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kono星noHIKARI 第13話


GEMINI &  ORIGINAL Ⅴ 


月のない夜
海と空の境界が分かるくらい 大量の星が降っている
大きな流れ星は周囲を真昼のように照らし 白い尾を残して去っていく

波は穏やかで
水面にも星が浮いている
天を仰ぐ 流星群の真っ只中
無数の星は全方向から降り注ぐ

小さな岩のふんわり生い茂る珊瑚の上にいる
満潮時にはこんな岩は跡形もなく隠れるだろう
足先に海藻がゆらゆら触れる

いつからここにいる?
流れ星が照らす海の上に島影はない
船の姿さえもない

たったひとり

この景色を知っている
数十回、数百回も 見た景色
ここだ

星は降っていなかったけど

また 

あの夢に彷徨ってしまった?

たったひとり 寂しくて 懐かしい 

腕を動かして目の前に持ってきたつもりなのに
視界に写るものはなかった
海藻が触れる足先を見てもそこに足はなかった
オレはいるのに身体が見えない

醒めない夢?

オレ?
言葉を知っている?
なんで「オレ」なんだろう
「オレさ」
「オレは」
「オレが」
ここに来なきゃって
ずっと前から
いつから?

また 夢だよね?

誰か呼んだ?
誰?
誰?って言った人?

一筋の盛り上がった海面が
緩いカーブを描いて目前で
消えた

小さな水音と共に小さな子供が目の前に顔を出した
上半身だけを水面から出し下半身は海の中
透けるような肌は海水に溶けているようだ
銀色の髪の間に小さな小さな肩が見える
じっと見つめてくるブルーの瞳
幼くて愛らしくて美しい

初めてこの夢に出てきた

オレが見える?
あどけなく頷く
君 どうしたの?オレを呼んだ?
顔を左右に振る
君も呼ばれた?オレに?
オレじゃないよ

どうかなオレが
呼んだかもしれない

子供の手が足に触れた
小さな水かきのついた手が 見えない足の甲に乗っかっている
いたずらっ子のような上目づかい
可愛い
温かいね
わかるよ

・・・ん?オレ、何か着てる?
顔を左右に振る
うそー? 両手で下半身を押え
するすると水中に胸まで浸かった

すぐ横に子供の顔がある
不思議そうな眼差し

海は好き?
首を傾げる
泳いできたの?
少し考えて頷く
人魚なの?
首を傾げる

子供の頭越しに南十字星

ここは地球だ
呼ばれていた
自分の星にいた時から
ここに呼ばれていた

これは  『現実』  だ

ずっと 怖かった

でも
ずっと ここに来ることを望んでいた

ああ でも
まだだ
『今』じゃない
また ここに

今じゃない

子供が天を仰ぐ

まだなんだよね
頷く
君とまた会えるんだね
頷く
じゃあ寂しくないね
初めてその子供が微笑んだ

じゃあそのときまた

そのときに
なにが
あるんだろう

すごく遠くて暗いところにひとりでいる夢をみて
寂しくて寂しくて泣いて目が覚めるんだ
何度も

ああ 
でもひとりじゃないんだ
君もいるんだ

腕を触る小さな水かきのついた白い手
その上に自分の手を重ねてみる
小さな手
ああ温かい
現実なんだとわかるよ

ブルーの瞳の奥に
宇宙が見える
尊い色だ

君も怖かった?
首を傾げる

もし 暗くてひとりぼっちの怖い夢をみたら
オレがそばにいるから泣かなくていいよ
頷く

小さな手がすり抜けた
帰る?
頷く
じゃあまたね

とぷん と 子供は沈んだ

シンと静まり返った海の水面が盛り上がり
目前を左に旋回し北へ直線を引き去っていく

大きな流れ星が海面を照らした
島が見えた
違う
大きな水柱があがる
クジラのブロー(息継ぎ)だ

クジラが水面から大きく上半身を夜空に突き上げ
弧を描き反転しながら頭から水中にゆっくりと沈んでいく
大きな胸ビレが流星とクロスする
次に大きな尾ビレが海面を叩いた

海水は飛沫となり幻想的な霞が広がる

存在を誇示するかのような一度きりのジャンプ
この星の最大哺乳生物シロナガスクジラだ
こんな南に?
クジラの消えたあたりをずっと見つめた
霞が残像のように海上を漂う

流れ星が減りはじめた

再び静寂の海が広がりつつある

見えない足で水面を波立たせてみた
ちゃぷちゃぷちゃぷ............
星も揺れる

水面が上がってきた
温かい
抱きしめられた温かいぬくもり
笑顔で差し伸べてくれた優しい手
一緒に笑ってくれた人たち

誰?
誰って言った人の眼差し
光のある眼差し
でも優しい眼差し
優しい人たち
抱きしめてくれている

ノア?
ノア  ノア  ノア
オレの名前だ

空を仰ぐ

今は
戻りたい
戻りたい

あぁ どうやって 帰ろう


水面がすべてを
覆った


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