コブラ会S5(完結編?)で読み解く米国政治
TVシリーズの「コブラ会」シーズン5を一気見した。
いわずと知れた、1980年代の青春スポーツ映画の邦題「ベスト・キッド」の30年後の後日談。
前回までのリリースが正月頃だったので年末年始あたりかと楽しみにしてたが9月に出てきた。もしかして、11月の米国中間選挙前のリリースを狙ったか?
と深読みしてもしょうがない、基本、高校を舞台にした、空手道場での争いでドラマが展開するスポーツ物コメディだが、以前書いたように(以下リンク)、勧善懲悪、いじめられっ子マイノリティがいじめっ子多数派をやっつけるドラマが30年で180度転換されて、没落した多数派の人生の再生劇だったり、新たな対立軸での分断化された社会のいがみ合いからの殴り合いを通じた和解へのヒントを示唆してくれるドラマ(大げさ)と読めなくはないとまだ思っており、なので、けっこうまた楽しめた。
さすが、レベルの高いエンタメ業界のアメリカ、金をかけて、30年前に登場していた同じ役者をうまく登場させてきていて、前シーズンから、カラテキッドIIの悪役の沖縄の戸口長善、同IIIのシルバーせんせいが重要な役ででてくる。
日系アメリカ人役者による憎まれ役の沖縄空手の達人の長善は、今や、自分の過去を悔改め、主人公のダニエルさんの味方に。
そもそも、30年前にダニエルをいじめてダニエルに敗れたコブラ会の本当の主人公のジョニーは、コブラ会を追放されて、ダニエルといがみ合いながらもみやぎ道側につく。ジョニーを追い出した、30年前の悪玉の親分のクリースも前シーズンでコブラ会を追い出されてる。
このドラマ、対立構造をつけて面白くするのがうまい。大人も、高校生も、ペアのようにいがみ合って対立するのが描かれて、それが殴り合いになり、シーズン終わる頃にはなんらかの和解へと展開させている。エクアドル人のミゲルとジョニーの息子ロビーとか、その彼女のサマンサとトリーとか、いろいろペアがある。
まあ、青春ドラマとして楽しめばいいんですが、敢えて米国政治になぞらせてみると以下こんな感じか。
うだつのあがらぬ白人の主人公ジョニーは、トランプ支持層の暗喩か。車販売で実業家として成功したかつてのいじめられっ子のイタリア系移民のダニエルそしてその妻はリベラル側の民主党。コブラ会という道場は、共和党。というのが前シーズンまでの我が見立て。
シーズン5で、おいおい、そう来たか、それちょっとなあと思ったのは、「日本と韓国」という対立構造を持ち込んできたこと。結局それは、攻撃重視のコブラ会のシルバーの学んだ空手としての韓国の道場、ダニエルが尊敬してやまない故ミスターみやぎという背景的な対立構造にとどまって、日韓というこれまた歴史的に複雑な分断?を掘り下げなかったのでほっとしたが、そういえばダニエルさん、30年前も日章旗っぽいはちまきだったりと、意味なく攻撃されうるネタあり要注意ではあったが。
ある意味、プロレスの試合みたいで、対立構造があって、そのわだかまりからの闘争心を、素手での殴り合いということで、最後には握手して解消、というのが、青春ドラマ的なので、娯楽物として日頃の政治的なわだかまりをあくまでもフィクションとして描いてつかの間の救いを提示するというのはありかな。芸術ってそんな役割もあると思う(いっそ、欧州の戦乱も、空手ドラマとして対立させて和解させるフィクションでもつくれば、ちょっとは人々の心の救いになるかな)。
おそらく完結シーズンであるシーズン5で、なかなかやるな、と思ったのは最終エピソード。
のっけから、初老の今は刑務所にいる悪役クリースを、あのシナトラのマイ・ウェイの曲とともに登場させている。
それって、トランプ就任式で、最初にトランプ夫妻がダンスしていた曲。多くのトランプ支持者が、Yes I did my way~♪と聞いてあの男は自分で自分のビジネスで成功してしまいには大統領にまでなった俺たちのヒーロー、おかしくなった米国政治の不正をただしてくれる期待の奴だと拍手し称賛していたとき流れたあの曲。
30年前は憎々しい悪役でしかなかったクリースは、いまや70代で自分の過去の後悔も認め、次世代の子供を育てたいというようなところをみせ、ちょっと人間的に茶目っ気もある爺さんとして描かれている。なかなかしたたかでずるいところもある。あれ、これってトランプ像なのかな?と思った。
となると、新オーナーシルバーの資金力をバックに、戦闘的になったコブラ会は、前回までの想像どおり共和党ということでいいのかな。シルバーは、実家が裕福というのと、なにやら事業で大成功して、ポニーテイルに菜食主義者というちょっとシリコンバレー成功者みたいな風貌。クリントン政権以降、労働者の党というより、ウォール街やIT業界に近づいていったという民主党の暗喩でもあるのか?金で動く既存政党の批判?
おいおいおいと思ったのは、そのシルバーが助っ人として連れてきたのが、韓国の攻撃的な空手の達人とその他の強そうなセンセイ達。それに対して、かつての悪役長善は、ミスターみやぎを彷彿させる、愛すべきほのぼの日系人キャラで描かれる。これ、アメリカで日本人の好感度急上昇という感じ。
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まあ、たかが青春ドラマでおおげさだが、コブラ会シーズン5の結末を見て、アメリカのラストベルトの反グローバル主義の中産階級は自分たちの国の分断と和解への模索をどう思うのだろうか。暇な時に、Webで英語で誰か書いてないか探してみよう。
さて中間選挙、また、共和党でしたたかなクリース爺さんみたいなトランプ旋風が起こるのか?、よりダニエル側へと和解していったジョニーのほうに親近感を持ってハリウッドも基本大好きなリベラル派への票へと動くのか?
いろいろ考えさせてくれる、コブラ会シーズン5でした。■