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米国選挙雑感

遅ればせながら、2022年頃に書かれたバーバラ・ウォルター『アメリカは内戦に向かうのか』をダウンロードして読む。内容が腑に落ちるので、それゆえに怖い本。

これ、おどろおどろしいタイトルになっているが、本屋やSNSにあふれるトンデモ陰謀論ではぜんぜんなくて、政治学者が世界の過去のデータをもとにしてまとめた、学術論文からのまとめで、どういう傾向があると内戦が起こりがちかが書かれた本。

駄洒落好きがまったく関係ない2つをつなげてみたりするのと似てるようでちょっとちがうが、簡単にいうと、過去の内戦の事例から共通要素や勃発のパターンを見出してまとめてみると、いまのアメリカやばいんじゃね?という話。

大昔、中南米の長期軍政の理解のために授業で、サミュエル・P・ハンティントンという政治学者の大著『変革期社会の政治秩序』を読まされたが、大方内容忘れてしまったが、これも官僚権威主義型軍政というのが歴史の中でここでこういう背景で起こったという事例をこれでもかと言う感じで調べ上げていてすごいなと思ったことだけ覚えている。

比較政治学というんかな。他山の石、ということで、他の国で過去に起こったことが参考になるので気をつけねばということか。

先週までの熱帯夜の東京滞在中読んだが、読んでて背筋がぞくっとした。ちょうどバイデン撤退のニュースもあったりした。

帰りの飛行機でも映画は観ずに、ANAだと飛行機内でライブで中継してくれているCNNをずっとみていたが(CNNもちょっとバイアスも感じるのでFOXとかもうひとつ観る必要あるが)、まさに本が指摘する内戦リスク・ファクターが現在進行中のような気もした。

コメンテーターのひとりが、トランプが running mate に女性を選ばず白人の若い男性を選んだので(バンスは彼の書いた本の映画をみたことがあったのでおもしろい人選だなあと思ったのだったが)いっそ民主党もカマラ・ハリスが誰か女性州知事を選んで、 boys v.s. girls の選挙にしちゃったらなんて無責任な軽口をはたいていて、笑ってしまった。アメリカ人、真面目な話してても軽いジョークがでてくる、死にそうな危機的な状況でも無敵なジョークを放つ。あれはいいな。まあ、民主党の女性副大統領候補はたぶんなくて、むしろどしっとした白人男性の候補者となるんでしょうけれど、なかなかいいジョークではあった。boys vs girls 、たしかに人口の半分は女性ですからね。

和訳を読んだので、「派閥化」という単語が文脈のなかでちょっと違和感あったが、sectarianism の正式な政治学の用語の日本語が派閥化なのかな。セクト主義というか。この本の場合、民族主義的な分断をさすのだろうかな。分断化というのがイメージとあっているが。

人種のるつぼの米国と思っていたらそれはNYとか大都市の話で、国全体でみると人種的・民族的な政治的な分断が進んできているという話。白人・福音派を中心としたキリスト教信者の支援を受けた共和党と、それ以外の支持が根強いベースとなった民主党。もはや単純な保守とリベラルっていうわけじゃないという話。

かつての労働者支持の民主党が、クリントン時代あたりからウォール街やシリコンバレーに近づいて取り残された白人労働者がいまや共和党支持と。イデオロギーよりも、民族的分断なのか。それを政治的パワーに利用する「民族主義仕掛人」の存在。なるほど。

旧ユーゴ崩壊後の内戦でのセルビア人が武器を手にしてかつての同胞との内戦にはいった経緯とか、怖い話である。

検閲のないSNSが、憎悪をあおる偽情報拡散に大きな役割をもっているというのは同感。SNSは無責任に人の心を惑わす偽情報が多い。やはりなんらかのSNS規制で、分断化の状態が良い方向に向かうのじゃないかな。発言は必ず記名式にしたり、偽情報拡散を罰するようにしたり。

唯一の救いは、南アの事例か。状況的に内戦へと発展してもおかしくない状況から、アパルトヘイト撤廃と選挙へと舵取った。それでノーベル平和賞もとったデクラーク大統領とネルソン・マンデラの功績。アメリカにもそんな結末が待っているとよいが。

米国政治の行方の参考にしているTVドラマ『コブラ会』の新しい、たぶん最終シーズンがリリースされていた。まだ1話しかみていないが、どんな結末になるのか楽しみ。米国の政治的な分断を、ハイスクールの空手道場のいざこざドラマ化していて、バカげた話と思いながらも、ついつい米国の政治的現実の解決策をドラマの中に求めてしまう。思いっきり殴り合って、最後にしっかりと握手する、スポーツ青春ドラマのような展開はないのだろうか。





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