個人的入試解説 part1 京都府立医科大2024大問3

このコーナーでは僕が普段扱う予定のない数学の入試問題の中で、個人的に記事を書きたいと思った問題を扱います。
今回の問題は2024年の京都府立医科大学の入試問題から大問3です。

以下では円の中心を$${O}$$として説明を進める。

初投稿から早数ヶ月が経ち、50問以上扱ってきたが、今までほとんど扱ってこなかったのが図形問題である。多少図形が絡む問題はいくらでもあったとは思う(いや、ほとんどなかったかもしれない)がここまで図形の色が濃い問題はなかなかなかったので少し扱いたくなったので今回は今年(この記事が書かれた2024年)の入試問題からこの問題を持ってきた。
ということで解いていこう。

図形問題で最も大切なのは「図を描くこと」である。
「いや、当然だろ」と思うだろうが、これが図形問題のスタートラインであり、図を描くのが苦手な人でもそれなりに綺麗な図を描くのに時間を使ってほしい。(1問に30分かけられる京都府立医科大なら10分までなら作図に使っても構わない。)

普通、数学の問題は次の2つのどちらかに当てはまりやすい。(これらに当てはまらないと超難問となりやすい。)

①よく見たことある問題。似たような問題が網羅系参考書にしっかり載ってるような問題。
②見たことないような問題。ただ、ちゃんと問題文を読み解くことでどんな公式を使うべきか、どんな解法を取るべきかを考えることができる問題。

しかし、唯一例外となりうるのが数A(確率、図形、整数)である。(いや、数Aは超難問になりやすいから例外とは言えないかもしれない。)
また、確率と整数に関しては①や②に当てはまるものも割と存在するが、図形の場合は共通テスト程度の難易度でも当てはまらないことがある。というのも図形の問題では問題文の一定量は舞台となる図形の説明に当てられてしまい、問題文から得られる、解法に直結した情報が少ないことが多々あるのだ。(今回は少ないどころか解答に直結する情報が問題文にほとんどない。)
この手の図形問題は問題文からの推測が全くもって意味をなさない。問題文から得られる情報が他の分野の問題に比べると少なく手がかりがどうしても掴みづらくなってしまうのだ。だから、必然的に自分の描いた図を情報源とせざるをえない。それにもかかわらず、ここで図を雑に描いてしまうと本来丁寧に描いたら得られるであろうヒントが全く得られず何をしたらいいかわからないという状態に陥りかねないのだ。
しかも、図形問題ではどこに注目すべきかがいまいち分からない。問題を解くうえで必要な部分にピントを合わせるのがかなり難しいのだ。だから問題文以外にも何かしら情報を掴んでおかないと解くのはそれなりに困難になる。

よく、「本番では定規やコンパスは使えないから数学の問題を解くときにも使わないほうがいい」みたいな意見を目にするが図形からの情報の読み取りが慣れないうち、もしくは本番想定の演習をしていないうちはかならず定規とコンパスを使ってそれなりに完璧な図を描こう。ちゃんと図を毎回描いていれば、シャーペンしか使えなくても図を描くスピードも割とあがるし別にそれらを使ったって十分練習にはなる。完璧な図を描いても解けないなら適当に描いた図で解けるわけがないので、それを受け入れて実力向上につなげたい。(そもそも参考書の解答解説には綺麗な図があるのに僕たちは適当な図で解くなんてどう考えてもおかしいだろう。)

実際に、今回の問題をもとに僕がフリーハンドで描いた図が次である。(僕は特段絵が上手いわけではないのでおそらく意識すればこれくらいは誰でも描けるだろう。)

定規、コンパスは使わずにおよそ5分弱で描きあげた


図形問題を解くとき、その問題にかけられる時間のおよそ3分の1くらいまでは作図と情報収集に充ててもいい。情報収集では主に同じ角度、長さと有名角にだけ注目して図から成立しそうな部分に目星をつけておけばいい。そこから目星をつけた部分に理由、つまり証明をあとから足して事実だという確認を取ればいいのである。あくまで証明から事実を導くのではなく事実っぽいことに証明という裏付けをとるのだ。(ただ解答を書くときはあたかも証明から事実が導かれたように書けばいい。)

