見出し画像

君たちはどう生きるか(映画)

私は50代後半なので、宮崎駿・高畑勲の両氏の作品には、アルプスの少女ハイジの頃から触れています。まだあまりアニメを見せてもらえなかった頃、NHKで放映しているというので見せてもらえた未来少年コナンは毎週楽しみに見ていました。高校生の頃、同じ下宿の先輩がないしょで内職をしていたのがセル画を塗る仕事でした。まだ映画になる前のナウシカをその頃知ったと思います。

初めて映画館で観たジブリ作品は、となりのトトロと蛍の墓の2本立てでした。自分は田舎で育ち、河童などの雰囲気を感じる場所が好きなので、トトロという作品ができて嬉しい気持ちになったものです。中年になっても、眠れない夜には、トトロのビデオを流しっぱなしにしていると、そのうち眠気がやってきて、よくそうしていたものでした。

私はさすがに全ジブリ作品を映画館で見たわけでも、その後、レンタルなどで見たわけでもありませんが、ポニョやかぐや姫の物語は映画感で見ました。高畑監督の遺作となったかぐや姫の物語を映画館で見ることができ、見ておいてよかったという気持ちです。

さて、ようやく「君たちはどう生きるか」です。

細かいところはともかく、一番印象に残ったのは、宮崎監督のマザコンぶりでしょうか。火を操って、主人公を助ける「ヒミ」は、おそらく宮崎監督の心に残る母への憧憬を反映したキャラクターでしょう。その持つ力や、若い美しい強さ、そして、映画の中での火事で亡くなった母の姿を変えた存在であると同時に、どこか恋人的な存在でもあるという描かれ方は、まさしく、マザーコンプレックスの反映であると思います。そうを感じるのは、むしろ私自身がマザコンであるせいでしょうか。

ストーリー全体は、あらかじめ幾人かからのレビューを読んだり、聞いたりして危惧していたのとは違い、眠くなることも、混乱することもなく、楽しむことができました。それは私がポニョという作品を好きだからかもしれません。この作品のように、夢の中のできごとをそのまま映像化したような印象の強い作品が、私は割と好きです。

この作品は、ポニョに似た要素をふんだんに含みつつ、もののけ姫や魔女の宅急便、トトロ、未来少年コナンなどを思わせる場面や登場人物も出てきて、まさに宮崎監督が「俺はこうやって生きてきたのだ」と伝えようとしているようにも感じられます。小説を書いたり、論文を書いたりするのではなく、映像作品によって自らの思想を表現することを選び、試行錯誤しながら、このような作品たちを残してきたのだという、メッセージが込められているのだろうと私は受け取りました。

私も還暦近い年齢になり、一生を振り返ってみると、客観的には何一つ残してはいないという自覚はあります。けれど、生きる中で一つのテーマは持ち続けてきました。それは、小さな生き物たちが暮らしていくことのできる環境を守り、復元していきたいという願いです。そして、人が、そのような世界で、つつましく生きていけるようにしたいという願いです。現実的には、経済活動の前にいっそう悪化していく様子をずっと見て来たわけですが、成果が出る出ないにかかわらず、このテーマをもって生きてきたことで、「君たちはどう生きるか」という問いに答えることはできていると、私自身は考えています。

この作品を宮崎監督の遺言であると表現している方がありました。だから私も映画館で観たわけですが、「ヒミ」が登場したときに感じた、「彼女は他の登場人物とは違う重要性をもっているな」と直感できたことだけでも見る価値はあったかなと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?