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「ベター・コール・ソウル」シーズン6 ブルースと都々逸

米国の犯罪ドラマシリーズの傑作「ブレイキング・バッド」からのスピンオフの悪徳弁護士ドラマ「ベター・コール・ソウル」のシーズン6を観ている。

ズルくていい加減で犯罪者専門の弁護士ソウル・グッドマン。名前まで偽名で本名はジミー・マックギル。

ブレイキング・バッドではクライマックスにかけての、主人公のドラッグカルテルへの橋渡しやら逃亡をアレンジしたりする役回りをする、カネに汚い臆病でケチな悪党。

舞台はメキシコと国境を接する(じつはほんのちょっとだけ。地図をみてください、国境の部分のほとんどはアリゾナとテキサスになっている)ニューメキシコ州の、州都アルバカーキー。

19世紀半ばの米墨戦争で、カリフォルニアやテキサス同様にメキシコ領から米国領となった地域で、州の名もそのままニューなメキシコ。

アルバカーキーは砂漠の荒野の中の大都市で、ネイティブ・インディアン、ヒスパニック(よりメキシコ系)、アメリカ南部文化と言っていいのか元カウボーイ西部劇みたいな文化が融合された、というかひしめき合って存在している都市。

当然、ドラマでもヒスパニック系が沢山でてきて会話もスペイン語が登場する。そして、犯罪ドラマなのでもちろん、あぶない犯罪行為が国境の南で展開して、強面のメキシコのドラッグ・カルテルが登場してくる。

個人的には、つぼ中のつぼの設定。でてくるメキシコの犯罪者たちの描写も、へんにステレオタイプに流れず、メキシコ人のフレンドリーで家族思いの優しげな喋り方の奥に潜む狂気の暴力や米国法秩序の無視がきちんと描かれていてぞくっとするくらい恐い。

このスピンオフがおもしろいのは、ゲスのなかのゲス、ブレイキング・バッドの主人公の犯罪者よりも下劣な弁護士のソウルが、ごく普通のいいやつとしてでてきて、いかにそれがゲスの弁護士へと転落していったか、その過去のドラマを描いていること。なので、ブレイキング・バッドでのゲス弁護士が、失敗ばかりしてだめなやつなんだけれど親しみを持てる人物としてエピソード1からこの6の真ん中のクライマックスまで描かれている。

そこに、兄との葛藤やら、弁護士事務所でのいざこざ、そして、最愛の女性との出会い、その女性が実はどこか心の奥に闇があって、「悪」の面、人を不幸にする人物だったというような、ドラマが延々と展開される。そのドラマの展開で、ブレイキング・バッドの pre-qual (劇の続編 Sequal じゃなくて、ドラマの前夜を描いた続編)として、ブレイキング・バッドで明らかにされなかった登場人物の関係とかが描かれていておもしろい。

そしてシーズン6のE9までずっとみて、納得。やっと、ジミーがゲスのソウル・グッドマンになった。なるほど。

これ、シーズン6でたぶん終わりか。するとあと4話くらい。ここらへんからブレイキング・バッドへと話がかなり合流していく。その残り4話で、ソウルがブレイキング・バッドで描かれていた逃亡を企てるということになるのだろうけれど、Netflixではエピソードを順次リリースなのでいまは待ち。

やはり、ニューメキシコあたりにとても惹かれるのは、米国南部のメキシコよりの地域だということが大きいが、子供のころあこがれてみていた、米国の西部劇でロッキー山脈とか山の舞台でなくて、むしろイタリアで量産されたマカロニ・ウェスタンででてくる、南部の砂漠でサボテンが生えていて、メキシコ人に扮したイタリア人俳優がソンブレロ被ってでてくるような世界を思い出させてくれるからに違いない。あの、乾燥した砂漠の街、インディアンの集落、あやしげなメキシコ人、安物のウィスキーに銃。へんな郷愁を感じる。前世で18世紀頃にあそこらへんで牛泥棒でもやっていたのかもしれない。

ベター・コール・ソウルで毎回流れるテーマ曲というか15秒のジングルがこれ: (15秒のをこのYouTubeは何度も流している)


このやたら重たいギターサウンド。南部ブルースというか、カテゴリー的にはなんなんだろう?フレーズの語尾がギュぃ~んとシャープになって、かっこいい。ブルージーなブルーノートスケール。ガラガラヘビが這いずり回るような音。これぞ、このドラマの世界観というか、怪しい雰囲気がうまくでている。

この曲を聴いていて思い出してしまったのが、最近はまっている、日本の古典芸能の都々逸(どどいつ)。これも、ギュぃ~んとシャープになるんですね。

都々逸「惚れた数から振られた数を引けば女房が残るだけ」

うーん、ブルージーですね。米国南部メキシコ国境につながる哀愁がある。

ここで創作都々逸ひとひねり
「騙した数から騙された数を引けば前科が残るだけ」
よみびとソウル・グッドマン ■

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