の仕事の多忙さに加え、ルカが相馬を危篤中にしたため「大っぴらには会えないのよ」と、あっさりと拒まれがっくりと肩を落とした。過去に一度死んだ事にもなっている相馬だが、時々外出しては誰かと会っているようだった。ビルに戻ってくる時は両手に沢山の食料をぶら下げ、時にはキッチンに立って、皆に美味しい料理を振る舞ってくれた。

 最初の1週間は、相馬とルカのギクシャクした態度に他の5人もハラハラしていた。相馬がMUGENの操作方法をルカから教えてもらう内にだんだん打ち解けてきたようで、ふたりが笑い会う姿を見た5人は胸を撫で下した。ジェフが相馬とふたりきりになった際に「ルカ、FILMに包まれて殺されるかも言ってたよ」と冗談まじりに伝えると「そうしようと思った」と真顔で即答され、ジェフはドキリとしたが、それをしなかった相馬にジェフは人知れず盛大に感謝していた。

 相馬が青森に戻る直前に、夏海とやっと会い、話ができたようで相馬はご機嫌だった。

 ジェフはノアの事も考えTopに相馬との連絡方法について掛け合い、独自サーバーの設立許可を得た。即座にルカと立ち上げ、強力なセキュリティのある電話やSNSをいつでも使用できるよう設定した。何かあった際に直ぐに相馬と連絡を取る事が可能になった。

ニコ「頑張ったら、ペットショップに連れってってあげる」
 外出を餌にして奮起させる魂胆だ。

ノア「ほんと?ほんと?頑張る!──ん〜ふんっ!」
 と嬉しそうに笑みを満面に浮かべながらまた顔を赤くし、踏ん張る。

ニコ「ん、だからねー。力じゃないのよ〜」

 ディスクではジェフとパジャマシャツ姿のリオがふたりの会話に時々笑いながら、PCを操作している。ダニーとルカは階下のシークレットルームにいる。

 絹のような髪をかき上げながらジェフに聞く。
リオ「originalってFILM出すのが大変だったんだね。僕らgeminiは無意識に出ちゃうよね?」

ジェ「originalは進化系よ。TRANSしないからFILM要らない。geminiでもFILMない人沢山」
 とノアを眺めながら言う。

リオ「そうなの?じゃあ、TRANSするのは古い世代?ノアは何でTRANSできたの?FILMがだんだん要らなくなるってこと?退化じゃないの?進化なの?僕らの星が地球と同じ環境に近づいてるの?」

ジェ「ん〜not understand だね〜。ん?ニコ、pet shop分かるか?」 
 
 あまり外出しないニコが知るよしもない。
ニコ「ジェフが知ってるよね」

ジェ「へ?ボク?」

リオ「わージェフも行く?僕も行く。着替えてくる!」

ジェ「へ?へ?」
 ジェフが目をパチパチさせている間にリオが自室にパタパタと駆けていった。

 新型コロナウィルスの感染者は日々最多を更新している。今後、どのような経緯をたどるかは、予想データを作ったダニーから全員が聞いていた。
   次々にウィルス株は変異し、人々を長い間苦しめる事になる。外部から入ったウィルスを排除する身体機能を持つ彼らではあるが、厳しい環境になっていく世の中と同化しなければならない。

 リオは髪を無造作に束ね、胸にはグロティスクなエイリアンが描かれた7分袖のTシャツにフラミンゴピンクのゆったりめのパンツ、踵の高いミュールを履いた足先はピンクパールのペディキュアで彩られている。
 ジェフは今日は地味目にネイビーブルーの開襟シャツとモスグリーンのカーゴパンツにストラップサンダル。
 ジェフから外出着のアドバイスをもらったニコは、インディゴのジーンズと白Tシャツに薄手のグレーのシャツを羽織り、足元は白のスニーカーだ。
 ノアはグリーン系のスポーティなジャージとセットのトラックパンツ、ジェフから借りたブルーのスニーカーを履いている。
 口元はマスクで覆ってはいるが高身長の彼らは周りからどうしても少し浮いてしまう。

