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エロビデオ屋の独白 #3「女日照り」

「女“ァ”...女“ァ”ァ“ァ”...!!!」

ここ日本の首都東京にて、女騎士に襲い掛かるオークのような呻き声を上げる男がいる。
何を隠そう、こいつが筆者である。


ビデオボックスで勤務し始めの頃、財布の中身も出勤時間もギリギリの平さんからこんな助言を受けた。
「この職場は客の殆どが男だし、そいつらの汚い部分をいっぱい見ることになるから段々男が嫌いになってくるよ。そういう時は風俗に行こう。パチンコとかで金溶かすより全然健全だよ、風俗は。」


入社から約5ヶ月、残暑がコンクリを熱する9月上旬。母親とスーパーの店員を除いて、最後に女性と会話をしてからどれくらい経ったかも忘れた頃に、私はそんな先輩の言葉を思い出した。

当店の客の99割が男だ。且つ、主な客層が冴えないツラした40代から60代だ。流石に気が滅入ってしまう。
気分だけじゃなく視力にも悪影響が及んできた気がする。そろそろ女を視界に入れなければ失明してしまう...


冒頭のオークみたいな唸り声を上げながら部屋の掃除を終えて、フロントに戻ると...

「シリウス!女だよ!女が来たよ!!」

うわっ女騎士に襲い掛かろうとしているオークみたいなのが騒いでる!?

おっとっと、オークかと思ったら平さんだった。

「なんスか…」
「今この部屋に女の子がいるんだよ!」

ほぉ。この店にも女性が来るんだな。男性客99割ってのは訂正しなくてはいけないね。
「それでそれで!今この娘から内線で連絡があって、テレビが映らないって言ってるからシリウスが見てきてくれる?」

え!?いいの!?先輩は粋だねぇ!!!
ということで3階の禁煙ルームにいる女の子に会いに行ってきた。

まぁでも、こんな薄汚い店に来る女の子なんて身なりには無頓着なんだろうなぁ…と思いつつノックをする。

コンコン 
ハーイ
ガチャッ

「失礼します。テレビに不具合があるって聞いたんですけ・・・ど・・・」

いた。天の御使いが、そこにはいた。
あざといくらいの可愛いらしい服とマチカネタンホイザみたいな帽子を被った女の子がそこにはいた。

むん!

ちょっと待ってくれ。こんな娘が至近距離にいるのに設備点検なんてできないよ…

「うーん、ちょっと自分にはわかんないっスねぇ…自分より詳しい人呼びますね」
「あっわかりました」

声可愛よっ!待ってくれ私にその声を聴かせないでくれ。耳が溶けるから!

というわけでここは平さんに丸投げして、フロントでボーっと天使の御姿と御声を反芻する。


「かわいかったでしょ?」

平さんが設備点検を終えて帰ってきた。

「まぁ…えぇ。」

筆者の態度は飄々としているがその口元は緩んでいる。

「あの娘の個人情報がレジに入ってるから見てみよっか」

おい馬鹿!別に悪いことではないんだけど己の欲を満たすためだけに客の個人情報を閲覧するのは変態のすることだぞ!まぁ変態なんだけど!

自制心の足りない変態オークのおかげでその娘の本名が判明。当記事ではマチカネチョコちゃんと渾名しよう。本名も今風の可愛らしい名前だった。


「ただいまー、なんかあった?」

最悪のタイミングで店長が休憩から戻ってきた。平さんが気持ち悪い顔で店長に事情を説明する。

「へぇ…」

うわっ気持ち悪っ!口角を上げるんじゃあない!店長あんた妻子持ちだろ!

ーーーーー

数時間後、チョコちゃんが部屋から出てきた。
店長は彼女の部屋を掃除しに行った。変態がよ。

平さんは彼女の退店処理をして、私はフロント付近の掃除をする振りをしながら彼女のご尊顔を拝むことにした。

「お時間結構でございます」
ジー
「はいお世話になりました~」
 ジー
   ピンポーンガラガラ
    ジー


あぁああああああああご尊顔拝めなかったぁあああ!!!

筆者は人と目線を合わせられない。女性相手ならば猶更だ。
これは学校の先生や先輩から長年指摘されてきたことで、何度も改善しようとしてきたが結局治らなかった。
最近になって、持病だと思って生涯付き合っていくかと諦めがついたのだが…やっぱこの病気治した方がいいのかなぁ?


「ただいまー」

店長がチョコちゃんの使った部屋を掃除して帰ってきた。

「あの部屋禁煙室なんだけど煙草の吸い殻が捨ててあったわ」

ほう???あんなかわいい顔して喫煙者かぁ???
それはそれで推せる!

「あのぉこの部屋禁煙室なんですけど、煙草吸いましたぁ?wいやまぁ別にいいんですけどぉw許してほしかったら…わかりますよね?w」

店長が万引き少女を辱めるAVの真似をし始めた。うぜぇ…

「まぁ女の子だから許すけどね、男だったら出禁にするけど。」

さいですか。


ーーーーー
「お疲れ様でした」

今日の業務は終了、ヤニの匂いを纏わせて帰宅する。

なんだか今夜の帰路はいつも以上に虚しい。

結局あの後は特筆する出来事もなく、陰気な野郎たちの接客と掃除をこなして一日が過ぎて行った。おそらく明日も明後日も同じことの繰り返し。
そして心の空白は広がっていくのだろう。

はぁ、私とすれ違い以上友達未満くらいの関係になってくれる女性はいないかなぁ、と職場の最寄り駅にたどり着く。

「オニイサン、ウチデチョットノマナイ?サンジュップンダケデモドウ?」

畜生!!!俺に積極的に近づいてくるのは水商売の女だけかよ!!!

女日照り まだまだ続きそうです。




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