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無限三国志1 帝国打倒編

獅子丸一家ってしってるかい?昔無限で粋に暴れ回ったって言うぜ。今も世の中荒れ放題。ぼやぼやしてると後ろからバッサリだ。どっちもどっちも・・・どっちもどっちも!

第一話 帰ってきた男

なんだか無限がおかしい。僕が一時隠棲する前は文化、人の流れの中心は王都ブリテインであり、その象徴であるブリ第一銀行付近であった。
ところが数年ぶりにふるさと無限に帰ってみるとブリ銀に人はおらず、ニューヘイブンに人々のほとんどが居を移していた。
隠棲前もヘイブンには独自の文化を持つ人々が存在したと聴くが、特に交流を持たなかった。だが、今見てみると人の流れの中には間違いなく以前ブリ銀にいた人々の姿も混じっているようだった。
とすれば、なにかがおこって人々はヘイブンに移住し、新たな文化の中心がこちらに定まったに違いない。やれやれ、また僕は無名の流れ者から無限をリスタートする訳か。

「誰だよお前」
ヘイブンでは有名株・・・といったような威勢のよい若者が先ほどからちょろちょろと視界をうろつく不審な人間をとがめるようにいった。
「ヨッスやろ」
以前ブリ銀でも親交のあったミルミルが当たり前のように口にしたが誰もそのヨッスなる僕のあだ名を知らない。「前からおったやん」
「しらんな」
すぐに興味がなくなったように会話を終わらせる若者はすぐに違う人々との旬な会話に興じるため視界を移していた。

「ミルミルよ。ここは・・・このヘイブンは随分と以前と雰囲気が違うようだしほとんどブリ銀の面々は残ってないんだろうな?」
僕は連綿と活動を続けていたであろうミルミルに確認した。
「そうやな・・・でもなれるとやっぱり同じ無限なんだと思うわ」
「まあそうなんだろう」
違和感に一抹のさみしさを感じつつもあらためてヘイブンの銀行前、開けた広場を眺めると確かに似たような雰囲気も残っていた。
「とにかくカムバックだ。装備を整えて冒険者としては一から再出発よ」
「そうやな」
多少力みながら発言した僕は久しぶりに見る友人の昔と変わらぬ態度に安堵していた。
ミルミル、本名はミルミル・ハナゲ=ノビールという。
以前は水路の街ヴェスパーでハナゲショップを経営していたが、ヴェスパーの有名な商店街すらも今では人口の減少で店舗が軒並み撤退する状況であったため、ブリ銀、ヘイブンと時代に合った場所で店を経営し続けている。どの時代も店の規模は小さかったのだが、店主の人望もあってなかなかに繁盛するし人々も親しみを持ってつきあっている。
僕はミルミルの亭主であるムシカとブリ銀時代に交流を持ち、その縁もあって仲良くなったのだった。本来人見知りな僕をすんなり受け入れてくれるのは僕にとって非常にありがたかった。
ムシカは今までのように頻繁に銀行の路地で丸いすを売りながら佇んでる訳ではなく、たまにミルミルの冒険に助けに入る程度であったがそれでもまだ活動してくれていたのはありがたい。無限で親友と呼べるのは昔から数少ないのだ。

言っておくが僕は特に剣術に秀でているわけでもないしものすごい技能も持ち合わせてはいない。人に自慢できる要素は特にはないのだがまぁぼちぼちやっていくのに多くは望まない分復帰後も気長にやることができる。
ところがそうやってのんびりとやっていた長年のペースにある日狂いが生じてきた。
「おにいさま」
古風な家政婦姿の一見しっかりしたメイドさん?という感じの娘がまっすぐな視線を向けながらまるで駄目な生徒を諭すような口調でいった。「その装備ではダメです。えみりがもっとちゃんとしたのを作ります。」
「いやべつに・・・はい・・・おねがいします・・・」
「じゃあおにいさまのお家のポストに届けておきますね」
きびすを返しててきぱきとした歩き方で去って行く。
この人は別に血のつながった妹ではないが、以前ちょっとした縁で僕の自宅の一室に同居していたのが縁で僕を無限での兄と慕ってくれている(・・・んだよなあ?)娘であった。
このエミリーは無限の大富豪ルキという人の屋敷で家政婦をしているのだが、いつの間にかルキ氏のマネージャーというかパートナーというかおそらくルキ家の一切を取り仕切る家令のような存在に成長していた。

で、後日本当に装備が届いたのだが・・・開けてみてびっくりした。無限でこんな上等な装備はまず見たことがない。恐るべき切れ味と魔力を秘めた武器や熟練の冒険者さえも垂涎の防具が一揃い、そこに入っておりおあつらえ向きに僕の身体にあうように調整済みであった。
なるほど、これなら多少僕でも「やれる」のかもしれんな・・・。
無限には足かけ10年以上いるわけだがその間ほぼ財産という財産もなく、倒した敵もせいぜいアイスダンジョンのオーガーロードや氷デーモンが一番の大物というくらい。
うわさではエミリーの雇い主ルキさんは大悪魔や魔界の領主すらも討伐する腕の持ち主で無限一の資産家という話だったがなるほど、エミリー氏のこの武器を見れば今までの僕がいかに雑魚だったかがよく分かるわ・・・。