 4月の割には暑いくらいの気温で、空も綺麗に晴れ上がっている。4人で外出する嬉しさで、おしゃべりも尽きない。

 ジェフが顔をしかめながらリオのTシャツを指さす。
ジェ「movieに出た人ね。口からスライムねー」

ノア「その口からスライム出してる人とオレたち、同じなの?」

ニコ「地球外生命体という点では同じだろうね」

リオ「やだ!ギザギザの歯でお腹食い破って出てくるんだよ?僕たちそんな下品じゃないし、グロくないよ!」

ニコ「それ着てそんなこと言うの?うははは」

ジェ「movieで、地球外生命体やられちゃうね」

ニコ「それは、映画の中だけ。僕たちの存在を分かっている人はほんの少しだし、僕たちが侵略してる訳でも無いし、狙われる心配はないよ」

リオ「僕、海外に行っても何もなかったよ。ナンパはされたけどね」

ノア「ナンパって何?」

リオ「そう、Usciamo insieme!(一緒に遊ぼうよ)って。断るの大変だったよ」

ニコ「イタリア語?」

リオ「そう。一番モテたなぁあの国。うふふふん」

ノア「うわぁ。地球外生命体なのに!」
 ノアの一言に皆が笑う。


ジェ「確かこの先ヨ」

 淡い青の空の下に看板を見つけたノアとリオが走り出す。店の入り口から陳列されている左右の動物に目を輝かす。ノアは動画での生物しか知らない。実際に目の前で動く生き物を瞬きもせずに見つめる。指差す動物の種類をノアが当てる度に、リオが驚いて声を上げている。楽しそうなふたりにニコもジェフも思わず顔が緩む。 

 何故か昼寝していたはずの動物達が起き上がりケースやガラス越しにノアに近付く。ハムスターはゲージを覗くノアの目の前にみっちりと積み重なる。ジェフが面白がって、アロワナが泳ぐ長い水槽の横をノアに歩かせてみた。今までほとんど一定の動きしかしなかったアロワナや、ほかの水槽の小さな魚までノアを追うように慌てて泳ぐ。

ジェ「AHAHAHAHAHA!animal magnetね!」

リオ「え?なんでついてくるの?おもしろっ!」
 リオが手を叩いて喜び、「ニコ、見て!」と振り返ったが、ノアを見つめるニコから笑顔は消えている。

 眠るノアの横で聞いた相馬の話をニコは思い出していた。

相馬「Galaxy body clock(宇宙時間)って知ってる?体内時計。我々の祖先が元々は持っていたらしい。恒星と惑星、衛星の自転関係?そんな普通の体内時計はこの星の人間も動物も持っているよ。そんなんじゃないんだ。それよりもっと広い銀河の範囲なんだ。流れが変わりそうな危機がいつどこで起こるか、感覚で察知する。彼が必ずそうだとは言えないけれど可能性は高い。時空軸を飛び越えたんだ。彼がどれくらい先に進んだか分からない。けれど、Galaxy body clockを持つ者は時空に歪みを作り、危機を回避させる力があると思われる。どんな方法かわからない。備わった本能が動く。危機が回避されれば日常がいつもの様にやってくる。誰も何かが起こったなんて気付かない。失敗すれば、惑星が消えるか、消えなかったら、地球の様に極寒の氷河期が来て、歴史が振り出しにもどる」

ニコ「──まさか、それがノア?まさかですよね。だったら、Galaxy body clockを持った人に聞けばいい、その人が正常に直せばいい。その人は?記録は?」

相馬「ない」

ニコ「え?ないって?」

相馬「未来の危機なんだ。危機を救ったのか、元々そんな危機があったのかわからないんだ」

ニコ「相馬先生は気付いているじゃないですか」

相馬「危機を回避させようと旅立った人は知っているが、帰って来ないんだ。消えてしまう。痕跡もなく。そして何の変哲もない明日が来るんだ─」

 ニコの胸に相馬の話が重くのしかかっている。
──動物がノアに反応している。これも、ノアのスペックのせい?もし、そのようなスペックがあるとすれば、ノアが宇宙の危機を救う?違う、ノアは普通のoriginalだ。生まれる前のお腹の中にいる時からノアを診てきた。生き物が好きで地球に興味があるだけの普通のoriginalなんだ。消えてしまうわけがない。
 リオがニコの不安を感じとる。

ジェ・ノア「うはぁぁぁぁぁぁぁ」
 ノアとジェフの幸せそうな大きな溜息にニコもリオも我に返る。ふたりの胸にはそれぞれもふもふした子犬が抱かれている。

ジェ「Oh~How totes adorable!!」─めっちゃかわいい
 ジェフの顔はとろけている。

 ノアは子犬の毛に顔を埋め、抱きしめ過ぎてショップの店員に注意されている。
ジェ・ノア「ニコ!これ欲しい」
 ほぼ二人が同時に子犬のような目をして懇願する。吹き出して笑うリオ。

 今回はひとまず帰ろうと、後ろ髪を引かれ悲しい顔のふたりをニコがズルズルと引きずる様に店を出た。

 ジェフのお気に入りのショップをいくつか覗いた後、ファストフード店でテイクアウトした食事6人分を手分けして持ちビルに戻る。
 オフィスではルカが飲み物を作って待っていた。ジェフとノアが外での話を身振り手振りを交えて大袈裟に話す。ダニーとルカが笑いながら聞く。最近はソファーやカウンターの辺りに皆が集まるようになった。

 今彼らが取りかかっているのは、ブラックホールの背後から向かってくる彗星の過去の記録と、軌道計算。他の天体や地球自体の動きの観測、MUGENシステムのチェックも再び行っている。

 ニコは、出かけた先の話に笑いながらも、相馬から聞いた話をいつどのように皆に伝えるか、ノアにも伝えるべきか、悩んでいた。


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