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【リサーチ旅・大分】別府温泉駅の地下道から聞こえた17歳の「壊れかけのRadio」

3年ほど前だと記憶しているが、大分の由布院を目指してひとり旅をしている時、別府温泉に立ち寄った。夜10時頃ホテルに荷物を置いて、まずは腹を満たして温泉でも入ろうとふらふら歩いていると、賑やかな温泉街の風に乗って、聞き覚えのある歌が流れていた。ちょっと待てよ。これは「壊れかけのRadio」じゃないか。なぜこの時間に?誰が歌っているんだ?

声を追って、思わず駆け出した。見知らぬ土地で、知っている曲がすぐそこにある。どうしても確かめたい。どうやら、下から聞こえるようだ。なんと、温泉街の地下に続く連絡通路から漏れ聞こえていることが分かった。スマホのカメラを起動して、動画を撮ることにした。階段を下りて声の主を追いかけた先にいたのは、意外にも少年だった。地下道の壁にもたれかかり、あぐらをかいてギターを弾いている。まさか、こんなに若い子とは。私が近づいてカメラを向けると、ちらとこちらを見て、別に気にしていないという様子で、手を止めることなく弾き続けた。この一曲歌いきってやるぞ、そんな気迫を感じた。

なぜ私がこの声を追いかけたくなったかというと、とにかくドラマを感じたからだ。当時は仕事に恋愛に人生に、もう忘れたが何か悩んでいたんだと思う。それを振り切りたくて、東京を離れて由布院を目指した。その途中、飛び込んできたこの出会いに、何か意味があるはずだと感じた。上手い下手関係なく、その時の私がいま聴きたかった声、ド直球だったのだ。

演奏を終えた少年と話すことができた。これまたびっくり、まるで染谷将太のような混じりけのない黒目を持つ美少年だった。背丈はそんなに大きくないが、とにかく物怖じしないタイプらしく、不思議な雰囲気を持っていた。まるで「あなたが来ることを3年前から予想してましたよ」とでも言わんばかりの落ち着きようだった。一体何者なんだ?

彼は不思議な人生経験を積んでいた。まず、身近な人の死の現場に何度も立ち会ってきたこと。そして自分自身も、身の危険に遭ったこと。独特の死生観が育ったのかもしれない。年を聞くと、17歳だという。17歳の今、人生で何を目指したらいいのか、学校に行く意味が分からなくて、中退してしまったという。それで別府で弾き語りをして自分を探している。もう、この時点で撮れ高十分。

しかしその夜は長かった。少年の話だけでややお腹いっぱいだったのに、その後、別府温泉の顔役だという男性が現れ、この人がまたキャラのいい人で話が長かった。その男性は、別府の路上ミュージシャンを時々見回りに来てくれる保護者のような人だった。少年が弾き語りしている奥には、別のミュージシャンの姿が見えた。ちいさな地下道、一人が歌えば朗々と響いてしまうので、交互に譲り合って歌うのがここでのマナーだと話してくれた。男性の話を3時間くらい聞いた後、深夜営業の温泉に案内してもらった。

それにしても、なぜ大分で弾き語りが多いのか?

その答えは、翌朝見つかった。ホテルから別府温泉駅に向かう途中、目に入った看板が「フォーク&ポップス博堂村」。まさか、フォーク村?なぜ別府に?
後でリサーチしてみると、ニューミュージックのシンガーソングライター大塚博堂が別府の生まれだという。私は彼の名前は存じ上げなかったが、彼を慕うミュージシャンが、あの「博堂村」に集まって、音楽談義を繰り広げているのだろうか。それにしても今時、「フォーク村」を見つけるなんて!

今回の大雨の被害が心配になり、例の弾き語り少年に連絡を取ってみた。彼は無事で、近隣の県の被害が大きいと話してくれた。一安心。本当は彼も東京に来たいと話していた。私としては、知られざるフォーク村・別府の音楽を守り続けるミュージシャンに成長してほしい気持ちもある。


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