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作品集

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ネット物書き・御子柴流歌が書いたモノを集めてみました。
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#スキしてみて

『珈琲は月の下で』【#短編小説】

貴女と飲むのは、これがいい。 「ふぅ……」  ちょうどお客様の流れも途切れた、カフェスタイルのバー。お昼とされる時間はコーヒー系をメインに、夜とされる時間帯はお酒をメインに提供するスタイルのコーナーだ。  カウンターのやや奥まったところで、鋭く、だけど小さく一息つく。傍からは気づかれない程度に背筋を伸ばしてみれば、関節も何度かぱきぱきと一心地つくような音を立てた。  かれこれ一週間もこうしていれば、朝も昼も夜もよくわからなくなってくるものだ。それはこうしてカウンターの内

マーガレットの悪夢【超短篇小噺】

『マーガレットの悪夢』 「好き、嫌い……。好き、嫌い……。好き、嫌い……」 「……」 「好き、嫌い……。好き!! ボクのこと、好きなんでしょ!?」 「……いや。その結果が出るまで花をむしり続けるようなオトナは、ちょっと」 「そんな!」 「っていうか、ふつうマーガレットの花びらって奇数枚なんだけど。そんなに偶数のモノばっかり見つけるっていう、アンタの運の悪さもどうかと」 「それはさすがに理不尽!」 「それはアンタに毟られ続けた花のセリフだわ!」 あとがき  い

青藍スフィア 【#短編小説】(& 100日連続投稿)

『青藍スフィア』  2020年、夏、真っ盛り。  ギラギラと照りつける太陽が肌を焼いていくのがわかる。  マスクの端の方もじっとりと湿ってきていた。  正直言って外してしまいたい気持ちはある。  けれどきっとそれをしてしまうと、目も当てられないような状況が  いつもの夏ならば――。  今頃はグラウンドを走り回る部員たちを眺めながら、仕事に作業に準備にと、何かと忙しかったはずだ。  たまに飛んでくる他の部活の声やボールにも気を付けながら、あいつらのことを目で追い続けてい

Last Letter, Love Letter 【#短篇小説】

"Last Letter, Love Letter" 「それじゃあね」  そう言って彼女は涙も拭かずに背を向け、少しだけ高いヒールを鳴らしながら駆けていった。  果たして、封筒ひとつを手に持ったまま「うん」と頷いた僕は、彼女の視線に収まっていたのだろうか。きっと、ピントも合っていないだろうし、手ぶれだってひどいはずだ。もう彼女の中には、僕を収めておけるくらいの隙間なんてありやしないのだ。  もう一度だけでも話をしよう——。  そんな考えは、結局甘いのかもしれない。  せ

特効薬 〜 好きな人に『好きだ』と言わずに『好きだ』と伝える短篇集〜

『特効薬』  あなたに会うと、どんなにイヤな思いも  消えて無くなると思ってたけど。  たったひとつだけ、  あなたにも治せないモノがあるみたい。    ――切ない気持ちだけは治してくれないのですね。         あとがき 会えば会っただけ、離れたときに切ないモノです。  密を避けなければいけないご時世ですが、がんばりすぎない程度にがんばりましょうね。

裏路地エスケープ 〜超短篇〜

『裏路地エスケープ』  雨上がりの交差点を右に折れると、大通り沿いとはまた違った風景。  ヒトの陰もクルマの通りも、別世界に入ったように居なくなる。  自分の足音だけが僅かに響いている。  見慣れているとはいえ、不思議な光景だった。 「ん?」  建物の影が途切れたところに、何かがある。  動いている。  最初は何かゴミでも捨てられているのかと思ったが、違う。 「猫か」  誰も来ないのをいいことに、往来の真ん真ん中を、ブラウンの猫が塞いでいた。  寝ている

げんきをだして 〜「好きな人に『好きだ』と言わずに『好きだ』と伝える短篇集」〜

『げんきをだして』       なんだか、今日はとくにいそがしそうに出ていった。  お勤めはボクの方が遅いので、たいていは見送る役目。  いってらっしゃいの声は届いただろうか。  せめて、できる限り、今夜はゆっくりできるようにしてあげよう。                    ○      もう真夜中。  1日は短い。  小さな足音。  間違いない。  帰ってきた。  いつもやさしいあなたに、今日はちょっとだけサプライズをあげる。  目の

恋の味 ~超短篇~

『恋の味』  この恋は、たとえて言うなら、ショートケーキの上にあるいちごのようなものだ。  真っ赤に染まったいちごは、見る者をひきつける。  可憐な姿に引き寄せられる。  けど、その実態は――さらにクリームの化粧を施していなければ、その酸味をごまかせない。  蛮勇ながらその実に触れて、痛い目を被ったことなんて数知れず。  だけれど、僕は。  そんないちごに恋をしてしまった。        to be continued...?       あとが

亜麻色アルバ 〜短篇〜

『亜麻色アルバ』 流れるプールで漂っているような、心地のよい揺れが身体を包んでいる。  ゆらゆら、ゆらり。  目を閉じていればそのまま深い眠りに落ちていきそうな、ゆりかごのような安心感だ。  ——いや、今もうすでに目を閉じているのだけれど。 「……ん?」  どうやら、朝、らしい。  窓の外は明るい。明らかに明るい。どう考えても、いつもより明るい。  寝ぼけたアタマに鞭を打つようにして、両の目を擦る。何度か瞬きを繰り返して、ようやく焦点が合ってきた。  なるほど

瑠璃色リップルズ 〜超短篇〜

『瑠璃色リップルズ』  「ソウスケくん」 「ん?」 「この水たまりには、あなたの願望が映し出されるのです」 「……いきなりどうした」  目の前には歩道を埋め尽くすくらいの大きさの水たまりが出来ている。  カスミの唐突かつ突飛な言葉に、ソウスケは呆気に取られる。  この少女は基本的にマジメなタイプだ。  もちろんマジメ一貫ということもなく、軽くふざけあったりはするけれど、こんな風にそこまでどこかに吹っ飛んだようなことを言う娘ではない。  舗装のがたつきが目立つ歩道