涙腺 5 『嘘 言わないでよ 第三部』

【小林 久美子の場合・距離を置くという事】

もしも お互いに まだ気持ちがあるなら １年後の今日 またここで会おう

うる覚えだが クラッシック映画に こんな台詞があった気がする

いくら好きな相手だからと言って １年待つ女なんていないでしょ。それに私のような30女には１年と言う時間は大変に貴重である。20代の時の１年とは大きく違うからね。

7月１日 木曜日　　　　　　　　　　　　　　　　私には３年付き合っている彼がいる

その彼から 突然 「俺たち距離を置かないか？」と切り出された。

お互いドキドキする事もなくなった。その反面    些細な事で喧嘩する日々が増えた。マンネリと言えばマンネリだった。しかし ３年も付き合っているカップルなら それが当然だとも思っていた。

別れる事を選択せずに 距離を置きたいんだ。それって別れる前のワンクッションなの？

「どれくらい期間？」と彼に質問した時 あのクラッシック映画のワンシーンが頭をよぎった

さすがに彼の口から『１年』と言う数字は出てこなかったが

『来週から大阪に出張だから ３ヶ月間 冷静になって お互いの良い所 悪い所を見つめ直したい。そして ３ヶ月後の10月1日 お互いの事を誰よりも大切に思えたなら 将来を見据えて考えよう』

将来を見据えて？ 大人の女にとって３ヶ月は貴重な時間なんだよ。３ヶ月で 彼がいない生活に慣れちゃうかもしれないんだよ。いない事が当たり前と思ってしまったら 3年と3ヶ月の月日が無駄になってしまう。いっそのこと 私は 今 彼と別れるべきなのだろうか？

７月８日 木曜日
距離を置いて １週間が経過した
私の答えは簡単に出た。私は彼のことが大好き 今もこれからも一緒にいたい。

おはようのLINE おやすみのcall
一緒に手料理対決しながら夕飯作ったり
出張で会えない時にはオンラインで 一緒に幻想神域やったり Netflixで同時刻に映画観たり
些細な事だと思っていたけど... 毎日 支えられていたんだな

会いたいな 今すぐにでも                                          それが出来ないなら せめて風に姿を変えて貴方の元へ

約束の日まで あと８４日 遠いなぁ 途方もなく遠い

いっそ 私から連絡してしまうか

７月９日 金曜日
仕事帰りにスーパーに寄った。この時間帯は色々な食品が安くなり始める。

彼と一緒に この時間 よく訪れた。彼は精肉や鮮魚コーナーで値引きを発見すると『宝の山だぜ』と言いながら 狂喜乱舞していたな。

良い物を安く買う。スーパーなら高級肉に分類されるであろう100g 1000円の国産の牛肉で贅沢にお家焼肉をする（しかもどれも割引額）。わたしも美味しい物を食べるのは大好き 『価値観』と『食の趣味』が同じなのは 長く付き合うのに不可欠な要素だよね。

ひとりで込み入った物を作るのもな...  そして 私は割引されたお惣菜を買い物かごに入れた。その時 私の右後ろから 突然 誰かがぶつかってきた。

『すみません』と言ってきた方向をみると

そこには距離を置いていたはずの彼が買い物袋をぶら下げて立っていた。

彼は私の買い物カゴの中を覗き込み

『値引きされたお惣菜 … 質素だね』

だって ひとりで料理するのも味気ないし...

なんで ここにいるの？

『一緒に夕飯食べようと思って 食材買ってきた』と言って 彼は持っていた買い物袋を肩まであげた

彼の買い物袋から 半額シールが貼られた精肉が透き通って見えた

あなただって質素じゃない

『ばーか 俺のは国産牛だよ 国産牛！100グラム約1000円の高級品』

半額のくせに

ねぇ ３ヶ月 10月1日まで距離を空けるんじゃなかったの？

『久美子と会いたくなっちゃってさ。我慢できなくって 大阪から新幹線に乗って 風の速さで来ちゃったよ』

お互いの事を見つめ直したいって あんなに言ってたくせに

ねぇ 嘘 言わないでよ

第三部の『ねぇ 嘘 言わないでよ』は『憎しみ』や『悲しみ』を表現せずに『嬉しい』『楽しい』を表現してみました。やはり活字だと難しいですね。まだまだ勉強しないと！