ということで本格的に問題を解いていこう。
まず今回の問題の舞台はこちらの図である。

こっちは定規とコンパスを使って描いている。

この図を見てとりあえず同じ角度、長さ、有名角を探そう。優先順位は同じ角度>>有名角,同じ長さである。というのも、同じ角度にまつわる図形の性質というのは相似から、円周角の定理や接弦定理などさまざまあり、1番鍵になりやすい。有名角に関してはそれっぽく見えても実は違うケースも全然考えられるので、正三角形などが大量に出てきた時(今回など)や「角度を求めよ」(「角度を〜を使って表せ」とは区別すること。)という問題が入っている時は少し意識しておいた方がいい。同じ長さに目がつけられていると、二等辺三角形や同一円周などを発見できるケースがある。ただ、基本的に「長さを求めよ」が出てきた時に警戒しておけばいい。(今回は(1)にあるのでちょっとだけ注意して見ておきたい。)
どのくらい探すかだが、とりあえず確信の持てそうなものを1,2個見つけたら一旦はそれで進んだ方がいい。大体1,2個あればそれだけで必要な情報が出揃うし、芋づる式に他にも情報が得られることもあるのでそれ以上は意識する必要がないだろう。

少し別の話にはなるが、大した情報が得られないなと感じたら円の中心と円周上の点を結んでみると上手くいくことが多い。あくまで僕の経験則にしかすぎないが、図をパッと見て何も見えてこない時は円の中心と円周上の点とを結ぶ補助線を引くと解答に直結するヒントとなることが割とある。(実は大学入試だけでなく高校入試でもこれが割と通用する。)ということで、今回図にはあらかじめ破線で$${A_1}$$〜$${A_5}$$と$${O}$$とを結んである。

前置きはここまでにしてヒントを探していこう。(1)では「$${A_3B}$$の長さを求めよ」とあるが、もし仮に問題文に出てきた$${a}$$や$${b}$$を使うなら問題文は「$${A_3B}$$の長さを$${a}$$,$${b}$$を用いて表せ」となるはずだから実は半径1しか与えられていない状況で$${A_3B}$$の長さが求まってしまうらしい。これが少し奇妙だとは思っておきたい。求まってしまうということは円の半径と$${A_3B}$$の長さに何かしら関係があるはずだから、円の半径$${A_3O}$$と見比べてみる。するとなんとなく同じ長さに見える。
ということでこの問題では次のことを証明するつもりで解いていこう。

$${A_3O}$$と$${A_3B}$$の長さは等しい。

これを証明しようと思ったら真っ先に考えるのは三角形$${A_3OB}$$が二等辺三角形であることを底角が等しいことから示すことだが、それに手を出す前にもう少しだけ図形からヒントを貰っておきたい。というかじっくり見てみるとなんだか三角形$${A_2A_3O}$$と$${A_3A_4O}$$が正三角形に見えないだろうか?そもそも$${A_3A_2=A_3A_4}$$が問題文で与えられているから三角形$${A_2A_3O}$$と$${A_3A_4O}$$は合同だし、これも成り立ちそうに見える。

これが見えていたら次の仮説が立てられるだろう。

点$${A_2}$$,$${O}$$,$${B}$$,$${A_4}$$はすべて$${A_3}$$を中心とする同一円周上にある。

これを示す方針でいきたい。
ということで仮説や示したいことを揃えたのでここから正しいといえる根拠、つまり証明を後付けしていく。

まず一旦$${B}$$はおいておき、点$${O}$$,$${A_2}$$,$${A_3}$$,$${A_4}$$に注目していく。
ここでは先程の三角形$${A_2A_3O}$$と$${A_3A_4O}$$が正三角形であるというのを証明するのを目指していこう。
すでに三角形$${A_2A_3O}$$と$${A_3A_4O}$$がそれぞれ$${OA_2=OA_3}$$,$${OA_3=OA_4}$$の二等辺三角形なのは分かっているから正三角形であることを示すには頂角が60°だということを示せればいい。そして弦$${A_2A_3}$$と弦$${A_4A_3}$$の長さが等しいから角$${A_2OA_3}$$と角$${A_4OA_3}$$の大きさが等しいことも分かっている。
ということでこの状況で正三角形であることを示すには角$${A_2OA_4}$$の大きさが120°であることを示したらいい。
これを示すのは簡単で正三角形$${A_1A_2B}$$より角$${A_2A_1A_4}$$の大きさが60°であり、円周角と中心角の関係から角$${A_2OA_4}$$の大きさが120°であるといえる。
これより三角形$${A_2A_3O}$$と$${A_3A_4O}$$が正三角形であるし、点$${A_2}$$,$${O}$$,$${A_4}$$はすべて$${A_3}$$を中心とする同一円周上にあるといえた。

