自キャラの推し香水を作った話

自分語りから始めさせてもらう。
昨年秋、夏頃に何となく応募したとある短編賞で最終選考まで進ませてもらった。
残念ながら受賞までは至らなかったが、舞い上がった私は良いところまでいった自分へのご褒美を作ろうと考えた。
その答えが「自分の作ったキャラクターの香水を作る」だった。

近年では好きなキャラクターやアイドルなどをイメージした香水、いわゆる「推し香水」が流行っている。
「推し」とは「他の人にもすすめたくなる」存在のこと。そういう意味では、自分が作ったキャラクター(以下、自キャラ)も「推し」だ。色んな人に知ってもらいたい。
思い立ったが吉日、香水を作ってもらうしかない!
決心したのは深夜1時と、家族も寝静まった真夜中だったが、興奮しきった私は「推し香水 オーダー」でブラウザ検索に走った。
幾多の推し香水サービスがある中、選んだのは「Scently」様。
決め手は香水だけでなく、「自キャラの香水に使われたノート(香り)がどうして選ばれたのか」「自分が書いたオーダーシートから、自キャラのどんなところに着目したのか」をまとめた「解釈レター」もつけてくれるというところだ。
他にも推し香水を作ってもらえるサービスはあるが、レターがつくところは他にないようだ。
では、ここに決定。

Scently様のサイトに入ったら、まず名前などの申し込み、その次に香りの「オーダーシート」を書く。
オーダーシートって何ぞ? 簡単に言えば「推しの解説をさせてもらえるアンケート」だ。
選択式の質問として性別や年齢、「その人物に合う飲み物は?」なんて面白い質問もある。
そして、一番重要な第一印象や性格は自由記入欄として文章形式で書かせてもらえる。
「自分が作ったキャラだし、いくらでも語れるぞ」と、気合を入れて挑んだ。
私が今回オーダーした自キャラは、以下のような人物である。

・医者、三十代後半。
・見た目は強面、話し方はぶっきらぼうだが面倒見が良い。
・外見は俗にいうイケオジ

実を言うと、応募した短編にはちょっとしか登場しない。でも、その自キャラに特に思い入れがあって、その作品自体別エピソードなど続編が書けそうな作品だったし、また別の機会に再登場もしくはスピンオフが書ければいいなと思えるぐらいだった。
なので、その自キャラの好きなところとか応募した作品では活かせなかった裏設定とかを思う存分書いた。自由に書けるところは字数制限ギリギリまで。
布団の中「違うな、もっと別の表現あるよね」「あ~そうそう、あたしが言いたいのはこれ!」と深夜テンションで悶絶しながら深夜1時から2時までかけて書いた。
「何してんの、早く寝なよ」というつっこみは野暮である。
だが、液晶のブルーライトは寝る前の目に良くないのでできれば昼間に書いた方が良い。寝る前のスマホ、ダメ絶対。

香水は一週間ぐらい経ったら届いた。
リボンがかけられた上品な白い箱の中に推しの匂いが込められているであろう香水ボトル、隣には私が選んだ自キャラカラーのついた解釈レター。
これだけでもう満足なのだが、嗅いでみないことには始まらない。
さて、ここからが本題。香りの感想をまとめさせていただく。

香水は血管など、体温の高い場所につけるとよく香るという。
というわけで、手首の内側にシュッとして嗅いでみた。
つけてすぐ香るのはトップノート。
嗅いで最初に思い浮かんだ言葉は「ワイルドなおじさんの香り」。
簡潔にまとめすぎで申し訳ない。
どこらへんがワイルドなおじさんなのかというと「スパイシーさ」だろうか。
単に「おじさん」と言っても、紳士系だったり、ほんわかしてかわいい系もいる。そういうタイプのおじさん達からはしなさそうな匂いだ。
この匂いさせてるおじさんは「私服が革ジャンでサングラスをしていそう」なタイプ(独断と偏見)。
ここで、思い当たることがひとつあった。実は、オーダーシートに以下のようなことを書いていた。

