京大理系数学2024を解く 大問4

2024年に実施された京都大学の理系の入試問題の数学を無理のない考え方で解く。

大問4

問題の前半は数列かと思いきや、後半はゴリゴリ整数問題というこれまた見た目が難しそうな問題となっている。数学が好きな人なら数列部分を見て、コラッツ予想に似ているなと感じたかもしれないがあまり関係ない。それは置いといて、問題では奇数についてしか触れていないあたり、偶数部分の数列なんて無視していいんじゃないか?ぐらいの憶測を立てられると少し気が楽になる。
解答に進んでいこうと思うのだが、ここで整数問題に対する心構えを1つ。
整数問題は解法が浮かばなければ力技
数学が解けるようになってくると力技を避ける人が多いのだが、今回なんて特に$${a_{10}}$$なんだからワンチャン計算だけで片付けられるのではないか?ぐらいの思考を持ったって良い。(だからといって力技で押し切るのは相当ではあるが。)実際に(1)に関しては(2)に繋げるためにも実際に計算することを強く推奨する。特に京大数学は誘導が少ないことで有名だが、そんな京大が(1)を用意しているあたり、実験しろと言われているものだと受け取るべきで、模範解答などは綺麗に解いているが、そんな上手くいくわけもないのでもっと泥臭く点をもぎ取る姿勢で整数問題には挑みたい。
なんとなく(1)があることで察しがついている人もいるかもしれないが、この問題は普通に難しい。一応、複数の解答例を考えているのだが、そのどれもが現実的な発想とは少し遠いものとなっている。ミスが多発しやすい問題というよりは綺麗に解答する難易度が非常に高い問題だと考えている。それを念頭に置いて、これからの解答手順を読んでほしい。
では、まず早速(1)を解こう。
$${a_0}$$が奇数だから、$${a_0 = 2k-1}$$とする。(以下登場するk,l,m,nは全て自然数とする。)
すると、
$${a_1 = (3a_0 +1)/2 \\ =(3(2k-1)+1)/2 \\ =3k-1}$$
ここで$${a_1}$$が奇数ならば、kは偶数だから、k=2lとする。
このとき、$${a_0=4l-1 , a_1=6l-1}$$
また、
$${a_2 = (3a_1 +1)/2 \\ =(3(6l-1)+1)/2 \\ =9l-1}$$
これより$${a_2}$$が奇数ならばlは偶数となる。そこでl=2mとする。
このとき、$${a_0=8m-1 , a_1=12m-1 , a_2=18m-1}$$
そして、
$${a_3 = (3a_2 +1)/2 \\ =(3(18m-1)+1)/2 \\ =27m-1}$$
よって$${a_3}$$が奇数ならば、mは偶数となる。だから、m=2nとすると、
$${a_0=16n-1 , a_1=24n-1}$$
$${a_2=36n-1 , a_3=54n-1}$$
となる。これより$${a_0}$$〜$${a_3}$$が全て奇数になる時、$${a_0=16n-1}$$の形で表されるから、その最小値はn=1のとき、$${a_0=15}$$が答えとなる。
そして(2)に移るのだが、(1)を通してなんとなく$${a_0}$$についての法則性を見いだせているといいのだが、分かっただろうか?
実は、並べてみると気づきやすいのだが、
$${a_0}$$〜$${a_1}$$が奇数のとき、$${a_0=4k-1}$$
$${a_0}$$〜$${a_2}$$が奇数のとき、$${a_0=8k-1}$$
$${a_0}$$〜$${a_3}$$が奇数のとき、$${a_0=16k-1}$$
次のような法則性が成り立っているのではないかという予測が立てられる。
$${a_0}$$〜$${a_n}$$が奇数のとき、$${a_0=2^{n+1}k-1}$$
そして少なくとも答えは$${2^{11}×1-1=2047}$$になるんじゃないかなぁと思えていたら上出来だと思う。(こういう心づもりのためにもやはり手を動かすのが大切である。)
しかし、そのなんとなくを解答とするのは京大が許してはくれない。
そこで、問題を改めて見直してみるとこの問題はそもそも見た目が数列だったということを思い出し、数列的なアプローチでこの問題が解けるかもしれないと思えたら一歩進む。(僕はこの発想に全く至らなかったことを反省しているが。)
でも、項の偶奇によって漸化式が異なる数列の解き方なんて知らない、わからないとパニクってしまうかもしれないが、この問題、奇数の項が連続する部分しか扱わないのだから、実質$${a_{n+1}=(3a_n+1)/2}$$という漸化式の数列を扱っているのと同じだと思えば冷静に対処できるだろう。
そこで、数列の一般項を求めるために特性方程式を使うと、
$${a_{n+1}+1=3/2(a_n+1)}$$となって一般項は、$${a_n=(3/2)^n(a_0+1)-1}$$と求まる。(ここでの数列$${a_n}$$は問題で与えられている数列とは違うものであり、あくまで項がすべて奇数のときにのみ問題で与えられている数列と一致するものと考えなければならない。)
そしてここからが、従来の問題、問題集に載ってる問題だとか授業で習う問題と少し違うから、難しく感じる人が多くなると思われる。
というのも、上に示した一般項の式を$${a_0=}$$の式に書き直すのだ。
こんな見慣れない操作がどこから出てきたのかがわからなければ、この問題を解き切るのがいささか現実的ではなくなってしまう。だから、この操作に隠れた思考を、論理をもう少し考えるべきではなかろうか。
普段、僕たちが数列の問題を解くときは当然のように$${a_n}$$を$${a_0}$$を使って表すし、むしろその逆(今回の操作)なんてやることはほとんどないのだが、それはなぜだろうか。その答えは簡単で、普段僕たちが必要なのは$${a_n}$$についての情報であって、$${a_0}$$についての情報ではないからだ。しかし、この問題はどうだろうか?と思って問題をもう一度読むと一貫して$${a_0}$$を求めろ、という指示がなされている。つまり、この問題はよくあるような数列の問題に見えるが、求めるべきもの、つまり必要なものが普段と全く違う問題であってこのことに気づけない限り、いくら解答を読んで暗唱できようともその解答の意味自体は理解できないのだ。
今回のように模範解答に違和感を感じるような操作、見慣れない操作があったら、その操作の意味を考えることは高校数学ではマイナーな公式なんかよりも何十倍も大切なのだと勝手に僕は考えている。
これ以上脱線する前に、解答へ戻ろう。
$${a_0}$$の式に書き直すと次のようになる。
$${a_0=(2/3)^n(a_n+1)-1}$$ ー(*)
ここで、少し詰まる人もまたいるかもしれないが、そういう時には、自分が持っている情報をもう一回整理しなおそう。すると、$${a_0}$$,$${a_n}$$って正の奇数だったということが残っていることを思い出し、この形式は数列の枠から離れて、また整数問題っぽくなってきているなという風に感じる。
すると、(*)の式の右辺が奇数もとい、整数になるためには$${a_n+1}$$が$${3^n}$$で割り切れなければならないし、そもそも$${a_n}$$が奇数なんだから$${a_n+1}$$は偶数になる。つまり、素因数に2を少なくとも1つは持つということがわかる。
すると次のような式が成立する。
$${a_n+1=2×3^np}$$(ただしpは任意の自然数)
そしてこれを代入すると、
$${a_0=2^{n+1}p-1}$$となり、この式から、$${a_0}$$の最小値はp=1のとき、$${a_0=2^{n+1}-1}$$となる。
ゆえに、$${a_0}$$~$${a_{10}}$$までがすべて奇数の時、$${a_0=2^{11}-1=2047}$$となる。

