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タンザナイトとダイヤモンド


わたしを突き刺すタンザナイトのピアスが
服に引っかかったり外れかかったりする。

こんなこと何年もつけてて初めてで
そろそろ彼の愛から解放されて
ピアスが外せる日が来るのかもしれない。
そんな風に思っていた。

モノに依存してすがりついているけど
なんだかちょっとわくわくもしたの。
不思議ね。

そして、数日後
とうとう着替えていて
タンザナイトのピアスが外れた。

いよいよ、もう離れるべきなのかな。
なんて、思ったのに

結局、心臓がどくどく不安がって
地べたを這いつくばって
歯を食いしばりながら探した。

怖かったの。
例えようのない恐怖が
胸を締め付けてきたの。

見つけて安心して数分動けなかったけど
何やってるんだろう。と思った。

なんて、わたしは滑稽なんだろう。

彼は、わたしを支配してどうしたいのだろうか。
会えるわけでも
そばにいてくれるわけでもないのに。


わたしには、今、好きな人がいる。

とても、とても宝石みたいにキラキラして
わたしの憧れの人。
いつも笑顔をくれる。
いつも楽しさをくれる。
いつも好きの気持ちでいっぱいにしてくれる。

こんな、甘酸っぱい恋愛は初めてで
毎日あなたのおかげで頑張ろう。って思えるの。

でも、わたしの好きな人は
絶対にわたしのものにはならない。

それでもわたしはそばにいたくて、
そんなあなたも
わたしをとてもとても大切にしてくれている。

あなたを守りたいのに
わたしは彼の呪縛から離れられず
あなたを傷付ける。

ただ、
あなたの立場を利用して
あなたの優しさに甘えて
ふらふらと彼に気持ちを渡してしまい
その度にあなたから逃げて
自分の殻にこもって
あなたをズタズタに傷付けてしまう。

それが、いつも苦しい。

その時は、彼の言葉や文字に歓喜して涙して
幸せな世界に浸るけど

心の隅っこで
わたしを大切にしてくれるあなたを
また裏切ってしまったことに苦しくなる。

それでもなお、好きでいてくれることが
不思議で仕方ない。

彼を愛していた。
彼の文字が言葉がわたしを離さない。

でもあなたが大好き。大好きなの。

あなたに呆れられて嫌われてしまったら
そんな恐怖に震え始める。

堂々巡りの感情が
ぐちゃぐちゃな感情が
どう解決していいのかわからない悩みとなって
胸を締め付ける。

本当は、
“俺だけを見て”
“彼と連絡を取るな”
“俺だけのものだ”

そんな風に、力強く目を見て
言葉で態度で示してもらえたら...。

そしたらわたしは踏ん切りをつけて
あなたの元へ走り出すのに。

あなたにスマホを渡して
彼の連絡先をブロックしてもらうのに。

そんなこと、あなたには
絶対に求めてはいけないのに。絶対に。

わかってる。
頭では理解してる。
ちゃんと制御をかける。

本当は、
あなただけのものになりたい。
あなただけを見ていたい。
わたしだけのものにしたい。

そんな願いを飲み込むしかない。

この願いを求めてはいけないとわかっているから
わたしはまた、彼に逃げるしかないのだろうか。



でも、誕生日に彼に逃げたとき
これでは本当にいけないと思った。

あなたの声が文字が本当に悲しくて冷たくて
あなたを抱きしめたい。と思ったから。
ここまで想ってくれるあなたを
愛おしいと思ったから。

あなたをこの世で1番傷つけたくない

そんな風に思ったから。

あなたに気持ちを預けてみたくなった。


彼からもらった
彼の愛の呪いのかかった
彼の誕生石のピアスを
数年ぶりに、初めて外した。


手が震えた。
鏡の前のわたしは
驚くほど強張った顔をしていた。

彼から離れたかった。
彼から卒業したかった。
彼への想いを風化したかった。

震える手でピアスに手をかける。
唇を噛み締めて
脈打つ心臓の音を聞かないふりをして

スッと

外す。

ため息と共に一筋の涙が流れた。

あぁ、なんだ。
わたしは儚く消えることなんかなかったね。

そして
わたしのあなたの誕生石のピアスをさす。

チクッ。

ピアスの穴が拒否をするかのように
鈍い痛みが走った。

純度の高い1番の輝きの宝石は
わたしの感情や表情なんて無視して
ただひたすらにキラキラと輝いていた。

面白いくらい、おかしいくらい
キラキラ光に反射して輝いていた。

わたしのことを嘲笑うかのように
わたしにはもったいないわ。
そんな風に言われてる気にもなった。


でも、
ふわっとあなたと同じ香りを身につけていたから
途端にあなたの木漏れ日のような
温かさを感じて涙が溢れた。

そっと胸にあなたを思い浮かべて
わたしは少しだけ涙を流しながら微笑めた。

それはきっと、あなたが暖かい人だから。
あなたの優しさに包まれたの。

それでも、また、突然
心臓がドクドクと脈を打ち始め
彼を失う恐怖に脅え始める。

ピアスを捨てさせる恐怖を与えさせ、
また、タンザナイトのピアスに手を伸ばす。


離れた距離にいる彼と
わたしのものにはならないあなた。


わたしはどうしたらいいのか、分からなくなる。

彼への想いを断ち切れず
あなたが大好きだと告げる。

いつになったら、わたしは成長できるのか。
いつになったら、ただひとりだけを
愛することができるのだろうか。


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