呟く女

2年ほど前の話だ。

その日俺は地元の先輩とドライブに行った。特に目的地があったワケじゃないんだが、お互いオカルト好きで気もあったので暇つぶしに出かけようという話になったのだ。先輩の車で近くにある山を走りながら取り留めのない話をする。

「そういえば先輩、彼女できたんすか?この前の水曜日女の子乗せてドライブしてるの、俺の同僚が見たって言ってましたよ」

「ああ、彼女じゃないし誰も乗せてないよ。その日仕事だし。なんかこの車、女が憑いてるって言われたんだよな。俺には見えないし実害もないからそのままにしてる」

先輩はきっと何人にも聞かれてうんざりしていたのか、吐き捨てるようにそう言った。

「えー、綺麗な人なら俺に憑いてくれればめっちゃ嬉しいですよ!」

俺は軽口で先輩に応えた。それからはオカルト好き同士らしくどんな幽霊だったら自分に取り憑いても嬉しいか?などと馬鹿な話で盛り上がり、その日は解散した。


帰宅して、風呂に入ったりしてるうちにそんな話も忘れ、翌日の仕事に備えて眠ることにしたんだ。

部屋の電気を消して目を閉じる。そうするとまぶたの裏にそれまで見ていた残像が残ることがあるだろ?そんなに眠くもなかった俺は、何気なくその残像を見ながら棚には何があったかを思い出していたんだ。1段目にはCDがある、2段目にはCDとDVD、3段目は……

そんなことを考えてたとき、まぶたの裏に映る自分の部屋の扉がゆっくりと開いたんだ。え?と思った時、俺は金縛りにあっていることに気付いた。身体がピクリとも動かないし、目を開くことも出来ない。パニックになっていると、開いたドアからゆっくりと女が入ってきた。

俯いた顔は垂れ下がった長い髪で見えない。白いワンピース。みんなが想像するであろう女の幽霊そのままの姿。

その女は足を動かしたりしていないのにスーッと俺の足元へ、そこから俺の寝てる真横へと移動してきた。女がベッドに手を付き、横になってる俺の耳元にぐーっと口を寄せてくる。それまでは俺はオカルト好きなせいで怖い妄想を見ているだけなのでは?と思っていたが、女が手を付いたベッドが沈み込む感覚がして、いま現実にこの女がいると恐怖する。女は俺の耳元でボソボソと何かを呟いている。低く、唸るような声で何を言ってるかは聞き取れない。

その時付き合っていた霊感がある彼女に前に金縛りの解き方を教えてもらっていたことを思い出す。大声を出す時みたいに、へそに力を入れる。ぐ、ぅ、と声が漏れる。

そのせいで女は俺が起きていることに気付いてしまったようだ。ボソボソとした呟きが少しはっきりと、大きくなる。やめてくれ、このままではなにを言っているか分かってしまう。そう思った俺は、身体に思いっきり力を入れた。

うわぁああ!と叫ぶと同時に、手足が動く。目を開くと女はもういなかった。でも、叫ぶ直前、何を言ってるか聞こえてしまったんだ。

「私、綺麗ですか」と。



オカラジ、ケースケさんの弱怪談を強くするやつ、自分ならどうするか考えて書いてみました。洒落怖投稿っぽい雰囲気にしたかったのですがどうでしょうか?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?