これで解答は完了なのだが、数列的な視点を利用しないような解答もある。
というのも、今回の問題で予測をもとに数学的帰納法を使えば、ごり押しが効く。(僕自身初見ではこの方法で答えを出した。)
以下では、数学的帰納法を用いた解答例を2つ示し、ポイントを述べていく。(ただし(1)については省略する。)

解答例①
数学的帰納法を用いて以下の命題を示す。
命題
自然数nについて、$${a_0}$$~$${a_n}$$が奇数になるならば$${0 \leqq k \leqq n}$$を満たすすべての自然数kについて
$${a_k=2^{n-k+1}3^kx-1}$$(ただしxは任意の自然数)の形であらわされる。
(1)より、n=1~3のときには命題が成立する。
n=jのとき、命題が成立すると仮定すると、
n=j+1のとき、$${a_0}$$~$${a_j}$$が奇数ならば、
$${a_{j+1}=\frac{3a_j+1}{2}}$$
ここに$${a_j=2^{j-j+1}3^jx-1}$$を代入すると
$${a_{j+1}=3^{j+1}x-1}$$となる。
$${a_{j+1}}$$が奇数ならば、xは偶数だからx=2y(yは任意の自然数)と書けるから、それを代入すると、
$${a_{j+1}=3^{j+1}×2y-1\\=2^{(j+1)-(j+1)+1}3^{j+1}y-1}$$であり、
また、$${0 \leqq k \leqq j}$$では、
$${a_k=2^{(j+1)-k+1}3^ky-1}$$となって、確かにn=j+1のときも命題は成立している。
よって数学的帰納法により、この命題は真であるから
$${a_0}$$~$${a_{10}}$$までがすべて奇数ならば、
$${a_0=2^{(10-0+1)}3^0-1=2047}$$となる。

