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『あの夏』5ストーリーズ

某企画へのネタ投稿をメモ

・この曲にぴったりなショートストーリーへの応募
・ライブ配信中に曲に合わせて朗読してくださいます
・登場人物のネーミングは募集主の関連より考案しました

1.リン篇

「もう夏休みも終わるなぁ」

夏期講習を済ませたリンが、ふと外を見ると、陸上部の練習風景が見えた。

「あ、サトシくんってマスク外すとあんな顔なんだ」

入学式からずっとマスクの学校生活、友達の顔は正直あまりわからない。ニカッと笑ったサトシの大きな口と白い歯はリンの目に新鮮に焼き付いた。

「最後の大会が終わったら、もうあの笑顔見られないのかな」

ぼんやり考えていると、友達のミサキがサトシに駆け寄るのが見えた。
一緒に帰る二人を見て、あぁ、そうなんだ、と思う。リンの淡い恋は刹那に終わった。

読みかけた本をそっと閉じるような思い出も、青春の1ページに焼き付けるには充分すぎて、そしてまた次のページが開かれる。

「ねぇ、リン、帰りにどこか寄らない?何でもおごるからさ」

声の方へ振り向くと、隣の席のタカが分厚い財布をフリフリしていた。
どうしてもピアノが弾きたいからって、担任との面談をすっぽかして怒られたくせに、余裕の表情だ。

こ、これは、、

けんばんむちゅー(鍵盤夢中)が
めんだんするー(面談スルー)で
おおばんぶるーまい(大盤振る舞い)
やないかーい!!

今、二人の恋が始まる。

2.サトシ編

散歩に出かけたサトシの鼻先をキンモクセイの香りがくすぐる。すっかり秋だ。

半年続いた会社になんとか慣れて、少し心の余裕が出てきた。そろそろ彼女ができると嬉しい。

色づくイチョウ並木に差し掛かると、休日を楽しむ人たちで賑わっていた。女子とすれ違いざま、懐かしい気がして振り返ると、向こうもこちらを見ていた。

「リン…だよね? 久しぶりだなぁ!」
同級生のリンに会うのは中学校の卒業式以来だ。ずいぶん大人っぽくなっていてドキッとした。再会パターン、ありかもな。

とりとめのない話をしていると、ふいに「そういえばミサキ元気?付き合ってたよね?」と聞かれた。

「付き合ってなんかないよ。俺にはずっと好きな子がいたんだから。」
なんと、好きな子に勘違いされていたようだ。動揺して車道の方へふらふらふら…

(kick)
突然前から 原チャリぶる〜ん
当然よろけて ギンナンぐにゅ〜

辺り漂う 果肉の香り
あの子呆れて「さよなら帰る」

寄せては返す テンダン ブルーの
波に揉まれて ぐるぐる回転

わかりきってた 展開だな
ワナひそんでた 玄界灘
ぃぇ〜

二人の恋は始ま、、らない。

3.アナザーストーリー タカ篇

あの夏の日
落雷に驚いて一瞬しがみついたあなたの体温を
忘れることができない

今はどんな街で暮らしているのだろう
大切な人はいますか

突然降り出した夕立と
遠ざかっていく雷鳴が
叶わなかった恋を思い出させる

きっと、あなたは気づいていたでしょう
タカ先生のことが好きでした

※鍵盤に夢中だったタカは、その後音楽教師となり、ピアノの腕前で女子生徒たちをメロメロにしていた。
しかし突然学校を去り、その後の消息は誰も知らない。海外でピアニストとして成功しているとの噂も….。

4.ミサキ篇っ

「帰りに買い物に付き合ってよ」ミサキが幼なじみのサトシに声をかけると、
「行ってもいいよ」といつもの返事。

学校を出ると真っ青な空が眩しい。おひさまがカーッと暑いのに、人々の顔にはやっぱりマスク。もう慣れっこでまったく気にならない。

大人は「コロナ禍の学生は不自由でかわいそう」って言うけれど、マスクやリモート授業はすっかり学校生活の一部だし、うちらはこっち側の世界で、大人が思うよりもずっと楽しくやってると思う。

いつかもっと自由になれる時が来たら、しっかり世界をアップデートすればいいもんね。花火とお菓子ををがっつり買って、今夜は友達とエモい思い出いっぱい作るんだ。

「サトシも一緒に来る?」と聞いたら
「行ってもいいよ」とニヤッと笑った。

5.卒業篇

暖かな日差しに包まれる3月、今日はリンたちの中学校の卒業式だ。

流行病は終息に向かい、今日はマスクを外すことが許された。
「中学最後の日にやっとみんなの顔が見られるなんてね」

サトシは陸上部の強豪校へ。インターハイ出場が夢だ。
ミサキはとりあえず隣町の進学校へ進むことにした。
タカは音楽家を目指して音楽高校でピアノを続ける。
そしてリンは地元の女子校を選んだ。
「だってあの高校の制服、かわいいんだもん」

15歳の春、4人は青い空に誓う。いつか大きく羽ばたくと。
悩みながらも輝いていたあの夏が、きっと背中を押してくれるはずだ。

完。


1  ライム
2  キック
3  ポエム
4  促音散りばめ
5  このあと歌のおにいさん口調のセリフあり (割愛)