(エッセイ)フォワードの日
母の日や父の日のように、フォワードに日頃の感謝を伝える日があってもいいと思う。
感謝をする側はもちろんバックスだ。
フォワードの労働組合がないのでまだ助かっているが、あればすぐにストライキが起きるかもしれない。フォワードの仕事は労働基準法に違反している。それほど過酷なものなのだ。
ひたすらブレイクダウンという仕事場を行き来し、ひたすらクリーンアウトと呼ばれる清掃作業をする。どんな細面の少年であっても、1年もすればウェールズの炭鉱夫のような顔つきになる(賃金をもらえるだけ炭鉱夫のほうが恵まれている)。クラスに炭鉱夫のような同級生がいたらあなたはどう思うだろうか。
僕はおもにスタンドオフでプレーしていたが、高校2年時に1年間だけフランカーを経験した。僕はすぐに「最低でも時給3000円は欲しい」と監督に訴えたくなった。それほど過酷だった。その希望が叶わないと分かると、僕は考えることを止め、タックルをする機械になることを心掛けた。「ブレイク」の声を聞いたら人間を辞めて、タックルをする機械になる。そのおかげで、フランカー時代の思い出は、男鹿工業戦で右半月板を損傷したこと、その時監督が「入部以来初めてすこし優しかった」ということだけだ。
フォワードの仕事がどれだけ大変か。一度フロムエーにフランカーの求人でも出してみればいいのである。
【職種】 突進してくる相手の侵入防止や、
球を奪おうとする相手の清掃のお仕事です。
【対象】 やる気のある方大歓迎!
痛覚のない方大歓迎!
【勤務地】ブレイクダウン等
【休日】 週1日
【待遇】 ジャージ支給
※食費・交通費・医療費は自己負担
【給与】 0円(プロは応相談)
応募してくる者はほとんどいないはずだ。滝行をしたがるタイプが応募してくるかもしれないが、そんな彼もフロントローの仕事はどうだろうか、きっと躊躇するはずである。フォワードが違法な労働環境で酷使されていることは明らかだ。
しかし若者の中には、仲間や勝利のためとあらばつらい仕事も厭わない、という立派な若人がおり、それがいまチームでプレーしているフォワードなのだ、と僕は言いたいのである。中には「好きでフォワードやってるワケじゃない」と答える者もいるだろう。しかし好きじゃないのにやっているとしたらもっと立派であり、もっと称えられるべきである。
スクラムやラインアウトはフォワードから始まる。ブレイクダウンで決定的な仕事をするのも、ほとんどがフォワードだ。バックスだけではロクに球も出せはしない。それでいて、ライトな女性ファンにモテるのは大抵バックスであり、バックスがカノジョといちゃいちゃしている時、フォワードはプロップの乳を揉んで凌いでいるのである。
やがてプロップの乳に飽きてくると、フォワードはラグビーと恋愛をするようになる。そしてついにはラグビーと結婚、永遠の愛を誓うようになる。熱烈なラグビーファン、団体関係者にフォワード出身が多いのはこの辺りに理由がある。
かくも虐げられているフォワードを、バックス陣、首脳陣でねぎらう――-1年に1度、そんな日があっても罪にはならないはずだ。そんな日に、バックス全員でお金を出し合い、メッセージカード付きのプレゼント(新品のヘッドキャップ等)を用意する。そして練習後、面と向かって、フォワードにお礼を伝えるのだ。
「いつもありがとう」
「いつもボールを出してくれて、ありがとう」
「ミスのたびにスクラム組ませてごめんな」
フォワードの中には涙ぐむ者もいるだろう。グラウンドに感動の輪が広がる。夕陽の中でカラスが鳴いたりする。最高の光景だ。バックスは日ごろの邪険な態度を反省する。フォワードは内心バックスのことを「半人前のラガーマン」だと思っているフシがあり、彼らもそれを反省する。チームがひとつに、なる。
フォワードの日は、ゴー(5)フォワード(4)で、5月4日でどうだろうか。
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