次に$${B}$$も同一円周上にあることを示していこう。
それを示すには円周角の定理より角$${A_2OA_4}$$と角$${A_2BA_4}$$の大きさが同じであることを示せたらよい。ゆえに角$${A_2BA_4}$$の大きさが120°であると示せたらよい。
それも簡単で、直線$${A_1A_4}$$と角$${A_2BA_1}$$に注目すると120°だといえる。
これより$${B}$$も$${A_3}$$を中心とする同一円周上にあるといえた。
ゆえに$${A_3O}$$と$${A_3B}$$の長さは等しいというのは正しいと示せたから答えは円の半径、つまり1となる。

続いて(2)へいこう。
ここでは「$${b}$$を$${a}$$を用いて表せ」と言われているが、何が必要かわかるだろうか?ここで求められているのは$${a}$$と$${b}$$の関係式である。関係式さえ持ってこられたらあとはそれを変形すれば解答が完成する。ということは関係式がほしいのだが、$${a}$$と$${b}$$はそれぞれ辺の長さだからまずは余弦定理、正弦定理を疑いたい。(これがダメなら今度は方べきの定理やメネラウス定理、チェバの定理など辺の比に関係する定理の利用を疑ってみるとよい。)正弦定理にしろ、余弦定理にしろ使うには$${a}$$と$${b}$$を両方とも辺に含んだ三角形を使いたい。だから、今回は三角形$${A_2BA_4}$$を持ってこよう。

そして余弦定理、正弦定理のどっちを使うかだが、辺の情報が多いほど余弦定理、角度の情報が多いほど正弦定理を使うと上手くいく。今回は実は$${A_2A_4}$$の長さが求まるから余弦定理を使おう。というのも三角形$${A_2A_3O}$$と$${A_3A_4O}$$がともに一辺が1の正三角形だから$${A_2A_4=\frac{\sqrt3}{2}×2=\sqrt3}$$と求まる。
そして余弦定理を使えば関係式が出てきたのでこれを変形したら答えが求まる。

このときに$${a}$$がとりうる値の範囲が$${0<a<2}$$であり、これはちょうど半径1の円の中に入る条件によって常に成立するから解が虚数になることはない。

そして(3)だが、五角形の面積を求める公式なんてないのでここは素直に三角形に分割して足し合わせよう。
あとは微分して増減を調べていくだけである。

微分のところでちょっと厳しい計算が入ったため、実はこの方法は少し良くないらしい。(厳しい計算だが、メタ的に因数分解できると考えたらギリギリできないこともない。いや、ほとんど無理かもしれない。)
ということで次のように計算するのが想定解だろう。

増減表以降は何も変わらないので省略

今回は初めて扱った本格的な図形問題ということで図形問題を解くときに僕が気をつけていることをかなり書いていったので結構長くなってしまった。(ここまでお付き合いいただきありがとうございます。)少しでも図形問題に対するアプローチのヒントとなれば幸いだが、それでもなお図形問題は難しいと感じる人が多いだろうし、実際今回のように綺麗に解くのはかなり難しいだろう。しかし、図から「$${A_3O}$$と$${A_3B}$$の長さが等しい」「三角形$${A_2A_3O}$$と$${A_3A_4O}$$が正三角形」というたった2つの手がかりさえ得られたら、難しいことには変わりなくても解けそうな難易度に変化する。こういったヒントは問題文からだけじゃどう頑張っても得られないので自分で描いた図を駆使したい。
こういった手がかりを掴むのにはそれなりの時間と演習量が必要にはなるが、積み重ねれば必ずセンスが養われていくのでそれを大事にしていきたい。
また、図形問題は今年から共通テストで必須になるらしいので、2024共通テスト本試験の図形問題もちょっと扱おうと思っています。(乞うご期待)

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