無限三国志2 帝国打倒編
第二話 私のあしながおじさん
エミリー嬢の手助けによって念願のボス討伐を果たしパワースクロールを入手した僕は不思議な手応えを感じていた。
正直、自分の能力と「上手い」人とは格段の差があってそれは絶対に埋められない。そしてパワースクロールやアーティーファクトなどの貴重品は大金を払わないと自力で手に入れることはまず無理なのだ・・・という思い込みがあった。
ところが、装備は確かに神がかってはいるが、考えようによってはしっかりした装備さえ整えていれば案外手の届く範囲にあったのかもしれない。億劫がって手を出そうとしなかっただけなのではないだろうか?
以後、僕は自力で装備を手配するようになるが、この件で優秀な生産武具に対する重要さを学んだのである。
デスパイスダンジョンのボスを倒すと祭壇にムーンゲートが出現する。
それをくぐり抜けた先は宇宙空間のような星空とまた一回り大きな祭壇の間が広まっているのだが、その先にはもう一つ帰還用のムーンゲートが設置されておりエミリー嬢が先行してその広間を偵察してくれていた。
なぜなら、ここはボス討伐後の疲弊した戦士を襲う冒険者専用の暗殺者どもが手ぐすねを引いて待ち構えていることが多いのだ。最後まで気を抜かない・・・そういう上級(いや、中級か?)冒険者としての常識もこうやって教えてもらった思い出だ。
さて、僕はホームタウンのルナへと帰還していったのだが、去り際にエミリー氏にお礼を述べると「ルキさんがこれ持ってけって渡してくれたのだからえみりにお礼を言う必要はないです」とのことだった。
(いや、持ってきてくれてんだから素直に礼をいわれてよ・・・)と思いつつも、はて?ルキさんとやらが僕にネズミタリスマンをピンポイントで持ってきてくれる程のつきあいがあっただろうか?どこまでこっちの情報が知れ渡ってるんだろうか?と自問自答した。
ルキさんと言えば言わずと知れた無限一の大富豪にして無限最強の存在、冒険者専用の暗殺者を撃退する傭兵団の頭領、一説によれば無限誕生の際この世に生まれ、光と闇を二分したものの光を受け継いだ存在・・・などなど概念的な事も含めていろいろうわさされる古強者である。
多くを語らず寡黙な人らしいがなぜか非常に女にもてる。まあつまり僕とは逆のタイプなわけだが・・・僕とは今まであまり接点がなかったはずだ。接点で言えばエミリー嬢を介して知ってるのだろうか。
ところが、ここから先の僕の人生にルキさんという人は非常に深く関わってくるようになるのである。
「じゃあえみりは帰ります」
「どうもありがとう」
疲労困憊した体を休めるため、ルナの家に戻ろうとしたが、道中いやな視線を感じた。ルナの街は無限では首都であるブリテインに次ぐ繁栄を誇る賑やかな街であった。そこには色んな人物がいて、通りすがりだったり宿泊客だったり買い物をしていたり、鍛冶屋や裁縫屋などの出入り職人だったりと特に他人に気を取られることは今まではなかったのだが、例のパワースクロールを懐中に潜ませているせいかあちこちから視線を感じる気がする。
正直それはあながち自意識が過剰になった産物というわけでもなかった。
実際、生き馬の目を抜くようなこの無限で、今までそういう「組織」に目をつけられていなかっただけなのである。
1年ほどが経過する。
謎の大富豪からのバックアップで新しい扉が開かれ、うだつの上がらなかった人生がバラ色に輝いた・・・といえば陳腐な表現だが、その頃に訪れた自分への変化はまさにそう言うことだった。
今現在の僕を知る人間はヴェスパーの街の首長であり、経験も豊富で財力もある人間を僕として認識しているかも知れない。そんなわけがない。それは過分な評価であり、等身大の僕としてはいまだにたんなる中級冒険者である。他者の評価のほとんどがルキさんのそばにいるからこそであり、そのイメージを投影させているだけに過ぎない。
そのころルキさんの近しい存在であったエミリー嬢とゴールデンハムスター嬢が相次いで以前のような甲斐甲斐しい冒険への随伴を控えるようになっていた。理由は僕にはわからないし、元々そういうレベルの活動頻度だったのかも知れないのだがとにかく何故か僕とミルミルがそのポジションを引き継ぐようになっていた。
毎晩のようにルキさんの邸宅に集まり、以前とは比べものにならないハイレベルな冒険をこなす。
DOOM、シャドウガード、エクソダス、デスパイス以外のボスや新ダンジョン等々・・・。
当然得られる物の質や価値は段違いだ。僕もミルミルもたちまち人並み以上の蓄財を短期間で得てしまう。ルキさんという人は足りない物を優先的に渡してくれたり、必要な物を率先して取りに行くような冒険内容をあらかじめ決定してくれる。僕たちはついて行くだけでいいのだ。
いや、本来はエミリー氏のような有能な助手を求めていたのかも知れない。
