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TV series "The Sinner -記憶を埋める女" Season 1 感想 心温かく裏切られた期待

クライム・ドラマ、犯罪ドラマが好物です。

猟奇的な連続殺人を、癖のある刑事がしつこく謎解きしていくとか、そこにちょっとオカルトちっくな背景があったりとか(亡霊とかでてきてもよし)、おどろおどろしい呪われた一族の秘密とかが暴かれるとかが、昔から好きなんです。八つ墓村とか、羊たちの沈黙とか、セブンとか。

おそらくNetflixのAIが、僕が最近もそういうのばっかり見てたら、こいつの好みはこういうのかとおすすめしてきたと見たのが、この「The Sinner」。

見たことある俳優は出てないし、ぱっと見、よくある、アメリカの田舎の猟奇的殺人事件物かとMy Listにいれてはおいたがほっておいた。

Noteの中でぐぐってみても2つほど感想がでていたが、あまり強烈に勧めるものでもないようだったが、なんとなしに1話をみてみたら、なかなかいけそうだったのでほぼ一気にシーズン1を見てしまった。そして、みごとに期待を裏切られた。いい意味で、なんとも、心温まる感じで裏切られた。

1話の30分目あたりで、ごく普通のアメリカの田舎の主婦が衝動的に前にいた医者の卵の男性を果物ナイフでメッタ刺しにして殺害する。

ドラマは、ぐいぐい引き込まれるというよりも、まず動機がわからない謎の事件ということで、なんだこれ?という感じのなか、話がゆっくりゆっくりと進む。

刑事もぱっとしない白髪の髭の親父で、60近いが奥さんともうまくいってなくて、なんだかSMのMの性向だという描写がでてくる。うだつがあがらない上に変態の刑事。でもちょっと優しそうで(しかし、西洋のドラマでヒゲの親父はキリストの隠喩なのか、しばしば、迷える魂を優しく救済してくれる役回りだったりするな)、犯人の女性が有罪でいいと投げやりなところを、真実が知りたいんだと警官としては型破りに(よくある設定)、どちらかというと犯人に寄り添って、執拗に調査を進める。

だんだん、犯人の女性が結婚前に実家を家出してたり、ドラッグ問題があったり、記憶を一時期数ヶ月失っていたこととか、実家に身体障害者の妹がいて宗教にどっぷり浸かった毒親のもと育ったことなどが少しづつわかってくる。でも、なぜ殺人を犯したかがわからない。

犯行時にかかっていた音楽が引き金になったこと、ある昔のトラウマの体験がそのメッタ刺しにつながっていることなどがわかってくる。

フラッシュバックのなかに、不気味な洋館の地下室の壁紙とか、覆面をかぶった変態の男みたいのだがでてくる。

お、定番の猟奇的な変なやつがでてきたでてきたと、こちらは思う。これは、金持ちの変態がこの女性を食い物にしたとか、秘密結社とか元FBIとかのマッドサイエンティストのマインドコントロール実験にされたとかそういう筋書きかなと思い始める。

だんだんと、女性が実家を家出したその日に、ハンサムな麻薬ディーラーの男につれられて今般殺害した医者の息子にあっていたらしいこと、そのディーラーの男の元彼女から女性はあんたも消されるよみたいに忠告されたりが断片的にみえてくる。実際に森に洋館があり、その近くで女性の死体が掘り起こされる。

シーズン1の終わりまであと2話になったとき、いよいよ、その過去のトラウマの夜が再現されてすべてが明らかになっていこうとしたとき、なぜか、実家の身体障害者の妹の話とかが詳しく語られていく。

あれれ?それ本筋と関係ないでしょとこっちは思うが、その昔の事件の夜が再現されていく中で、その事件の日が妹の16才だったかの誕生日だということがわかる。

以下、かなりネタばれ。観る予定の人は読まないほうがいいです。

妹は5年くらい生きればいいと医者にいわれたくらいの障害があって、姉である女性は毒親の母親からあんたのせいで妹がこんなになったといびられて育ってきた。妹はたんに虚弱な寝たきりとして描かれていたが、最後の3話くらいでがぜん存在感が増してくる。

おとなしい姉よりも好奇心が旺盛でませた妹は、奥手の姉をけしかけて男たちとつきあわせたり金を巻き上げさせたりと、けっこうワルだとわかる。生きることへの好奇心旺盛、でも、自分は薄命でいつ死ぬかもしれないからと暗い顔をする。自分には姉しかいないんだ、できるだけ早く家を抜け出して二人で住もうと姉に言う。そしていろいろ悪巧みをする。

そしてたしか最終回から1つ前くらいで、その妹の誕生日の日に姉と家を抜け出して家出覚悟で麻薬ディーラーのやつのいるバーに行くのが描かれる。昔の事件が起こった夜のできごとがやっと再現されていく。

洋館は会員制の狩猟クラブで、単に医学生の裕福な親の医者がメンバーだったことから医学生が趣味のバンドの練習場として地下室を借りていたということがわかる。それまでは、この地下室はいかにもトラウマの事件のあった怪しげな場所としてフラッシュバックされていたが。なーんだという感じ。

そこで、姉は麻薬ディーラーと酒のんだり麻薬を初めて摂取したりがあって記憶が朦朧となっていく、がとくに変態的なことはなく。麻薬ディーラーのやつもそんな悪人じゃないこともわかる。

妹のほうだが、医学生と会話を始めると、意外に意気投合。ほんとにソウルメイトに出会ったかのように楽しく笑い、見つめ合い、キスをする。医学生が趣味でやっているバンドのオリジナルの曲がかかっている中で。

あれれ、猟奇的な洋館の地下室の変質者の犯行はないのかいな?と肩透かしをくらった気になる。

でも、この肩透かし、中身がとても美しい。ほんとうに16年寝たきりで交際もしたことがなかった妹が、好きなひとに巡り会えてという展開が、自然にうまく描かれている。この若い2人の演技がいい。

それで、そもそも虚弱体質だった妹が麻薬を摂取した上に医学生と生まれて初めて愛しあっていたら、心臓発作で死ぬ。

その妹の死をみてパニックになった姉が医学生に飛びかかる。その飛びかかり方が、それから5年もたってから引き起こされた殺人と同じだという種明かし(ちょっと無理あるかな。でも話の流れ的には納得の説明)。

そしてもうひとつの種明かしは、妹の死体を連絡をうけた医者の親が秘密裏に埋めて、姉の記憶を消すために、ヘロインとかを投与しながら姉を3ヶ月くらい隔離する。妹は失踪したということに。姉は3ヶ月後に麻薬中毒で朦朧となったところを道端で拾われ、過去の記憶がなかったという説明。

よくできた話だったと思う。

こちらとしては、謎解きで、金持ちの秘密結社の変態集団の悪行があばかれて、元FBIとかのマッドサイエンティストが殺人鬼となるよう精神がプログラムした姉は音楽が引き金で後日医学生を殺すことになったのだというようなのを想像していた。

それが、儚い命が死の前に一度だけ幸せにめぐりあえるという、なんとも美しい話であった。

心温まる、後味のよい、猟奇的殺人事件でした。■

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