『盗作』レビュー

音楽に疎い、文学に疎い、芸術に疎い。

そんな私はこのアルバムを聴いて、「なんて美しく、残酷なのだろう。」と思った。

色で言うなら透明な黒だ。水に絵の具を垂らした時のような、煙のように畝る黒。でも真っ黒じゃない。元は透明で、所々薄い部分が意地でも残ってやると言わんばかりに見え隠れするような、そんな黒だ。

「音楽泥棒の自白」から始まり、「花に亡霊」で終わる。曲順的にいえば絵の具を垂らしてしばらく経った完全な黒からだんだんと時間が巻き戻っていくようなものだろうか。

この曲順が音楽泥棒の男の心が晴れる様を表しているのを知っても、私は未だに、時系列が逆なのではないかと疑ってしまう。インスト曲の曲名でもそう感じたし、それぞれの歌詞からも、そんな気がしてならない。

ふと私は思った。「男は心が晴れるにつれ、純粋だった幼少期の頃を思い出して曲を書いているのではないか」と。そしてこうも思った。「大体、この曲が音楽泥棒本人がつくった曲だなんて、誰か言っただろうか」

私は芸術に疎い。
音楽泥棒の男が、ヨルシカが、そして他のアーティストが、どんなに盗作をしようとも私は気づかないだろう。

私が気づいたオマージュ(或いは盗作)は、グリーグの「朝」だけだ。
他は全て、ネットで見て知った。ネットに書き込まれていても未だに分からないものもある。

だが正直、どうでもよかった。

「ヨルシカが作ったヨルシカの曲だ」と明言されているこのアルバムの曲を、綺麗だと感じた。時に激しく、時に優しく、いつでも私の心に響いてくる音楽を私自身は「綺麗だ」と感じた。

私はこの音楽が好き。
私がこの音楽を好き。

私にはそれだけで十分だった。

「憂一乗」「パレード」「ノーチラス」
私はいわゆる「綺麗な曲」が好きだ。(もちろんロック調のものも大好きだが)

だから「夜行」「花に亡霊」が配信された時は、
「あ、ヨルシカらしいキレイな曲だ」と思った。
今回のアルバムにも綺麗な曲が入っていて嬉しいと思った。

しかしどうだろう。
「春ひさぎ」を聴いた瞬間、私は衝撃を受けた。私の知っているヨルシカじゃない。私の望んでいるヨルシカの曲じゃないとさえ思った。

正直なところ、私は最初「春ひさぎ」という曲が好きではなかった。ヨルシカの曲として受け入れない自分がいたのだ。

今となると、なんと馬鹿な考えだったのだろうと思う。
私はヨルシカの曲としてそれらの曲を聴いていた。言い方を変えれば、ヨルシカの曲「だから」聴いていたのだ。

n-bunaさんの仰っていた通り、私の中に描かれていた「ヨルシカ」は今作で壊された。
今まで透明だと思い込んでいたものが黒く塗りつぶされた。

結局その黒は、私を引き込むブラックホールだった。今までの透明が私を呑んだのと同じように。

やっぱりヨルシカが好きだ。「ヨルシカだから」じゃない。ヨルシカの生み出す芸術を私の中で消化することが好きだと、今作を通じて改めて感じた。

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