解答例②
数学的帰納法を用いて以下の命題を示す。
命題
数列{$${a_n}$$}が$${a_j}$$~$${a_{j+k}}$$という連続するk個の奇数の項を持つならば
$${a_j=2^{j+1}x-1}$$の形で表される。
(ただしjは0以上の整数、kは自然数で、xは任意の自然数)
k=1のとき、$${a_j}$$が奇数ならば
$${a_{j+1}=\frac{3a_j+1}{2}}$$
$${a_j=2a-1}$$(aは任意の自然数)とすると、
$${a_{j+1}=9a-1}$$より、$${a_{j+1}}$$が奇数ならば
a=2b(bは任意の自然数)と表せて、$${a_j=4b-1}$$となるため、成立する。
k=iのとき、命題が成立すると仮定すると、
k=i+1のとき、$${a_j}$$~$${a_{j+i+1}}$$が奇数ならば、
$${a_{j+1}}$$~$${a_{j+i+1}}$$の部分にk=iでの仮定を利用すると、
$${a_{j+1}=2^{i+1}c-1}$$ (cは任意の自然数)ー①と表せる。
また、$${a_j}$$が奇数ならば、
$${a_{j+1}=\frac{3a_j+1}{2}}$$ー②である。
①、②より
$${\frac{3a_j+1}{2}=2^{i+1}c-1}$$
$${a_j=\frac{2^{i+2}c}{3}-1}$$
ここで$${a_j}$$が奇数であることと、$${2^{i+2}}$$と3が互いに素であることから、$${\frac{c}{3}}$$は整数である。つまり、c=3dとなる。(dは任意の自然数)
これを代入すれば、
$${a_j=2^{(i+1)+1}d-1}$$となり、k=i+1のときにも成立する。
(以下省略、j=0,k=10を代入すれば答えが求まる。)

数学的帰納法を用いた解答例を2つ示したが、これらは実際に書く解答としてはいささか不向きであるといえる。実際、書けなさそうだと思った人が多いと思われる。
その原因を少し探ってみよう。
まず、解答例①だが、この解答の現実味が薄い点はただ一点、命題の設定にある。
確かに$${a_0}$$を推測する分にはそこまで困難なことはないのだが、この例では$${a_n}$$の項をまとめて推測している。ところが、(1)から果たしてそんなことができるものだろうか?NOだと言いたいところではあるが、実はYESだったりする。というのも数字を見て推測するのではなく、計算過程を見て推測すれば、案外できないこともない。(1)の過程で大量に出てきた文字だが、あれらは奇数の項が連続する場合何回やろうともかならず、偶数となるため、連続する項の数が増えるごとに2の指数が1つ増える。また、漸化式部分を見れば、$${a_n}$$に3がかけられているが、分母の2と互いに素であることに着目すれば、nが大きくなるにつれて3の指数も大きくなっていくことにも気付けるだろう。また、(1)にて係数として登場する数がすべて素因数に2または3しか含まないことをヒントにしてもこのようなより深い予想が立てられるだろう。
しかし、これに気づくには相当な観察力を要することが予想され、できなくはないものの現実的な解答かと言われれば少し無理がある。
次に、解答例②だが、この解答の難しい点は帰納法が見えづらく混乱しやすい点にある。
命題を読むと文字が乱発されることから一瞬何についての帰納法をすべきかが見えづらく、かといって間違えるとその時点で0点となる。
また、k=iでの仮定を利用するところも普通に難易度が高く、これまた数学がそこまで得意でない人が書くにはハードルが高い。しかし、この考え方は十分役に立ちうるので目を通しておいてほしい。

この問題は、京大数学2024の中では難しい方に分類されるであろうが、少なくとも(1)は合わせて、(2)にも手が出せるほどの実力があると好ましいだろう。
大問5へ続く。


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