そんなある日のこと、デスパイスというダンジョンに悪の頭領が自分の血族を増殖させ、勢力を拡大しようとしている・・・という情報を得た僕は新しい装備に身を固めて偵察に赴いた。
どうもこの装備は体に合うらしく、易々とモンスターどもを討伐することができた。
討伐を進めていくうちに今まで進んだことのない奥までたどり着くことができたのは自分でも驚きだった。いやまてよ。なんだかモンスターが尋常じゃない強さになっていくがこいつらは頭領の側近的なモンスターではないだろうか?
頭領の側近は魔法を使うラットマンや強力な弓を使うラットマンに加え、地獄の番犬や銀色の大蛇などを護衛に従えてくる。今までの経験から言うとかなりヤバイ奴らなのだが・・・なんだろう、負ける気がしない。
たちまち死体の山を築くと最終目的地である頭領の潜む祭壇に出た。
そこには一見陽気なピエロ風の男が踊り狂っていたのだったがどう見ても目つきが尋常じゃない。
その周りをラットマンどもが囲むように各々の打楽器でもり立てているように見える・・・が何かの儀式なのか宴会なのかは分からない。
街のうわさでは人間が行方不明になる事件が発生していてその犯人がラッパのような物を吹くと人間をネズミ人間に変えてしまう能力を持つ魔物だと言うが。ひょっとしたらあのラットマン達は行方不明になった人間なのだろうか?
まあいい、今日の所は偵察できただけだからここら辺で撤収を・・・と物陰から立ち去ろうとした瞬間、着慣れない鎧がそこそこうるさい音でダンジョンの鍾乳石にぶつかり、おまけにあわてて立ち去ろうとした先に侵入者用のトラップなのかトラバサミのような物が大きく金属音を鳴り響かせ作動した。
「パフ?」
口にくわえたラッパのような楽器を鳴らして頭領がこちらに振り向いた。
揃って部下どももいっせいにこちらを振り向く。神殿に備えられた多数の骸骨の上には蝋燭の明かりがともっており、物陰とはいえすぐにこちらの姿を確認することができたらしい、いっせいに罵声をあげて襲いかかってきた。
うむ、ピンチなんだが・・・。

さて、問題はこのラットマン達がもともと人間の変化した姿だったとしたらどうしようということだ。討伐するのはおそらくたやすいのだが、倒したあとに人間に戻ったりしたらかなり後味が悪いではないか?
取り巻き達は4人一組ぐらいで波状攻撃をしかけてくる。なかには弓や魔法も混じっているし防ぎきれる自信はない。逃げるべきか、戦うべきか?

ネズミ人間の魔法のダメージと矢のダメージは例の素晴らしい装備によってほとんどいなすことができた。ただし、じわじわと隙を突いてこちらを殺しにかかってくる。包帯を巻けば細かい出血は止まるかも知れないがとてもじゃないがそれをしてる暇がない。

「おにいさま!これを使って!」
後ろの通路からエミリーの声が。同時に何かがまるで円盤のように投げ渡された。しっかりそれをつかむとそれはこぶし大の大きさの護符であり、「ネズミ特効」と書かれている。
「そのモンスターはボスの魔力で生み出されているの。無限に出てくるから手加減してたらダメ。徹底的に殲滅してください!」
なるほど、そういうことだったか。ならば手加減の必要はあるまい。僕は護符を装着すると新たな力を感じた。おまけにエミリー氏が唱えた治癒の呪文が体力を一瞬にして回復してくれた。恐るべきサポート能力。
「そのボス・・・パイパーの正体はネズミです。だからそのタリスマンが効果的なの。えみりのつくった装備なら大丈夫だから安心して戦って」
「はい・・・」
まあ確かにこの武具ならばネズミの化け物のようなモンスターに後れを取る事はあるまい。護符の力によって倍加した武器の切れ味はおもしろいほど易々と取り巻きのラットマンどもを一刀両断した。

たちまち。
取り巻きを殲滅した僕はボスと一対一の状態になった。だがこのボスは案外その辺のモンスターと比べて驚異感はなく、しぶとくはあるがどんどんと追い詰めていき、こちらの有利は目に見えていた。
「パフパフ!」
ラッパのような楽器の音が響いた。なぜか僕は酷く頭痛がして武器を取り落としてうめいた。なんだか気分が悪い。何だろうこの得体の知れない不快感は・・・。じっと手を見る。
「うお!?なんじゃこりゃ」
自分の手が見慣れた人間の手ではなくモンスターの物に変わっている。とはいえこの世界ではそんなに珍しいことじゃない。「変化」だ。
「エミリ氏よ、僕ってひょっとして今ネズミですか?」
「そうです。対策しないから・・・」
「ネズミだと負けちゃう?」
「ネズミのままでも勝てますよ」
「じゃあこのままで行くか」
「倒せばしばらくしたら戻りますから大丈夫」

安心した僕はネズミのまま戦った。どうやらあとで聞いた話ではネズミに変化しない戦い方もあるらしいがまあこの場はこのまま押し切ることにする。

断末魔の叫びとともに正体を現したネズミ人間を、これまたネズミ人間の格好をした僕がとどめを刺した。あたりに金銀財宝がばらまかれ報酬として魔法の証書が懐中に出現した。これがうわさに聞くチャンピオンスポーン。そして報酬のパワースクロールというやつだ。腕利き冒険者がどこからか仕入れてきた物を高額で買ったことはあるが、自分で取得したのは初めてだった。まあ、これもみなエミリー装備のおかげなのだが・・・。

「おめでとうございますおにいさま」
「ふっ、エミリ氏よ。あのような三流ボスモンスターにこの獅子丸が後れを取るわけはあるまいて」
マントでパイパーの血をぬぐいながら虚勢を張った僕は、自分がラットマンの姿であることを忘れながら悦に入っていた。
僕の記憶にあるなかで、この日からだったな。ザコ戦士を卒業したのは。


なぜエミリー嬢は都合よくあの場に現れたのか?そして久しぶりに訪れた無限を取り巻く暗い影の正体とは?
次回無限名作劇場「私のあしながおじさん」をお楽しみに!

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