飛車落ちと角落ちの差についての考察

将棋の手合(ハンデキャップ)である、角落ちと飛車落ちの妥当な棋力差について考察したいと思います。

一般には上位者との棋力差が3段で角落ち、4段で飛車落ちのハンデが良いとされています。つまり、この2つのハンデの差は1段程度として運用されてきました。ところが将棋AI(水匠2)に10億局面程度読ませた角落ちの初期配置の評価値は下手側に+857となり、一方で飛車落ちでは+923となりました。
一見するとほとんど差が無いように見えますが、果たして本当にそうなでしょうか。

私は、定跡を利用するなど事前研究がある場合、飛車落ちのほうが角落ちに比べて勝ちやすいと考えています。そのことについて理由を説明したいと思います。

飛車落ちでは角交換すると下手の評価値が大きく上積みされます。角交換によって、盤上の駒が少ない上手陣には隙きが生じやすく、駒組みの制限が大きくなるためです。

そのため、飛車落ちでは初手から、
△34歩 ▲76歩 △44歩
と進みます。

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上手は角交換を避けて△44歩と角道を止めるのが基本戦略になりますが、44の地点が争点となりやすく、下手の仕掛けを許してしまいます。これは矢倉に対する左美濃急戦や、雁木に対する腰掛銀での仕掛けと同じ考え方です。必ずしも上手陣を一辺に潰せるわけではありませんが、仕掛けの過程で角交換に成功すれば大きく評価値を上積みすることができます。また、上手が角交換に拒否して進めた場合は、盤上を制圧し評価値を稼ぐことができます。

このように飛車落ちの場合、
・角交換を狙う
・44の地点を争点に戦う
と明確な狙いを持って序盤戦略を立てることで評価値を稼ぎ、下手の利を拡大することができます。この戦略で仕掛けることで、私の経験では評価値は1000~1500程度までになります。

一方で、角落ちの場合は上手陣には明確な弱点はなく、特定の序盤戦略のみで評価値を大きく上積みすることは難しいです。上手は駒組みの制限が小さいためより多くの手段があり、下手は上手の出方に応じた柔軟な戦い方が必要になります。角落ちは、上手にも下手にも構想力が必要な、より上級者の戦い方が求められる手合だと思います。

したがって、飛車落ちの上手陣の弱点を突く戦い方を準備がしやすいため、準備があれば飛車落ちのほうが簡単であると考えます。しかし、下手に定跡などの準備がなかったり、上手が大駒を十分に活かすことのできる棋力がなければ、飛車落ちも角落ちもほとんど変わらない手合になると思います。

私の経験では、アマチュア有段者が上手を持ってこの手合の差を活かせるかは難しいと思います。しかし、プロに駒落ちで習うときは飛車落ちと角落ちの間には差があるのではないかと思っています

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