見出し画像

はじまり-Rucca-

風が吹いた。

風は住宅の間の道をぬって、坂を少し上がった先にある白い外壁のアパートへと向かった。

築20年のアパートの門の脇に立つ、二階の高さまである庭木の枝がその風に触れてサワサワと音を立てる。

枝の隙間を抜け、開け放した窓から入り込んだ風がカーテンをふんわりと持ち上げ、部屋の中へ吹き込んだ。

窓際の机の上に重なっていた紙がふいに飛びそうになったのを左手で抑えながら、彼女は右手に持っていたペンをくるりと回した。

入ってきた風に頬を撫でられて、眩しそうに目を細めて窓の外へ視線を向けた彼女の名前は『ルッカ』。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?