だがしかし、僕もミルミルもどちらかというと足を引っ張る系の冒険者だった。ただ、内心はともかく表面上はルキさんが一切それをとがめたりいやがるようなそぶりは見せなかった。もしかしたら駄目な奴が好きなのかも知れないな。
当時ルキさんを中心にルキさんの邸宅兼ショップに集まってくるコミュニティが形成されていた。僕とミルミルがその常連となったため、その後数年は活発な活動が続いたと思う。サポートするメンバーも入れ替わり立ち替わり出入りするし、新たにメインのメンバーとして仲間入りする者も増えていった。昔のことはしらんが、非常に活発な集団となったことだけは確かだった。
ニューヘイブンで人々は賑わっているが、僕らの拠点はあくまでもルキ邸となった。ところが、それとは別に各所で僕たちのような、何か秘密結社のような動きが見られるようになっていた。
それを将来的な結果で「悪」と単純に決めつけることはできない。だが、確実に自分たちの利益とは相反する存在である。僕たちを邪魔する、自分たちこそ無限の覇者であるという集団がその頃台頭するようになっていた。
有能な用心棒やブレインを擁することにより、急速に勢力を伸ばし一般の冒険者もどんどん取り込んでブリテインの首都や水路と混沌の街ヴェスパーおよびトリンシックやユーまでも支配した。以前僕が悪意のある冷ややかなまなざしを受けた「組織」はあからさまに政治的な局面にも表だって活動するような規模に勃興していたのだった。
もう一度言う。彼らは「悪」でないし、むしろ無限の繁栄を願う集団である。当時その組織に参加した大半の冒険者達は善意の塊のような一般的な冒険者であったといえる。
冒険者専用の暗殺者どもにくらべると直接的な脅威ではない。
ただ、おそらくその集団に無限の舵取りを任せてしまうと暗黒の時代が始まってしまうのではないか?という危惧が常に感じられる危うさもあった。
中心人物には才能はあるが人格にルキさんのような暖かさがない。
当のルキさんはそもそもが組織を越えて繁栄していくのにはまったく異を唱えないしどちらかと言えば党を超えた集団を形成するのを得意としていたのだがさすがのルキさんとはいえ彼らとの共闘は避けた。
あからさまに仲違いはしないものの、ルキさんの庇護下にある冒険者のうち、しだいに彼らに対する不満や実害を受ける者も出てきており衝突は時間の問題かと思われた。
「先生」とも呼ばれる軍事顧問がヴェスパー首長に就任し、私的な傭兵団が一般の冒険者達を恫喝しはじめた。
そもそもはこの人物率いる集団が軍事顧問的な立場になった瞬間から覇道を突き進むように変化したような気がしてならない。決して彼ら組織の一人一人が僕らが危惧するような人物には見えなかったからだ。彼らの元には多種多彩の人材が集った。活動は多岐にわたり活発。そしてそれを対外的に宣伝する発信力もあり、だんだんと人が増えていくとあちらこちらで対人トラブルも目立つようになっていった。
その個々の事案についてはふれないでおきたい。公平なジャッジをするにあたって情報も不足しており、決めつけることはできない。ただ、彼らの周りにもめ事が多発したのは確かだった。
あるとき。
ついに彼らとの闘いの端緒が開かれた。
「先生」と呼ばれるヴェスパー首長エアポークもしくはその影であるキラーAと名乗る暗殺者。そして別働隊として組織された傭兵団が一般の冒険者を襲うようになっていったのである。
一度は軍事顧問として取り込んだ「先生」が暴走をはじめたことにより、大組織となった彼らはトカゲのしっぽ切りを図った。つまり、自組織とは無関係であると表明したのだ。
ただし、彼らの組織内の認識はともかく、一般の無限民からするとそれはやや説得力に欠ける部分があった。彼らのなかの幾人かは相互の組織に参加していたし、相変わらず同じように出入りがあったのだから。
あの「組織」がめざすものが彼らの標榜する無限の平和と愛なのであれば、たまたま、たまに、一緒に冒険をしただけという関係だという強弁を張ることは都合のよい言い訳に過ぎないと多くの者が感じていた。
その、「組織」の長はブリテイン首長、元ブリ銀族の男でゼンニンといった。
無限の悪意を具現化した存在エアポークとその一党。そしてその軍事的手腕を利用しつつ「組織」を肥大化させたゼンニン。急速に色分けをしようとする世界のなか、三つめの組織としてルキさん率いるルキ軍団があげられるようになった。
ここに無限三国時代が到来したのだった。
無限の三国時代は激動の時代であった。英傑達がきらめきを発し、そして流れ落ちて消えていく。
ヨッスが歴史の表舞台に出て行くのはまだまだ先である。
次回「無限評判記 暴れん坊将軍ルキチーム」にご期待ください!
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