「オアシスやニルヴァーナなど90年代洋ロックが好き」

うん、ロック好きそう。この匂いぷんぷんさせながら、聞いてそう。iPodじゃなくてウォークマンだよ、絶対(断定)。学生時代の思い出の曲は「Morning Glory」とか「Smells Like Teen Spirit」だったんだろうな。
解釈レターの香りの説明を見たら、トップノートに「ベルガモット、シトロネラ、カルダモン」と書いてある。
ベルガモット……? 確か、紅茶のアールグレイの香りづけに使われる柑橘類だ。優雅な男と思われてる……? いや、ちょっと違うような……?
カルダモンには納得できる。カレーにも使われるスパイスじゃないか! なるほど、このワイルドさを作ってるのは君か! いい仕事してるね!
オーダーシートには「見た目が怖くて、とっつきづらい(意訳)」と書いた記憶もある。調香師の方はこれをイメージしてくださったのだろう。
何度もくんくんしているうちにベルガモットが入っている理由も何となくわかった気がした。
ここでオーダーシートの裏設定、その2を紹介する。

「実の父親は大病院の院長であり、跡を継がされそうになったが、父の強引さや考えに嫌気が差して反抗していた過去がある」

多分、これだ。
カルダモンは彼の「見た目のとっつきづらさ」を表しているのは明白だけど、ベルガモットは「強いものに巻かれない力強さと、気高さ」を表しているんだろうな。
そう気づいたら、自キャラへの理解が一層強まった気がした。

ここでは終わらない。香水は時間とともに香りが変化するのだ。
さらに時間が経つと、ミドルノートに突入。最初はなかった甘さが現われる。スパイシーさはまだ残ってるんだけど、甘いようなほのかな匂い。何だ、これは? どこから来た?
解釈レターに書いてあるミドルノートの調合には「クロ―ブリーフ、バジル、フェンネル」。
「すみません、バジル以外何者かわかりません……」と思い調べたところ、特大の共通点を発見した。
この三つ全て「ハーブ」なのである。
ハーブと言えば薬草、薬草と言えば薬、薬といえば医者。
ああ、そうだった。彼は「医者」なんだった。
医者は患者の苦痛を癒す。このほんのりとした甘さは彼の「仁」の部分を表しているのだろう。

一時間ぐらい経ち、残るのはラストノート。
最初あれだけ存在を主張していたスパイシーな香りはどこにもない。
あるのはただ穏やかな匂い。
裏設定その3、である。

「見た目は怖いが、実は話しやすく、彼のことを知らなかった人に第一印象とのギャップを感じさせる」

来ましたね……。外見の中に隠された穏やかさがここでとうとう明かされてしまった……。
ラストノートに入っているのは「シダーウッド、パインニードル」
シダーウッドは、お香としても使われる香りだという。
嗅いでいると、不安なことや悩みを医者である彼に全て打ち明けた後のように落ち着いた気分になってくる。

まとめよう。
私の推し、もとい自キャラの医者の推し香水は、香水の種類でいえばハーブがメインの「ハーバル系」だ。
この香水、「ザ・お花」という感じの甘さや華やかな香りがしない。
言われてみれば、この自キャラに華やかさなど想定はしていなかった。そんなものは一切設定でもつけてこなかったし。とことん「力強さ」と「熱さ」を追求した香りなのである。
どうやら、Scentlyの調香師様に私の想いはちゃんと伝わったようだ。
夜中、布団の中で怪文書を作った甲斐がある。
ありがとう、Scently様。

最後になるが「自キャラの香水を作ってもらうというのは創作者にとって重要な経験なんじゃないの?」ということを言いたい。
自分の身や服にまとえば、自キャラの存在を感じ取ることができるし、彼がどのような活躍ができるのかを考える良いインスピレーションにもなるだろう。
もし、自キャラの香水を作ったことがない字書きの方がいたら、ぜひ一度は作ってもらいたいと思う。
自分の作ったキャラクターが香りで表現できるって格別だ。





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