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熱々が好きなのにすぐ冷ましてしまう

ティーバッグで淹れた煎茶が熱いうちは集中できる気がした。紅茶の日はあまり捗らない気がした。同じ言葉で違う意味を出したり、似たような言い回しを思いつくことがセンスだと思っていた。熱々を口に入れて、中の上の方が沁みる。昼間の味噌汁で火傷したことを思い出した。

「先週、シンガポール行ってきたんだ」
そう言って渡された黄色いパッケージの紅茶は、有名なお土産なのだろう。あとこれと、これね。そう言って出されたマーライオンの形を模したチョコと、赤い象柄のタイパンツ。タイってどこだっけ、そう考えながら、全部、あわよくば自分用なのだと分かった。

黄色い紅茶はきっと、お客さん用にするような値段のものだけれど、全部自分で飲んでみた。飾ってもいいようなパッケージは、なんとなく隠した。
チョコは彼女が家にきた時用のおやつに、象は部屋着になった。日持ちがするおやつは、1度でも冷蔵庫に入れたら美味しくなくなると言われ常温で保存した。暑くなる前になくしてほしいと思った。暑くて溶ければいいと思いながら、かなり早めに冷房を付け始めた。
象は薄くて長くて、彼女は1年中履いていた。どれだけ過ごしても彼女のものは増えなかった。洗濯して、きれいに畳んで、置いていく。最後まで片付けないのが、また来る合図みたいでそのままにした。

自分で紅茶を買うようになった。マグカップも新しいものにした。相変わらず熱々で飲む。なんとなく集中できない気がするが、置かれたままになっているタイパンツのせいにするのは癪で、冷めた紅茶のせいにする。今日も口内がヒリヒリする。

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