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CHANEL Fall-Winter 2021/22 に 中宮定子の面影


CHANELのこの秋冬のオートクチュールコレクションのFilm を見ました。

とりどりで、さまざまで、女であることを謳歌する服たち。最近ちょっとリバイバルしている80年代っぽいテイストも醸されていて、リーゼントに結わえられた髪の後ろにたなびかせる黒のタフタのリボンたち。

この状況下での演出も、「仕方なく」ではなくて、「これじゃなくては」となっていて、本当にため息。。

1982年から37年間シャネルを率いたカール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)が2019年に亡くなったあと、後継者となったのは、ヴィルジニー・ヴィアール(Virginie Viard)。

意外なことに、女性が舵取りをするのは、
ガブリエル・シャネル(Gabrielle Chanel)以来初めてだそう。

「これは女性が創る服ですね」とFBのコメントがあったのですが、
本当にそうだと思う。

そして、この Film を見終わった時に、円地文子の『なまみこ物語』に出てくる「藤原定子」を思い出しました。

コレクションのラストルックのサテンのウエディングドレスが、あまりに彼女のイメージに重なって。

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『なまみこ物語 源氏物語私見』円地文子(講談社学芸文庫)
*『なまみこ物語』の初出は昭和34年(1959年)


この『なまみこ物語』の主人公の中宮定子は、そのサロンに『枕草子』を書いた清少納言がいたことでも知られますが、『源氏物語』を書いた紫式部が仕えた藤原道長の娘、彰子とは従姉妹の間柄。一条帝の後宮でのライバルとなった二人は、一条帝をはさんで定子は3歳年上、そして彰子は8歳年下でした。

定子は14歳で入内し、その4年後に父である関白道隆が亡くなります。その後の道隆一門の没落と道長一門の栄華は、歴史の語るところですが、その逆境の中にあって道長の政治の糸に唯一縫いこまれず、一条帝との「深いつながり」という一点で、最後まで道長と対等であった中宮定子。

その定子の姿に『源氏物語』の女性たちが次々と重なるのです。すなわち定子の中
には、桐壺更衣、藤壺の宮、六条御息所、夕顔、朧月夜の君、そして紫の上、明石の姫君さえも存在します。

一人の女性の中に、たくさんの女性がいる。


このイメージが、ココ・シャネルが世に出した「No.5」に込めた女性の多面性へと、私の中で繋がったのでしょう。


『源氏物語』が初めて世に登場したのはちょうど定子が24歳の若さで亡くなった前後なのですが、彼女の忘れ形見の幼い若宮は、光源氏の母が亡くなったときと同じように、彰子のもとで育てられるのです。

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紫式部は、女の要素を細かく取り出し組み合わせて『源氏物語』の女性たちに与えました。そうして別の人物として「さまざまな女」を描きだしましたが、この『なまみこ物語』の著者(円地文子)は、一人の女である定子の中に存在する多様な面を書き切ることで、「現実の女」の生き様を描きました。

著者訳の『源氏物語』の出版はこの14年後のことでした。

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『源氏物語』円地文子訳(新潮文庫)
*昭和48年(1973年)完結


定子の弟である藤原隆家は『なまみこ物語』の中で、

「宮さまは一門の栄花を犠牲にして、唯一人のお方の真心をしっかりお抱きになったのです。」

と言いますが、『源氏物語』に登場する女性の誰一人として、このような至福を得た人はいないのです。




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